窓越しに
















「昼、一緒に食べるか」



そう、手塚が持ちかけて来たのが、今日の朝練のことだ。
珍しい手塚からの誘いに、リョーマが二つ返事だったのは勿論のことで。

だから、こうしてリョーマは4時限目の授業が終わるや否や弁当を引っ掴んで部室前まで駆けてきたのだ。

しかし、駆けて来たリョーマの足を止めたのは、部室内から聞こえる手塚と、菊丸の声。
内心二人っきりで食べるんじゃないのか、と肩を落としたが、菊丸と手塚とは、また珍しい組み合わせだと思ってドアの傍にある窓から覗こうとしたが、開いていた窓から聞こえてきたのは自分の話題で。

ついつい、窓の隣で聞き耳を立ててしまった。


「ねえー、手塚はあれでしょ?オチビと付き合ってるんでしょ?」
「なんだ、いきなり」
「手塚はさ、オチビのどこを好きになったの?」

菊丸が手塚に振った話題は、自分もいつか聞こうとしていた話題で、窓枠ギリギリまでリョーマは身を詰めた。
手塚がどう答えるのか、非常に興味があった。

「じゃあ、お前はどうなんだ」

ここからでも、手塚が溜息をついているのが判る。
きっと、いつもの様に眉間に少し皺が寄っているのだろう。

「俺?ってことは、大石の好きなトコ?」

菊丸の声の感じからして、少しニヤついているのだろうな、と思う。
リョーマ同様、菊丸も恋人に関して語る時は笑いが抑えられないというタチだからだ。
リョーマもその辺りは知っていたので、容易く今の菊丸の表情がわかる。そう、手に取るかの様に、明瞭に。

「んー、大石はねえ、まずは優しいでしょー、男前だしー、頭はいいしー、面倒見はいいしー、意外と丁寧で上手いしー、何にでも真っ直ぐだしー、俺を一番に考えてくれてるしー、結構お純でー、それからね、ご飯作るの上手いの!それからねー」
「いや、もういい。聞いた俺が悪かった。というか、丁寧で上手いって何がだ」

(部長、それを聞くのは不粋ってもんでしょ!)

部室の外で内心、ツッこむリョーマと似たり寄ったりな台詞を菊丸がその後そのまま言ってくれたので、内心胸を撫で下ろす。

「俺がどれだけ大石愛しちゃってるかわかってくれた?」
「ああ、判らんでもいいくらいに判った」
「じゃあじゃあ、手塚はどうなのさ?もう、ぶっちゃけて言っちゃってよ、オチビもまだ来てないことだし!」

実はここに居るんだけどね。
そう思い乍らも遂に核心に迫って来た中の二人の会話に耳へ精神を集中させる。

「まさか、一個も好きなところないのに付き合ったりしないよにゃー?手塚がそんな軟派な男な訳ないもんねー?」
「まあ、ないという訳ではないが」

手塚にいつもの歯切れの良さがない。
あまり色事には熱心ではない手塚の事だから、言い澱んでいるのだろうが、手塚と対峙する菊丸はこの状況を楽しんでいそうだ。

「じゃあ、言ってみてにゃ」
「そうだな…」

暫く、室内は音も無く静かだった。
手塚が神妙な顔をして無言で考えているので、菊丸もそれに釣られて特に何があった訳ではないのに神妙な顔をしている。

(ああ、もうー、もっとスパッと言ってよ!アンタらしくもない)

聞き耳を立てている自分の方がドキドキしてしまう。
苛々してきて、もういっそ中に入ってこの話題を止めてやろうと思ってドアノブに手をかけた時、漸く手塚の重い口が開いた。

「強いていうなら、格好良いところか?」

その言葉にドアノブに手を掛けようとしていたままの体勢でリョーマの躯が固まる。

(…今、なんつった?)

「ええー!?オチビが格好良くて好きになったの!?」
「何かいけないか」
「いや、悪いとは言わないけどさー。可愛いところとか言うのかと思った!そうかそうか、手塚はオチビの格好良いところを好きににゃったのかー」

ウンウン、と頷く菊丸の様子など、今のリョーマの頭では想像がつかない。
菊丸の様子だけではなく、今は、耳に何も聞こえない。
目も、今確かに目の前に在る物を見ている筈なのだが、リョーマには何も見えていない。
風もそよいでいる筈なのに、そしてその風に髪が揺らされているのに、触覚も失くしたかの様に、何も感じない。

ただ、自分の血が異常な速度で躯中を駆け巡る音だけが聞こえる。

「具体的には?」

続く菊丸の言葉が漸く耳に入ってきて、リョーマは覚醒する。
正直、もう止めてくれと思った。
菊丸に懇願したくなった。

こんなのを続けられていては、自分の身が保たない。

大好きな手塚の言葉で、自分を如何に好きかなんて語られればそれだけで参ってしまう。
いつも、手塚の視線を感じるだけで妙にソワソワしてしまう。
声を聞くだけで、実はドキドキしている。
いつもラフに手を繋ぐのだって、本当は必死だ。
常に、この手塚への緊張が伝わっているのではないかと困惑している。

リョーマは自分が手塚に押された時の脆さを誰よりも一番判っている。
そして、この時、それを克服しようと心に決めた。

リョーマの心とは裏腹に室内での会話は続けられていた。

「具体的に?」
「そう、どこがってズバッと言っちゃって!」
「そうだな………全部、か?」
「全部…って、えと、つまり、外見とか性格とか、言っちゃえばテニスプレイとかにも!?」
「そういうことになるかな。テニスへの姿勢も格好良い」

(………………!!)

本気でもう止めて欲しいとリョーマは思った。
ドアを背にして、へなへなと座り込み、自分の膝に顔を突っ伏した。

(死にそう…)
「越前、そんなところで何してるんだい?」
「!!」

勢い良く顔を上げれば、そこにはこちらへ向かってきた大石が心配そうな顔で立っていた。

「具合でも悪いのか?顔が真っ赤だぞ」
「だ、大丈夫ッス!!」

これまた勢い良く立ち上がったその眼の据わったリョーマの様子に気圧されて大石が一歩後退した。

「そ、そうか?まあ、中に入って飯にしよう」
「ッス」

大石がドアノブを開けて中に入る。そして、その後にリョーマが続く。
その顔は、耳迄真っ赤で。
それを隠そうと俯いた侭のリョーマに中に居た二人は揃って首を不思議そうに傾げた。






その日の昼食の味は碌にしなかった、とはリョーマの言。



















窓越しに。
でした。
ああ、うう、うちのリョーマは時々、押しに弱いです。
手塚の事が大好き過ぎて。
まあ、手塚がある意味初恋なので。
米国では惚れられてばっかりだったので、惚れるのには免疫が無いとゆう。
でも、やられてるばかりというのはリョーマの性質ではないので、時々強かったりしますが。
うう、もっと、本当はこう、鬼畜ばりに強気なリョーマで居てほしかったりします。
精進精進!
ありがとうございましたー
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