blue
日も傾いた夕刻。
今日も部活を終え、手塚はリョーマと帰路へ着く。
部室から、学校前のバス停までの短かな距離ではあるけれど楽しい時間の筈だった。
そう、『だった』
この日、部活も後半に差し掛かった辺りからリョーマの機嫌が悪くなり始めた。
そして部活が終わる頃には意気消沈、といった様子で、手塚が部誌を書いている間もずっと黙り込んでいた。
時々、リョーマはそんな時があるから、と、手塚は部誌を黙々と書いていた。
寧ろ、リョーマが静かな方が部誌を書く手が進むので黙っていてくれたのは少しばかりありがたかった、と言うべきか。
しかし、バス停までとは言え、折角共に帰っているというのに黙られたままというのは気分が悪い。
手塚はリョーマとの他愛のない会話というのは嫌いではなかった。どちらかといえば好きな方だったので、その想いは余計に増す。
正門の影が自分達の歩く道の先に見えてきた辺りで二人の間にあった沈黙を手塚が溜息で破った。
「何を気落ちしているんだ、お前は」
「……」
手塚がそう声を掛けても、リョーマは黙り込んだままだ。
凝っと自分の爪先を見たまま、手塚を見ようともしない。
手塚が、もう一度溜息を吐く。
「…女子の月の日でもあるまいに」
「………まさか、アンタがそんな下ネタ言ってくるなんて思わなかったよ」
視界の外れで細く笑う声がして、やっと戻ったか、と手塚は呆れ気味にに口の端を上げた。
「でも、まあ、ソレと当たらずも遠からず?みたいな感じかも」
「……男に月経は来ないぞ?」
そうじゃなくて。
手塚には正体が判らない笑いをリョーマは喉でクツクツと鳴らした。
「なんか、女のソレの周期ぐらいでブルーになるの。正しく、ブルーデーってやつだよ」
「…何故だ?」
どういう理屈でそんな日が来るのか、同じ男ながら手塚にはさっぱり判らない。
リョーマの顔を斜め上から眺めていると、リョーマはいきなり足を止めた。正門まではあと少しだ。
リョーマが歩を止めたことにより、隣を歩いていた手塚の足も止まる。
手塚に体の正面を向ける様にリョーマは90度左に回って、手塚をいつもなら強い意志で溢れた吊り上がった眸を向けた。
けれど、普段のその光は今は形を潜め少しばかり寂しい色が翳りを見せていた。
「アンタとの事に不安になるの」
聞き逃してしまいそうになる程の小さな声でリョーマはポツリとそう漏らした。
「それこそ、何故だ」
「だって……」
珍しく眉尻まで下げて、寂寥感で占められた顔色でリョーマは手塚の制服の袖を強く握りしめた。
それを手塚は払いのけることなくされるがままに握らせておいた。
「いつ、かっ攫って行くか判らない敵は周りに多いし、アンタはしょっちゅう好きだって言ってくれる訳じゃないし。
なんて言うかな…惚れた弱み?いつ気持ちが離れちゃうんだろうって思うとさ。不安なんだよ」
今度は、リョーマが溜息をつく番だ。
重く、深い溜息を吐き出す。
「アンタは不安にならないの?」
「ならんな」
リョーマの問いに手塚は間髪入れずに答える。
その手塚の反応にリョーマは更に項垂れた。
「やっぱり、オレのって惚れた弱みなんだよ…あーあ」
「…お前を疑う隙が無いからな」
途端、リョーマは頭を上げようとしたが、上から手塚がその広い掌で頭を押さえ付けて髪をくしゃくしゃと掻き回した。
「ちょ…っ!何してんのさ!」
押さえつけられて頭が上がらない事にリョーマは自分の髪を掻き乱している手塚の手首を捕まえようともがく。
しかしリョーマのその抵抗も何のその、手塚はリョーマを俯かせたままその耳元へと顔を近付けた。
足下しか見えない視界でも自分に手塚が触れてきたのが判ってリョーマももがくのを止める。
「いつも想ってもらっているからな。不安になんてなる訳ないだろう」
囁かれる言葉にリョーマの左胸がドキリとなる。
この相手に恋に堕とされた瞬間あのままに。
耳元から離れることなく、そのまま手塚は続ける。
「俺も…いつも想っているから。お前も不安になるな」
そして何拍かの余韻を置いてから手塚はリョーマの頭を押さえつけていた手を退けた。
手塚から解放されてもまだリョーマは自分の足下を見たままだ。
ぐちゃぐちゃにされたその猫の様な柔らかな髪から覗く耳元は……………手塚の言葉に紅潮していた。
「え…と。あの…」
照れから手塚を真正面に見られなくて、そっと視線だけで見上げてみればその先の相手も耳迄真っ赤になっていて。
所詮、手塚の方がリョーマよりも数段、初心なのだ。
そんな手塚の様にリョーマはついつい噴き出し、笑われた手塚は居心地が悪そうに視線を逸らした。
「あー、可笑しい。アンタ最高!」
そして、リョーマはケタケタと非道く愉快そうに声を立てて笑う。
思う存分笑った後、滲んで来た涙をぬぐってリョーマは歩を進め出した。手塚の袖を握ったまま。
足を止めた時と同様にリョーマにつられるように手塚も歩き出す。
数歩歩いたところで、リョーマは手塚を見上げた。さっきまでのブルーさとは違う、明朗な笑顔で。
「ありがと。また来月、オレに愛を囁いてね。Darlin?」
blue。
落ち込む。という事。
うちのエチは何故だか不安がる事が多いような。
というか、このネタ前にも書いたような書いて無いような…。
最後のダーリン、は普通に愛しい人、という意味でお取り下さいね。
塚リョ要素が多い気がするですが、リョ塚なので。えへ。
まあ、私が書くとどっちが攻めでどっちが受けなんだか判らんことが多いですからな。リョ塚リョ、みたいな。
だってどっちも男の子だから!
だってどっちもカッチョ良く居てくれるのが好きだから!
と、言う訳で。 脱 兎 !
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