September
















9月。
青春学園も世間の小中学校と同じく、新学期を迎えた。

1か月と少しの間顔を見ていなかった級友と久しぶりに会えて、騒ぐ教室の中でリョーマは一人窓の外をぼんやりと眺めていた。
誰が見ても明らかな程にその表情は頗る機嫌がよろしくなかった。

刺々しいまでのその雰囲気にリョーマの周りには誰も近付かない。

窓の外は新学期の始めの日だというのに灰色。
午後からは雨が降るだろうという予報だった。
それがリョーマの苛立ちに拍車をかけていた。

「えちぜーん」

不意に名前を呼ばれて、リョーマは振り返った。
しかし、背後は勿論、自分の周りには誰もこちらに声をかけてきた素振りはなかった。
聞き間違えだろうか、とリョーマが怪訝な思いでいると、また声が聞こえた。

「こっちこっちー!」

窓の外から。

誰だろうか、とリョーマが窓の下を覗き込むと、こちらに向かってひらひらと手を振る不二の姿。

「何か用ッスか」

眼下を覗き込んだまま、リョーマはぶっきらぼうに答えた。

「え、なにー?聞こえないんだけどー??」
「何か用ッスかー?」

口元にメガホンの要領で手を当てて声をかけてくる不二にリョーマもやや大きめに返事をした。

「別に用はないんだけどねー、なんか、不機嫌そうな後輩の姿が見えたから声かけただけだよー。新学期早々、なにむくれてるのさー」
「…新学期だからですよ」
「えー!?なにー!?聞こえないったらー」
「不二ー!?あ、オチビじゃーん!新学期あけましておめでとー!」

菊丸がリョーマにとって死角だった不二の右斜め後ろの場所からひょこりと現れる。
その挨拶はどうなんだ、と一人リョーマは思いながらも、会釈で返す。
「2学期もよろしくねー!!」

勢い良く手を振ってくる菊丸にひらひらと手を振り返す。
満面の笑みで手を振り続ける菊丸を眺めていた不二が何かを心得た、とばかりにリョーマに視線を移す。

「わかったー。越前、あれでしょー?3年は2学期でほとんど学校来なくなるからでしょー?むくれてるのー」

にこにこにこ。
リョーマに告げた後に不二は更に微笑む。
逆にリョーマは片眉をぴくりと動かした。

「3年っていうか、手塚の卒業までまた日が縮まったからでしょー?」
「…そうッスよ」
「えー?聞こえないったらー」
「そうですよ!」
「なに、オチビってばまた手塚ー!?たまには俺らの事も気にかけろってー!俺らも卒業までまた近付いたんだからさー!!菊丸先輩がいなくなるなんてサビシーぐらい言えってー!」
「はいはい、寂しいですよ」
「感情こもってないぞー!!」

自分のほぼ真下でぎゃんぎゃんと喚く菊丸に、お情け程度にひらひらとまた手を振ってみせて、リョーマはまだ苛立たしげ乍らも曇天に視線を投げた。

夏を前にして一度、遠距離を体験し、それが終わったら今度は中学と高校という距離を置かれることに対してリョーマは苛立っていた。
手塚が卒業するまでまだ半年程あるが、それはリョーマにとっては『もう』後半年、といった気分だ。

「ふふ。越前のいない高校では、僕が手塚を独り占めさせてもらおうかな」
「おー、不二、顔が悪い人になってるよー?」

視界の外れの二人のそんな会話がさり気なくもリョーマの耳に届いて、リョーマはもう一度視線を落とした。

「だって、越前は一緒に高校来ないんでしょー?手塚を一人で高校に行かせるなんて酷いよねー」

不二にそう言われて、リョーマはハッとした。

リョーマが一人、中学に残されるということは、手塚を一人で高校に行かせるとイコールであることなのだと気が付いた。

(ああ、ごめん、部長…っ!)

一人、勝手に自己嫌悪に陥る。
何だか涙が出そうな心持ちだ。

そんな一人センチメンタル気分のリョーマに不二が追い打ちを更にかける、とでも言うかの様にまた口を開いた。

「高校では僕が手塚を独り占めしておくから、中学生活を十分に満喫しておくといいよ」
「…にゃろう」

にっこり、にっこりと。
不二は何とも楽しそうに微笑う。

「登下校は何が何でも一緒にするんで!」
「へー、遅刻魔の君が2年、730日間、早起きなんてできるのかなー?」

揶揄する様に不二がやや歪に口元を上げた。
瞳が薄らと開かれていて、隣にいる菊丸が半歩後ずさった。

「オレの部長への愛をなめないでくださいよ」

けれどリョーマはそんな不二に戦くことなく、寧ろいつもの傲慢で不遜な態度で返した。

「そう。楽しみにしてるよ」

そして、不二は開いた瞳をまた瞼の奥にしまった。




「お前ら!3階まで筒抜けだ!話す内容は場所を考えろ!特に越前!」

大団円で幕を閉じるかと思われた不二とリョーマの更に上から、雷が不意に落ちた。

リョーマはその声に下ろしていた視線をぐるりと回して見上げる。
そこには頬を紅潮させて窓枠から半身を覗かせる手塚。

「ああ、ごめんねー!うっかり、ってやつかなー?」
「手塚、新学期あけましておめでとー!」
「部長っ!ごめんね、一人で高校行かせてっ!寂しがると思うけど、登下校は一緒だからねっ!!」

三者三様に手塚目掛けて声を投げる。
それに対して、手塚の肩がついにわなわなと小さくではあるが、震え出した。

「不二、つい、でそういう話をするな!菊丸、その挨拶は何かおかしいと俺は思うぞ!?越前、TPOの意味を辞書で引くところから始めろ!」
「手塚、モテるねえ」

手塚が階下の3人に檄を飛ばしていた同じ階、けれど校舎の突き当たりから乾が頬杖を付いていつの間にやら顔を出していた。

「いくら部長がモテても、オレのものなんで!」
「越前、独占禁止法って知ってるかい?」
「乾、新学期明けましておめでとー」
「ああ、菊丸、おめでとう。今学期もよろしくな」
「…お前ら……っ」

丸で改まらないそんないつも通り過ぎる4人に、プツン、と何かが勢い良く切れる音が響いた気がした。

「全員、グランド20周っ!」



















September
9月新学期明けのリョ塚+α模様。
3階まで筒抜けだったということは、大石は恐らくクラスで胃を押さえていたかと思われます。
…いつも、大石には胃を痛めさせていますね…。ご、ごめんね、ママン!
胃が痛むのは本当に辛いです。食べ過ぎでしか経験ないですが、ストレスで胃が痛むのもきっと辛いかと思われます…。

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