口紅
















椅子に腰掛ける小さな少年の手の中には銀色の硬質な金属。
ロケットみたいな形。

流線型の先の部分がキャップになっている。

蓋を取ってみる。
本体から離れるのをキャップが躊躇するように、少し抵抗する。

中には輝々とラメを含んだオレンジ色の固形物。

蓋が取っ払われたソレの胴体部分を右巻きに回せば中からオレンジ色がくるくる回り乍ら顔を覗かせる。

オレンジ色は先だけ傾斜になっている。
ああ、そうだ、丁度唇と同じ角度で。

オレンジに指を触れてみると、ねっとりとした様な感じがあって。
クレヨンみたいなベトベトさがある。

オレンジを触った指先を見れば、指先にもオレンジ。


「あ、ついちゃった」
「何してるんだ」

後方から近付いて来た彼の声が上から降ってくる。
もう成長を終えた男の様な、でもまだ幼さが残る少年の声だ。

背を後ろへ反り返えさせて見上げれば、自分の髪が耳元を滑り落ちていく音。そして、瞳の先、丁度自分の真上には待ち侘びたあの人の顔。
不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んでくる。

「ルージュ」

一言、それだけ言い放って眼前にあるこの人の後頭に左手を回して引き寄せる。
触れる、お互いの唇。

彼の舌先を突つく程度に舌を触れて、すぐに解放してやる。

唇を話すと、彼の口元から軽く吐息が漏れる。
それにこの小さな獣が更に欲情していることを知っているのか知らないのか。

「廊下に転がってた。誰かの落とし物なんじゃない?」
「それを、なんでお前が拾ってるんだ。使う訳でもないだろうに」

後頭に回した手そのままに、髪に手を埋めて梳いてみる。
それを厭う素振りも彼は見せないから、指に絡めて玩ぶ。

彼の手は自分の手の中にある口紅に伸びる。
さっき自分がした動作とは逆に胴体を回して引っ込めたり、また顔を覗かせさせてみたり。
その大きな掌と指でオレンジを玩ぶ。

「だって、絶対買わないものじゃない?珍しかったから」

拾った、と答える。

「アンタ、つけてみる?使った痕ないから新品だと思うけど」
「却下」

コトン、と口紅を机に置けば軽い音がする。

「こういうのは女性がつけてこその物だろ」
「まあ、ね」

少しコシのある髪を堪能し終わった指は頭の形をなぞって彼の頬に落ちる。
空いていた右手も伸ばして頬に添える。
両手でその貌を包み込む様に。

「アンタが女だったら、綺麗にするためにいくらでもこういうの買ってあげるのにな」

にこり、と笑めば、苦笑した様に喉で笑う目の前の彼。

「俺が女でも惚れてたか?」
「当たり前」

間なんて置かずに答える。
考えるまでもない簡単な答え。

「こんな無愛想な女、嫌だろうに」
「オレには丁度いいよ。お喋りで騒々しい女より全然いい。
  仮にお喋りな女にアンタが産まれたってそれでも好き。
  アンタっていう本質はきっと変わらないだろうから」

そう、彼の性格云々よりも、手塚の中にある本質が何よりも好きだ。と思う。
誰よりも真っ直ぐで正しくて強くて、綺麗な、手塚国光。
でも、時に誰よりも弱くて、脆くて。

誰よりも人らしい。

強く儚い人。
好きだ、と思わずにいられない。
好きだ、と伝えずにはいられない。

だから、何度も伝える。
言葉で、態度で、体で。

そして、きっと伝わっていると思う。

そう思ってもこの想いは止められない。
もっと。もっとこの人を自分の想いで埋め尽くしたくてまた、囁く。

「部長、好きだよ」




















口紅。
なんだか、いや、ホントにSSって感じの短さですいません。
でも、気持ちはズブズブたっぷり詰まっています。
リョーマが拾って玩んでいる口紅は私のお気に入り、トニー&ティナの口紅をモデルにしてます。
しかし、ううん、まだ、何とも手塚の人物像っていうのは掴めてないです。
何せ、まだコミック持ってないですから。
ああー!早く買って行間を讀み耽りたい!!
ありがとうございました〜
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