終夜営業
















手塚が宮崎に旅立って、幾日か経った頃、越前リョーマの機嫌は頗る悪くなった。
そして、100面相になる時が増えた。

眉間に皺を寄せて怒りの表情になったり、溜息をついて諦めたような顔になったり、悲しそうな顔になったりと。
しかも、それに対して何も言葉は紡がないのだから、周りの人間には彼の心中がさっぱり掴めなかった。



「最近、越前変だね」
「…そうっすか?不二先輩」

部活の最中に木陰で休憩をとっていた自分に不意に近付いてきた不二をリョーマは見上げる。
丁度不二が太陽を背にして立っていたので、思わず背後の太陽に目を眩ませる。

「至って、普通のつもりなんスけどね」
「どーこが普通なんだよー!思いっきりヘン!」

不二の背後へ菊丸が飛びかかる。
自分よりも体格の大きな菊丸に飛びつかれて、不二は少し反動で前に屈む。

「英二、重い重い」
「あ、ごっめーん、不二」

本当に悪いとは思っていないのだろう、笑みながら菊丸は不二の背から離れる。
そんな二人の様子を見ていたリョーマが帽子を目深に被り直す。

「いいッスね、お二人は仲睦まじくて」

そのリョーマの言葉に3年6組の二人は吃驚したような怒った様な顔をしてリョーマに詰め寄った。

「ちょっと、オチビ!勘違いしてない!?不二とは友達だってば!」
「越前、今、僕と英二に対して変な疑惑を抱いたよね?」
「いっそ、二人がくっついてれば、不二先輩っていうライバルは居なくてすんだんですけどね。どうです?今から英二先輩とくっ付いたら」

珍しく愉快そうな顔をして笑うリョーマを叩く様な真似をしてみせて、菊丸が溜息をつく。

「こらこら、話題を逸らしてるんじゃないの!」

その横で不二が考え込む様に顎に手をやり、暫しの沈黙の後、何か結論に至ったように顔を上げた。

「越前……拗ねてる?」
「…拗ねてる、というか…」

これまた珍しくリョーマが語尾を濁すと、好奇心に満ちた目で菊丸がリョーマの顔を覗きこんだ。

「なになに!?どうしたの?この頼もしい先輩に話してみてよ!」

その菊丸の態度に困った様にリョーマは数回頭を掻いた後、沈んだ面持ちで口を開いた。

「…部長が、連絡をくれないんスよ」

リョーマが口を開いた途端に不二と菊丸はお互いの顔を見合わせる。

この二人が付き合っているのは公然の秘密とも言える訳で、当然連絡は取っているものだと思っていたのだ。

「遂に、手塚も越前に飽きたのかな?ふふ、やっと僕の時代が来たね」

非道く楽しそうに不二が笑うのを、リョーマは何を勝手な事を、とばかりに睨む。

「オレから連絡するとちゃんと出てくれるんすよ。楽しそうにも話してくれるし。でも…」
「手塚からは連絡はない、ってワケー?」

リョーマがコクリと頷いたのを見て菊丸は考える様に腕を組み頭を捻った。

「手塚にその事は聞いてみたの?」
「いや、ホントに不二先輩が言うようにオレに飽きた、とか言われたら立ち直れそうにないんで、聞くに聞けなくて」
「オチビらしくないねー」

ッスよね。
はあ、と溜息を深くつく。
この状況に憤っているのはリョーマ自身に対してなのだ。
聞いてみたい。聞いてはみたいが、もし否定の言葉が出たら、と思うと切り出せない。

「兎にも角にも、やっぱり本人に聞いてみるべきじゃない?他人は考えるのはやっぱり想像の範疇を出ないしね」
「不二先輩…」

いつもはチラチラと見えている不二の矢印型の尻尾が今日は見えない。
なんだ、この先輩もいいところあるんじゃん。
そう、リョーマが感動しているところへ、所詮不二、というか、矢張り不二はこう言った。

「手塚が飽きたって答えるのを楽しみに待ってるからね」
「……不二先輩」

リョーマの額には一つの青筋が。













「と、いう訳で、どうなの。そこんとこ」

鼓動が異常な速度で打ち続けるのを聞き乍ら、リョーマはベッドの上に畏まって座った。
耳に当てた携帯電話からは驚いたような雰囲気が伝わってくる。
その後に、噴き出した様な音が聞こえてくる。

「ちょっと!笑うとこじゃないでしょ!オレは真剣なんだからさ!」
『ああ、すまんすまん。いや、割とお前にもネガティブな部分があるんだな、と思ってな』

そんなに自分は楽観的に見えていたのだろうか。
電話の向こうに響く手塚の声音を聞き乍ら、リョーマは一人途方に暮れる。

『それでだな、本題だが』
「…うん」

畏まって座った体を一層堅くしてリョーマは身構えた。

『いつかけたらいいか判らんからな』
「へ…?それだけ?」

ああ、そうだが?と電話口から不思議そうな声が聞こえる。
きっと、いつもの様に小首でも傾げているのだろう。

『朝は朝練で忙しいだろうし、昼は学校だろう。学校がない日は練習だろうしな。部活が終わってもお前、父親と打つことがあると言ってたろう。夜は明日の朝練に差し支えるといけないからな』
「え、と。本当に?オレに、飽きた、とかじゃなくて?」
『当たり前だ』

憮然としたような声。
失礼な、とでも言いたげな。

『俺がそんな尻軽な男に見えるか?』
「いえ、とてつもなく堅そうな男の子っぽいです」

其処でリョーマは安堵の嘆息を大きく吐いた。
堅くしていた体も楽にさせる。

『安心したか?』

そして、耳には笑いを含んだ手塚の声が響く。

「安心した。アンタに飽きられたらオレの人生きっと終わったから。
  それにしてもさ、いいよ、いつでもかけてきてよ。オレはアンタに対してはコンビニみたいなもんだから」
『コンビニ?』

言葉の意図が掴めなかった手塚から疑問符が上がる。
そういった不思議そうな声がこちらに居た時となんら変わらない声だったから、リョーマは一人嬉しくなる。

「終夜営業、ってこと」

















終夜営業。
不二菊でも菊不二でもないです。前半部分。
うちの菊丸は大石ラブだし、不二は手塚一筋ですけん。
手塚は時間とか無茶苦茶気にしてそうです。
本当は本人凄くかけたがってたりしそうなんですけどね。
その几帳面すぎる性格が!邪魔しておってだね!(主張

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