君に届かない
リョーマは手塚に届かない。
身長が。
それが歯痒い。
身長の事を一番気にする瞬間、それは、今、この時。
キスを、する時。
お互い、何となくいい雰囲気になって右に立つ手塚の袖口を少し引けば彼特有の涼し気な視線がリョーマに降ってくる。
どこか照れたように目を細めて微笑む仕草はリョーマだけのもの。
それがリョーマにも判っているから、にこりと微笑み返す。
キスを催促する様に袖口から襟元へ手を伸ばせば、相手も心得たもので背を屈めてくれる。
――それはリョーマには口惜しいことなのだけれど。
それからリョーマが足の裏が引きつりそうな程背を伸ばせば、漸く手塚にキスができる。
一度唇が触れればこちらの物で。
すかさず首に腕を回して引き寄せれば足の裏の引き攣りも少しは治まる。
「口惜しい」
お互いの唇が離れてから、リョーマは開口一番にそう漏らす。
「何がだ」
「アンタとキスする時、気付きたくないのに気付かされるの!!」
怒りを含んだ声を手塚に投げ付けて視線を逸らせば、手塚は不可思議そうな顔でリョーマを見る。
見下ろした先のリョーマの頭の旋毛が何気なく目に付く。
(右巻きか…)
「キスする時、アンタは背を屈めなきゃいけないし、オレの足の裏は腱が切れそうなくらい伸びなきゃいけないし!」
ねえ、聞いてるの?
そう勢い良く振り返ればリョーマの旋毛を見ていた手塚と真っ向から視線がぶつかる。
「そう思うんだったら、乾に従って毎日2本ずつ真面目に飲むんだな」
手塚は言及しないが、『牛乳を』2本ずつだ。
「飲んでるよ。不味くて嫌になりそうだけど」
牛乳のあの味を思い出したらしく、リョーマが眉を顰めた。
リョーマの中学1年で151センチというのは、やや低い方だ。
手塚の中学3年で179というのやや大きい方だろう。
そして恋人同士で28センチ差というのは、結構痛い。
しかも言わば彼氏側が低いと言うのはかなり痛い。
「じゃあ、そう気にせずともそのうち伸びるだろ。しかも成長期だ、お前は」
「28センチなんて、明日になれば伸びるってモンじゃないでしょ?アンタ越すには28センチ以上いるしさ」
すっかり拗ねて顔をこちらに向けようとしないリョーマに、いくら強引なこいつでもやっぱり子供なんだな、と思うと笑いが口をついて出る。
「…バカにしてる」
手塚の漏らした笑いを目敏く見つけて、リョーマがその大きな瞳でジロリと睨む。
そこで手塚と車道を挟んだ向こう側の歩道に少々高めの縁石がある事にリョーマは気付いた。
少しそこまでは距離があるので、明瞭とした高さは判らないが目分量でも20センチは確実にあるだろう。
ハタと閃いて、リョーマは手塚の腕を掴んで車道を渡る。
もう時間も遅くそして普段から人通りの少ない道とあって車が来る気配はなかった。
そして自分は縁石の上に乗り正面に手塚を立たせる。
「思った通り」
いつもの様に不敵な笑いがリョーマの口の端を上げる。
縁石は近寄ってみれば目分量よりもやや高く、リョーマと手塚の身長差に若干プラスした程度だった。
それを踏み台にすれば手塚とリョーマの目線が並ぶ。
寧ろ、乗っているリョーマの目線の方が高い。
「目指すはこのくらいなんだよね。最低でもアンタと同じ目線。もしくは少し高め」
不敵に笑んだ表情のまま、手塚の顎へ指をかける。
そのまま顔を接近させようとすると手塚がリョーマの顔を手で押しやった。
「ナニ」
不服そうな声を上げれば、目の前には目元に朱を差した手塚。
「何をしようとしてる」
「キス」
「さっきした」
「さっきのは背の低いオレとでしょ。今はアンタと同じ高さのオレとキスしてよ」
空いていたもう片方の手で押さえてられている側の手塚の手首を掴み、そのまま手の甲へ唇を落とす。
何だかんだ言い乍らも手塚はリョーマに甘い。
伺いを立てられる様にそうされて、溜息を吐き乍らも手の力を緩めて目蓋を閉じてやった。
先程と違い少し自分より高いリョーマに向けて少し顔を上げてやる。
従順しく言う事を聞いてくれた手塚に気を良くしてリョーマは満面に笑む。
そして、顔を少しばかり水平に傾けて、口付ける。
触れるだけの軽いキスの終わりに卑らしい音を立てて離れてやる。
それをキスの終わりの合図にするかの様に。
リョーマからすれば触れるだけのキスなんてキスの範疇には入らなかったが、『リョーマなりの』キスは手塚にはまだ慣れないらしくて中々させてくれない。
特に、今みたいな屋外、という状況では。
実力行使で行えば、怒って暫く態度が冷たくなるのでリョーマも自重するようになった。
「やっぱり、こういう方が楽でいいかも」
「そうか。精々頑張って伸びるんだな」
楽し気に笑うリョーマを一瞥してから皮肉る様に手塚が笑う。
「なんでアンタってそう一言多いかな」
「はて、何かいらない事を言ったか?俺は」
皮肉った笑顔そのままに手塚が歩き出す。
手塚の発言に頬を膨らませたリョーマがその後ろを縁石に乗ったままついて行く。
「最低でもここまで伸びてやるから、アンタはそのまま伸びずに待っててよね」
「そうは言われてもな。……俺も成長期だからな、もう少し伸びるだろ」
「絶っ対それ以上伸びんな」
手塚の眼前に人さし指を突き付けた。
「まあ、アンタの目線下からキスできるのはもうすぐ終わると思うから、今の内に存分に味わっておかないとね」
上機嫌にそう喋るリョーマに適当に相槌を返し乍ら手塚は歩を進める。
そんな二人の影を西日が長く伸ばしていた。
君に届かない。
リョーマがぷりぷり怒ってるのに右巻きか、とか思う手塚が天然ですね、はい。
最近、なんだかいちゃいちゃさせてないなあ、と思っていちゃいちゃさせてみましたが、如何だったでしょうか?
え?もっと?あっはっはー。善処します。
私設定ではリョマは手塚を抜けずに終わります。
身長においては。
テニスは勝ちます。いずれ。
最終的にはリョマ178、手塚185ぐらい?
なんとか見上げはしなくはなりますが抜けはしないとゆう。
そんな訳で、リョマはずっと下から手塚にキスをしかけるんですねー。
リョマ、ごめんね!えへへ!
だって、その方が私にはモエだから!えへへ!(笑い方きもい)
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