ドキドキする
















それはある日の手塚が九州へ旅立った後の青春学園男子テニス部。

手塚が居なくなって、幾日かは流石に気落ちしていた部活も漸く軌道に乗り出したそんなある日。
今日も楽しく、そして賑やかに部活をしていた彼等へ神様からのほんのちょっとの悪戯が行われた。

部活も半ば。練習もヒートアップしてきたその時、雨が降ってきた。
ただの雨ではない。
豪雨も豪雨。そりゃもう、超豪雨。むしろギガマックス豪雨。

あまりの雨の強さにネットを片付けるのも後回しに、部員一同は部室へ駆け込んだ。
小さな部室の窓から外を覗く者、今日の部活の中止を部長代理の大石が告げたのを聞いてさっさと着替え、痛覚が反応する程の雨に打たれ乍ら走って帰って行く者、部室の隅で雑談をして雨が小雨になるのを待っている者。
青学男テニ模様は様々だったが、その中のレギュラー一同は部室に置かれた机を取り囲んでいた。

事の発端は、菊丸の一言だった。

「雨が降ってて部活ができないからこそ、盛り上がったこのテニス熱を冷ます為にみんなで熱くゲームしない〜!?」

そして、手際良くレギュラーを机の周りに集め、何のゲームをするか相談し始めた。

閃いた、不二周助の一言。

「あ、そうだ、アレしよう。手塚のアソコにドキドキしちゃうんですゲーム」
「…不二、なにソレ」

破顔しながら宣う不二に的確なツッコミを与えたのは事の発端者、菊丸英二だ。
不可解な顔をしている菊丸に対して不二は少し困った様な表情になった。

「やだなあ、英二知らないの?いわば、あれだよ、山手線ゲーム手塚版?自分が思う手塚のドキドキする仕草なんかを挙げてくの」

何でそんな事も知らないのか、とでも言いたげの口調に菊丸は唯一言、しらにゃい・・・としか呟けなかった。

「じゃあ、早速始めるよー?順番は今座ってる場所を時計周りでいいよね?」

不二が見渡せば、時計周りには、菊丸、大石、海堂、乾、河村、桃城、越前、そして不二自身だ。

「不二」

早速始めようと柏手を打とうとした不二を乾が止めた。

「なに?乾」
「どうせだから、詰まった者にはペナル茶を飲んでもらおう。これで否が応でもみんな必死になるだろ?」

乾の提案に不二を除く全員はみるみる顔が青ざめていく。
そんなレギュラーの顔色に満足し、乾が自分のバッグから2Lのペットボトルを取り出した。
中身は赤黒く、ほぼ固形に近い粘性の液体が入っていた。
机の上にそのペットボトルを置き、これまたバッグから取り出した紙コップを人数分ペットボトルを囲う様に置いた。

「いいね、ソレ」

当の不二は酷く楽しそうで、そんな雰囲気にレギュラー一同は今さらに必死に手塚を思い浮かべ、該当する部分を探し出した。
机を囲むレギュラー(不二、乾、リョーマを除く)は苦悶の表情で頭を捻っている。

「詰まった人はペナル茶飲んで、失格ね。じゃあ、僕から行くよ」

パンパン!

不二が柏手を楽しそうに打った。

「試合の後の汗を拭う手塚!」

パンパン!

再び不二が柏手を打つ。
その音に不二の左隣に居た菊丸がビクリと肩を震わせた。

「えと、着替えでボタンを留める手塚っ!!」

菊丸、必死の形相で早口にそれだけを述べた。

パンパン!

次は大石だ。

「判らない問題に顔を顰める手塚!」

パンパン!

続いて、海堂。

「コートに颯爽と立つ部長」

パンパン!

答えられた者と不二、乾、越前が余裕の表情で揃って柏手を打つ。

「眼鏡の位置を直す時に少し眼を伏せる手塚」

余裕の乾がいつものハキハキとした口調で告げる。

パンパン!

「えっ!?俺!?・・・えと、えと・・・」

詰まる河村。
そして、にこりと当社比3割増で微笑む不二。

「ブーッ!タカさん詰まった!」
「ええええっ!?」

顔色が真っ青に染まった河村の眼前に乾が容赦なくペナル茶を注いだ紙コップを突き付ける。

「タカさんの、ちょっとイイとこ見てみたい♪最初に3回 チャチャチャ(拍手)、も一つおまけにチャチャチャ(拍手)、 最後に3回チャチャチャ(拍手)」

不二が陽気にそしてリズム良く拍手を繰り返す。 河村もなんだかその気になって両手を挙げている。

『ハイ!一気一気一気一気・・』

河村以外のレギュラーの声がハモる。

その勢いに騙されて、河村が紙コップを威勢良く煽った。
そして、
そのまま真後ろに綺麗に弧を描いて倒れて行った。

河村のその様子を見て不二と乾を除くレギュラー陣から顔色がみるみる引いていく。
倒れた河村はその様を見ていた他のテニス部員により部室の隅へ運ばれ、水を流し込まれ、蘇生が図られていた。

「さ、次は桃からだよ」

これまた容赦なく不二が笑顔で告げて、柏手を打ち始めた。
そこに不二同様、冷静な乾の手の鳴る音が重なる。

パンパン!

「向かってくるボールに集中してる部長っ!!」

パンパン!

「ハラチラ」

リョーマが簡潔に答えて一周し、不二に発言権が戻った。

パンパン!

不二。
「ジャージの襟元から覗く項♪」

パンパン!

菊丸。
「綺麗にスマッシュ決める手塚!」

パンパン!

大石。
「飯時に行儀良く箸を使う手塚!」

パンパン!

海堂。
「部活の号令の時の凛とした声」

パンパン!


「夕暮れの中バス停でバスを待つ手塚」

パンパン!

桃城
(なんで、みんなしてそんなにスラスラ出てくるんだよ・・・!!)
「桃?桃の番だよ?」
「え!?」

顳かみに力を込めて呆れ半分怒り半分で考えていた桃城は哀れ、自分の番に気づき忘れる程まで熟考していた。
名前を呼ばれて辺りを見回せば、微笑む不二に逆光でカップを差し出す乾、そして同情の眼で見詰めてくる菊丸、大石、海堂。
隣のリョーマは興味なさそうに足をぶらぶら遊ばせている。

「え、ちょ・・・っ」

乾が無言で突き付けてくる紙コップから逃げる様に後ずさる。
と、そこへ楽しそうな不二の声が響く。

「はあああああああ、いやさかさっ
  桃が飲む〜よ〜♪飲む〜よ〜♪飲む〜よ〜♪5秒で飲むよ♪ハイ、桃!…5!4!3!2!1!」
「おう、これが飲まらいでか!」

不二のリズムに誘われてなのか何なのか、歌が終わるとほぼ同時に桃城が紙コップを乾から奪い、一気に煽った。
そして、河村宜しく後方へ仰け反って、堕ちた。

そして、河村同様にその他のテニス部員が介抱するべく部室の隅へ急いで運んでいく。

運ばれて行く桃城に一瞥も与えず、不二が再び柏手を打つ。

「次は越前だよ。サンハイ!」

パンパン!

最早条件反射でレギュラー一同は不二に合わせて柏手を打つ。

リョーマ。
「キスし終わった後の悩まし気な吐息」

そんなリョーマの発言に不二の青筋が立ったが、乾とリョーマ以外は次の自分の発言に必死で見えていなかった。

パンパン!

不二。
「抱きついた者だけが判るあの腰の細さ♪」

パンパン!

「え!?不二、そんなに手塚って細かったっにゃ!?中肉中背って感じじゃ…」
「はい、英二、残念賞〜〜」

ついついツッこんでしまった菊丸。
哀れ、その眼前には波々と注がれたペナル茶が入った紙コップが。

「え!ちょっ!待って、待って乾!!」
「英二」

隣を見れば、にこやかに微笑んだ不二がパンッと手を打った。

「かっぱっぱ〜  るんぱっぱ〜  ちょ〜っとペナル茶でぱっぱっぱ♪
  一気飲み♪飲〜んじゃえ☆ちょ〜っとイイ気持ち〜  ハイ!のーめるのーめる…」
「飲める!呑めます!英二ええとこ一度はおいで〜〜っ☆」

不二に煽り立てられるようにして最早お約束に菊丸がカップを煽った。
そして、河村、桃城よろしく、以下略。

そして、またまた不二。

「ハイ、じゃんじゃん行こうねー。じゃ、少しテンポ早く行こっか♪」

パッパン!

先程より1.5倍速程で手拍子を不二が打った。

「じゃあ、大石から!!」

パッパン!

「熱いお茶を飲み下す時の上下に動く手塚の白い喉元!」

大石ももうそろそろ限界の様で顔を真っ青にしながら胃の辺りを抑えている。
持病の胃痛か。

パッパン!

そんな大石を嘲笑うかの様にゲームは進む。

海堂。
「眼だけで様子を見てくるときの流し目の部長」

パッパン!

乾。
「書き物の最中に考え事をして頬杖ついた時の俯きがちな横顔」

パッパン!

リョーマ
「好きだよって言った時に照れて赤くなる顔」

また、不二の顳かみに青筋が現れる。
それに気づいているだろうに、リョーマは不二から視線を外して無邪気に手拍子を打っている。

パッパン!

不二。
「耳に息吹きかけると吃驚する耳も感じ易い手塚♪」

パッパン!

大石。
「コートに颯爽と立つ手塚!」

ピタリ。
大石を除くレギュラーの手が止まる。
何かいけない事を言ったかと、大石は自分の発言が先に海堂が言った事だとは気づかずに残っているメンバーの顔を見渡す。

「大石、それ、さっき海堂が言ったよ?」
「え!?ホントに!?」
「さあ、ズズイと、行ってみようか、大石」

眼前に突き出される紙コップにやはり大石は腰が引けた。

パン!

そこへもう最早お馴染みの不二の手拍子が鳴る。

「パーリラ、パリラ、パーリラ、パリラ、パーリラ、パリラ、ホォー、ホォー、ホォー♪
  大石が飲むってう・わ・さ♪ワサワサベイベ♪ワサワサ♪ボン」

不二の音頭に誘われる様に大石もカップをあおり、以下略。


初めは八人居たレギュラーも半分の4人に減った。
強制退場となった4人のレギュラー陣は部室の隅に寝かせられ、誰一人として未だ意識が戻っていない。

不二
「さあ、じゃんじゃんペース飛ばしていこうね♪次は海堂から!」

パパン!

スピードは最初の凡そ2倍速。
自然に口調も早口になる。

海堂。
「強風に煽られた時にたなびく髪!」

パパン!

乾。
「手塚より背が高い俺だけが知っている手塚のつむじ」

パパン!

リョーマ
「実は腿裏の足の付け根から14センチのところを吸われるのに弱くてその時に上げる甘い声」

パパン!

青筋ビンビンな不二。
「顎裏から喉仏にかけてのライン♪」

パパン!

海堂。
「日に透けると薄茶に光る艶やかな髪」

パパン!

乾。
「いや、海堂、薄茶というよりはあの色は江戸茶だな。黄みがかった茶色だから……と、しまったな」

ついついデータとの齟齬をツッ込んでしまい、乾、敢えなく失格となる。
ノセられて退場した先達とは違い、乾は潔くペナル茶を飲み下して、机から少し離れたベンチに腰掛け、残りのメンバーの様子を伺う体勢に入った。
その手にはデータ採取用のノートとペンが。


「はい。残りはあと3人。張り切って行こうね、二人とも」

「ッス」
「フシュウゥゥ」

崩れる事のない微笑みのまま不二が合図の手拍子を打つ。

パパン!

リョーマ。
「イッた時の泣きそうな顔の部長」

パパン!

最早開眼寸前の不二。
「目線が下な僕だから見られる形のいいおでこ」

パパン!

二人に引き気味な海堂。
「学ランのホックを閉める時に少し顎を上げる瞬間の部長」

パパン!

余裕の笑みのリョーマ。
「耳裏に跡つけても気づかない鈍感なトコ」

パパン!

不二。
「1年の時から変わらない左眉しかめる仕草」

パパン!

海堂。
「サーブの時の真っ直ぐ伸ばされた指先」

パパン!

リョーマ
「指絡ませた時に親指と人さし指でオレの人さし指の付け根ギュッってしてくるとこ」

パパン!

不二。
「意外と体温が高いところ」

パパン!

海堂。
「足首の細いところ」

パパン!

リョーマ
「オレの腕の中でだけ見せる安心しきった寝顔」

パパン!

不二。
「僕と居る時だけに見せる特別な微苦笑♪」

海堂。
「て、天然なところ」

「あれ?海堂、今少し詰まった?」

ほんの少しのどもりさえ不二は見逃さなかった。
にこりと眼だけは笑う不二に海堂は椅子の上で一歩後ずさる。

「そうっすよね、今、ドモりましたよね?海堂先輩?」

不二の鋭いツッコミに便乗するリョーマ。
二人に睨みを効かされ、海堂はたじたじとしてしまう。
不二はともかく、リョーマの睨みには普段は動じないが、この時は状況が状況だけにたじろいでしまった。

そこへ、乾の声。

「不二、それに越前、雨が上がったよ?そろそろお開きにしない?」

言われて窓を振り返ってみれば、さっき迄の豪雨はなりを潜め少しばかり陽が差してきている。

「あ、ホントだね。じゃあ、この勝負の続きはまた今度ね」
「望むところっすよ、不二先輩」

にこにことした不二と不遜な笑みを浮かべたリョーマが対峙していたが、どちらともなく制服へ着替えるべく自分のロッカーへと踵を返した。

ペナル茶の悲劇を何とか免れた海堂は、大きく肩で溜息をついた。
その額には努力と粘りの証の様に、大粒の汗が光っていた。













ドキドキする。
10.5を片手に必死に書きました。
ええ、実はかなり必死でした。書いてるこっちの方が。
意外と海堂は手塚を見ていたりします。
頑張ったね、薫!!(拍手)
何にしても、こういう位置づけの不二は書き易いです。はい。
しかし、手塚が出て来てない…
…………。
ありがとうございました〜
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