見上げて
見上げてみれば、そこは萌える若葉。
昼下がりの午後にそんな木立の下に立った手塚は立ち込める緑の香りに眸を閉じた。
鋭い初夏の日差しもここなら柔らかい。
室内と違って、風も遠慮なく過ぎ去って行く。
耳はそう遠くない校舎の喧噪を聞き入れてしまうが、それと被る様に聞こえる葉の擦れ合う音が緩和してくれる。
酷く、心地がいい、と思った瞬間、頭に何かがこつり、と当たった。
ハタと目蓋を持ち上げて足下を見るとそこには一つのアルミ缶が転がっている。
どうして上から空き缶なんかが降って来るのか。
そう不思議に思ってもう一度見上げると、また何か降って来た。
今度は空き缶の様な物ではなくて、重量のありそうなものが手足を上に放り投げてくの字形になりながら……。
瞬間、呆けた様に見ていた手塚がハタと我に返った。
手塚はもっと早く気付くべきであった。
降って来た空き缶がよく見知った人物が飲んでいるジュースの缶だと言う事に。
気付いていたならば、この後の事故は未然に防げていたであろうに。
そんな手塚をせせら笑うかの様にファンタの空き缶がころころと転がった。
「えちぜ……!!!」
落下してくるものを越前リョーマだと手塚が悟るには、既に時遅し。
受け止めようと手を伸ばすタイミングも完全に逃してしまって、手塚はリョーマに巻き込まれる形で受け止める羽目になった。
「…………いった…」
ムクリ、とリョーマは起き上がる。
ふと自分が何かの上に居ることに気が付いて視線を下ろすと、そこにはこちらを半眼で睨んでいる手塚が一人。
「えっ!?部長?なんでオレの下にいんの?」
「お前こそどうして上から降って来るんだ。取り敢えず、どけ。重い」
ぐい、とリョーマを押しやろうとするが、逆にリョーマは四つん這いで手塚の手首を押さえ込む。
「アンタがオレの下に居るっていうこんないいシチュエーションをオレが逃すと思う?」
にやり。
歪に笑って顔を近付けて来ようとするリョーマに手塚はぷつりと何かが切れて、自由なままの足でその鳩尾を容赦なく蹴飛ばした。
手塚の攻撃で見事に横にリョーマは転がり、その場で呻いた。
「…あり得ない。なんで蹴るの」
「正当防衛だ」
隣で自分が放った攻撃の痕跡の部分を痛そうに押さえるリョーマにそう冷たく言い放って手塚はやっと身を起こした。
「で、どうして上から降ってきたんだ」
「昼寝」
「木の上でか?」
よく寝る奴だとは思っていたが、まさか木の上でまで寝るとは…。猿でもあるまいに。
そう、多分に呆れを含めて溜息を吐くと、苦しそうにリョーマは再度呻いた。
「大丈夫か?」
ついつい心配になってリョーマの顔を覗き込むと、簡単にその隙を突かれてキスを攫われる。
驚いて手塚が離れるとそこには悪戯っぽく舌を覗かせるリョーマの姿。
「お前に情けは不要だったか…」
ぴくり、と手塚の顳かみが反応する。
それに気付いてリョーマは慌てて身を起こした。
「ごめんってば!ついついなんだって」
「つい、でするな、馬鹿者」
ぺし、と軽い音を立てて手の甲でリョーマの頬を窘める。
油断も隙もない――いや、判っていた筈なのだが。
ふう、と手塚は嘆息。
「取り敢えず、危ないから木の上ではもう寝るな」
「だってさー」
「だってもくそもあるか。今回みたいにまた誰かを巻き添えにして着地する可能性だってある」
眉間に皺を寄せて叱られて、リョーマは頬を膨らませる。
「だって、木の上って視点が高くなるから気持ちいいんだもん」
「…………」
「背が高くなったらこういう気分かな、って思えるじゃん」
「お前は…」
脱力したように手塚が大きく肩を落としてみせる。
そんな手塚を不思議そうにリョーマは覗き込んでみる。
「どこまででかくなるつもりなんだ」
リョーマが寝ていた木は優に2mはある。
こいつは2m以上もの長身になりたいのだろうか。いくらなんでもそれはでか過ぎだ。
「取り敢えず、俺の身長を抜ける程度で我慢しておけ」
「そうなんだよね、まずはアンタを抜かさないと話にならないんだよね」
「早くしないと、俺もまた伸びるぞ」
「少しくらいアンタも待って欲しいもんだね。ホントに」
見上げて。
本日の天気、晴れ時々越前さんが降るでしょう。
降って…こないかな、えち。(ありえないから)
降って来たら軒先にでっかいバケツを用意して待つんですけど。
でも、手塚が現時点で179で、これからも伸びる、という計算でいくと2mはないとな…。
テニスプレイヤーには2mはザラと聞きましたが、ホントか!?
リーチは長い程有利だそうですが。
100題トップへ