夏気球
















気怠い気怠い英語の授業。
もうこの授業中はリョーマが呆けて過ごすのは当たり前になった。
寝ていれば教師が怒るから、取り敢えず起きているに過ぎないのだけれど。

ぼんやりと窓の外を眺めれば、都会のこの地では珍しく空には気球が浮いていた。

「へぇ…」

ぷかぷかと云った様子で緩慢に気球は上空を漂う。
それに伴ってリョーマの視線もふわふわと夏の快晴の空を漂う。

「…久々に見たかも」
「越前、何をぶつぶつ言ってるんだ?授業に集中しろ」

不意に教壇から教師に窘められて、リョーマは口を噤んだ。
優に30人は教室で机を並べているのに、教師のなんと目敏いことか。否、ただ英語の授業ではリョーマはブラックリスト扱いだっただけなのだけれど。
リョーマも薄々それには勘付いていたから敢えて口答えはしない。
黙秘で肯いてみせるのが一番有効だと云うことを覚えたから。

リョーマに注意をしてから、教師はまた黒板に向かうからリョーマも一旦そちらへ視線を動かす。
頬杖を付いて先程気球を眺めていた様にぼんやりと教師が走らせるチョークの先を眺めた。

(あ、スペル間違ってやんの…)

教師の些細なミスを容易に気付き、興醒め、とばかりにまた視線は窓の外へと向かう。
元より一縷の興など持ち合わせてはいないのだけれど。

先程よりも気球は少し動いている。
彼よりも更に上空に漂っているであろう雲の動きの方が早い。

(追い付いたら面白いのに)

寧ろ、気球が雲を追い越せばいいのに。
そんなに高速で進む気球などすでに気球ではないのだが。
しかし、無意識にそう思ってしまうのは越前リョーマという少年の性分だろうか。

つい先日に覚醒した性分。性質。

更に上を。更なる強さを。
あの人を追い、並んで、そして追い越す。

しかし、その先は?
追い越した後は。


リョーマの視界で気球がまた後部からやってきた白い雲に追い抜かされる。
仮に。
あの気球のスピードが今、何かの契機で上がったとすれば。
少し前方を漂う雲を追い抜かしたとすれば。
その先は。

(あの人を追い越した後…)

視界の中の気球を夢想の中で加速させてみる。
雲を追い抜かす。
その後は。その次の瞬間は。

また、次の雲がある。

(あの人と違う人を追い越す事を目指す?)

そんな人間はきっと居はしないのではないか。
目指すのはあの人ただ一人。

そして、目指すあの人は強い。
追い抜かした後は、きっと、今度はあちらが追いかけて来る。
自分が負けず嫌いな様にあの人も比類無い程に負けん気が強い。

きっと、追いかけてくる。

気球に抜かされた雲はきっと今度は気球を追う。
そして、また気球を追い越したら、
今度はまた気球がその雲を追う。

生憎、地球という世界は球体で終わりはない。
気球の燃料が切れるか、雲が雨に変わって大地に降りるまで空でのゲームは続く。
終わりはない。
気球の燃料が切れれば一度大地に降り立ってまた燃料を補充すればいい。
雲が雨として大地に降りたとしてもまた水蒸気として空へと昇る。

先刻までお互いを追い抜かす事に必死だった気球と雲は、きっと搭乗者が変わっても、雲の形が変わってもお互いを見つけだす事は容易いに違いない。

終わらない。
きっとこの恋は終わりがこない。

(一生、アンタだけってことかな)

いつの間にか現実の気球は遅々として進んでいたらしく、リョーマの視界から消えていた。
向こう側から手前に進んできていたので、きっと今頃は校舎の真上にまで来ているのだろう。

教師は先刻から黒板に正面を向けてアルファベットを書き連ね、その説明なのか何かを話している。
こちらからは相手の背中しか見えない。
こっそりと、リョーマは窓から真上にあるだろう気球を見ようと少し体を覗かせた。
気球は、校舎の真上にももういなかった。
雲を追いかけてスピードでも上げたのだろうか。

気球が見つからず、さも残念そうにリョーマは肩を竦めて覗かせた体を教室内へと引き戻しにかかる。

けれど、空までは高くない1年2組の教室の2階上、若干左側の窓枠。

(3年1組ってあそこ?)

あそこにあの人がいるのだろう。
最終地点であり、共に最後まで隣り合いたい人。

(部長はあそこ?)

近い、けれど遠い。
不意に顔が見たくなった。

今日は何が何でも一緒に帰ろうと思った。

























夏気球。
これに、夏、は、意味がある、の、か…。がっくり。
だ、だって夏じゃないと窓開けないじゃないですか!!(必死
窓開いてないと身を乗り出すとかできないし!!
冬に窓開けたら他の生徒から怒られますし!!
夏!夏なんです!
窓開けたから、あー、今日一緒にかえろーって思ったんですよ
…なんで、こんなに必死に弁解してるんだろう、わたし…
弁解せずとも意味の通じるものを書けるようになりたいですね。や、切実に。めそ

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