かさぶた
















暑い。
茹だる様な陽の光と熱。
まだ梅雨が明けたばかりだというのに。

「…暑い」

桃城とラリーをしつつぽつりとリョーマは呟いた。
そんな彼は顔いっぱいと言わず、全身に汗をかいていた。
額から汗が輪郭を伝って顎へ流れ、一滴、コートへ落ちる。

「…暑いんスけど」
「越前、言うんじゃねーよ。より暑くなるだろうがよ」

向かいに居る桃城もリョーマに負けないくらいに発汗していた。
既にTシャツは多量の汗のせいで肌へ吸い付いている。

「水浴びたいッス」
「俺だって浴びたいけどよ…」

ぐい、と桃城が腕で額を拭う。
額にも腕にも汗をかいているせいか、あまり額の汗を拭えた、という感じはしない。
むしろ、汗のせいで腕が額でずるりと滑る。

「…今日に限って水道工事なんてついてねーな。ついてねーよ」

授業が休みの今日、青学では水道工事が行われていて学校中で水が出ない。
その上、テニス部は猛暑の中、一日練習ときている。
週の始めの天気予報でも晴れるとはあったが、まさかここまで過度に晴天になるとは。
しかも、いくらそんな日だからと言っても工事の日は延期できるものではなかったらしい。
熱中症にならない様に休憩は度々入るが、日陰に居ても暑い。水浴びの一つでもしたくなるというのに。

ついてないにも程がある…。

とは、青学テニス部一同、心の声。

既に真上に辿り着こうとしている太陽は加減をしてくれる様子もなく照りつけている。じりじりと。
そして、じわりとリョーマの背にも桃城の額にもまた汗が浮かぶ。
それを拭っても汗は次から次へと出て来るから始末が悪い。

「暑い」
「…あちーよ」
「暑い暑い暑い」
「わかってるっつってんだろーが!こっちまで暑くなるから止めろっつーの!」

桃城が怒りを孕ませ、大きくラケットを凪ぎ払った。
ただでも桃城の打つ球は重いというのに力任せに返球されて、さすがにリョーマも打ち返しきれず、ラケットが弾かれて地に落ちた。
カラン、と軽い金属が跳ねる音がこだまする。

「…ただのラリーで力入れ過ぎっすよ、桃先輩」
「お前が暑いばっか連呼するのが悪いんだろーがよ!」

怒鳴られると更に暑くなってきた気がする。というか、大声は何故だか暑苦しく感じる。
被っていたキャップを脱いで、扇いでみるがちっとも涼しくならない。
ふらりふらりと揺らされるキャップも汗を含んで少しばかりじっとりとし始めていた。

暑い。ただ只管に暑い。

「…ヤになってきた」

どうしてこんなに暑いのか。異常気象にも程がある。
遂に我慢の限界を越えたところまで来てしまい、リョーマはがばりと勢い良くTシャツを脱いだ。

まだ暑い。暑いけれど、これ以上は脱げない。
いくら男子しかいないと言えど。
そしてTシャツ一枚取っ払ったところでそんなに温度の差はなくて。
どこまでも天候は優しくなく、微風すら漂っていない。
素肌に触れるのはただの鋭い日差し。

「あーーーーーーーーーっ!」

そして、リョーマがTシャツを脱ぎ捨てるのと同時にコート内に響き渡る声。
なんだろう、とリョーマが振り返るとそこには心配そうな菊丸の姿。
?と首を傾げていると菊丸が跳ねる様にこちらへやって来て、リョーマの背中を撫でた。

「オチビ、だいじょーぶかー??」
「…なにがっすか」

暑いのに、ベタベタ触らないで欲しい。
内心そう思いつつも何故撫でられているのかさっぱり判らない。
しかも大丈夫か、とはどういうことなのか。

桃城も不思議に思ったのか、こちらへやって来てリョーマの背後へ回った。

「うっわ!」
「ねー、痛そうでしょ?」
「ッスね」

こくこく、と桃城は激しく頷いてみせる。
自分の背中に何かついているのか。見えないだけに苛立ちは募る。

「なんなんすか」

だから、ついつい語調もきつくなってしまう。
それを気に留めた様子もなく菊丸はリョーマの背を指差した。

「なんなんすかもなにも、コレだよー。背中のかさぶた」
「かさぶた?」

背中にケガをするような事等、身に覚えがない。

「ひっ掻いたみたいな感じ。傷自体はちっちゃいんだけど、縦に何本も入ってるよ」
「越前、あれだろ、ネコにひっかかれたろ。お前んちのあの毛むくじゃらのタヌキみたいな」
「カルビン?」

生憎と越前家の愛猫は人様に爪を立てる様な真似はしない。
そう口を開きかけて、ふとリョーマの脳裏をよぎるものがあった。


暗闇の中、自分の下で跳ねる恋人の姿。
そして、自分の背に回された指。
何かに耐える様にしがみつかれ、背に爪を立てられた。


それは、つい昨日の事で。

「…ああ、ネコ、ね。あれも、まあ、ネコに入んのかな」

普段の眼光の鋭さは似た所があるかもしれない。
にやり、と口角を歪に上げたリョーマに菊丸と桃城は不思議そうな顔をする。

「ネコに入るってどういうことにゃー?ネコに引っ掻かれたんじゃないの??」
「企業秘密ッス」

その悪どくも見える笑みを更に深くして、リョーマはコートに脱ぎ捨てたTシャツを拾って袖を通した。
汗を多分に吸って正直気持ち悪いが、背中のコレは自分だけの勲章なのだ。
誰かに見られるよりも自分だけのものにしておきたい。

「あー………暑い」


















かさぶた。
まあ、あの、薄皮引っ掻いたぐらいの傷ですんで。
お前ら激し過ぎ。というお話。多分。(え。)
しかし、冬もそろそろ到来かと言う時になんと季節感のないものを…!
ありがとうございましたっ
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