幻想庭園
















「アンタが居るだけで世界が違って見える」



帰り道の公園で、矢鱈に上機嫌に笑うリョーマを手塚にその理由を問えばそんな答えが帰ってきた。
お互いにテニスバッグを肩に担いで、手塚はそれに学生鞄もぶら下げて。
肩こそ並ばないけれど、後ろに伸びた影から生えた枝は先が絡み合う。


「違う?」
「うん、一人で見る世界と全然違う。例えば、この公園も」

そう言って、リョーマは足を止める。手塚も足を止めた。

ぐるりと、リョーマは辺りを見渡す。

其所には別段、変わったところなどない、至って普遍的な都会の中の公園。
強い西日を背に受けて、木々は黒い影になり、遊歩道の脇の芝生は鈍色に輝く。
林のすぐ向こうの長方形のビルに灯った灯りがもう明るく見える。

リョーマの視線を追って視線を動かす手塚の視界にはそれしか映らない。
けれど、

「やっぱり、違って見える」

リョーマには違って見えた。

「違う…とは?」
「幻想的な感じ」

にこりと手塚に笑顔を向けてから、リョーマはその表情のまま、瞼を下ろした。

「隣にはアンタが居て。手の平にはアンタの体温があって」

それを感じながら自分が存在すると、そう見えると、リョーマは続ける。

「アンタは、いつでもオレに違う景色を見せてくれるよね。アンタは簡単にオレの世界を引っくり返してくれるよ」

出会ったあの日からも。
高架下のあの日からも。
リョーマの世界は手塚によって変わる。

「…お前の世界を変えるのはお前が言うほど簡単じゃなかったがな…」

苦笑と嘆息を併発させて呟く手塚をリョーマは見上げた。
いつもなら日に透けるその髪が逆光のせいでいつもより燻んで視界に飛び込む。

「そうなの?」

尋ねてくる瞳は喜色で溢れ返っていて。

「ああ」

それに返す瞳もふわりと和らぐ。

「骨が折れた」
「それはゴクロウサマデシタ」

ちっとも申し訳なさそうに、寧ろ骨を折らせた事を楽しむようにリョーマは歌う。

「だが、お前が変わる事で俺の世界も変わった」
「どんな風に見えてるの?」
「…お前と、」

多分同じだ。
幻の様に果敢ないのだけれど、けれどそれに囚われるような心地。

「隣に居るだけで?」
「ああ。お前が存在している事実だけで今の俺には世界が違う」
「オレも」

ふわりと微笑う。

「これからももっと新しい世界、オレに見せてよ。幻みたいな見た事もない世界」
「消えていかないリアルな幻をな」

リョーマの足が歩みを始める。
幻想庭園の出口へと。
























幻想庭園。
…なんだろう、これ。
…最初の一文が書きたかっただけです。多分…。(ぇー)

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