風と行く道
天高く馬肥ゆる秋。
9月といえば、初秋の時期である。
しかし―――――。
「あっつい!!」
額から流れて来る汗を半袖から剥き出しの左腕でリョーマはぬぐった。
「ねえ、9月って日本は秋で涼しくなってくるものじゃないの!?」
「…本来ならな」
リョーマの隣を歩くのは手塚。
彼もじんわりと膚に汗を滲ませていた。
「最近は異常気象だからな。日本も例外ではない」
「だーーっ!サギだ!これならまだロスのが良かった…っ!」
あついあついあつい、と囈言か何かの呪文の様にリョーマは繰り返す。
そんな彼の愚痴を聞き乍ら、手塚はまだ日の高い空を見上げた。
「越前、9月は日本では何と呼ぶかしっているか?」
「9月は9月でしょ?くがつ」
違うの?と問いかける様なリョーマの目を捉えて手塚がくすりと微笑った。
「長月というんだ。ながつき」
「ながつき?なんで?」
手塚がいつもそうする様にリョーマが小首を傾げた。
自分の癖が染ったのだろうか。
ならば、手塚も気が付いていないところでリョーマの何らかの癖がついているのだろうか。
それが遅刻癖でないことを祈るばかりだ。
「9月になると夜が長くなってくるんだ。だから長月と言う」
「ああ、聞いたことある。秋の夜長ってやつでしょ?」
「そうだな」
日本は昔からそうやって季節の移り変わりを楽しんで月の名前にしたのだ、と手塚は続ける。
睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走。
それぞれに気候や習慣を由来にして名付けられたのだと。
寡黙な平素とは違い饒舌に聞かせる手塚にリョーマは相槌をうったり、感嘆の声を上げた。
「アンタもさ、季節みたいに移り変わるよね」
手塚が一通り講釈を終えたところでリョーマはそう口を開く。
にこり、というよりはにやりと歪に笑って。
「そうか?」
「そう。笑ったりとか怒ったりとか、悲しんだり、とか」
「そうか?」
同じ様に問い返す。
自分が寡黙だとか無表情という自覚が手塚自身にもある。
喜怒哀楽は勿論あるけれど、あまりそれで表情が変わらない。
それを揶揄う様に乾に柔軟が必要だと言われたこともある。
「そう。ほら、季節ってさいきなり変わったりしないじゃない?ゆっくりゆっくり変わって行くじゃない。俗に言う、うつろう、ってやつ?」
顔を顰める様に考える手塚が可笑しいのか、歪めた笑いから無邪気にリョーマは転じる。
「アンタも季節みたいにほんの些細な変化で変わっていってるよ」
そんな微細なものまで判る位置にリョーマは来た。辿り着いた。
これは大いに自慢したいところだ。
「そうか…。じゃあ、お前はさしずめ風だな」
「風?なんで?」
「風が季節を運んでくるだろう」
暖かな風が吹いて大地や自然が芽吹いたり、また逆に凍える風が木々を散らし冬を迎えさせる。
こくり、とリョーマが手塚を見上げ乍ら頷いた。
そしてそんな風のように、
「俺の変化は、」
リョーマは手塚を
「お前が運んで来た」
変えられる位置迄来ていたのだ。
ひっそりと二人の上を秋茜が飛んでいったことを二人は知らない。
秋は、確実に近付いている。
それも風が運んで来ている。
風と行く道。
リョ塚人生街道。
始めは25題目の「September」のノリで書き出したから9月が頭に出て来てるというのは公然の秘密です。
ややや、また行き当たりばったりで書いてますな!?
いやいや、まさかそんな………。
………。(その沈黙は何)
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