冗談じゃない
いつからだろう、僕が手塚に惹かれていったのは。
始めは、そう、凄く物静かな人だなって思って。
それから、一緒に部活をしていてテニスの巧みさに気付かされて。
上手いな、って思ってずっと視線で追ってるうちに、あまりにショットの打ち方とかサーブの仕方だとかが綺麗なものだから遂には目が離せなくなって。
そうだね、それから、気が付けば好きになってた。
テニス以外の君の一面を知ったり、君の本質を知ったりするうちに。
どんどん惹かれて行った。ブレーキが壊れたみたいに。アクセルから足が離れなかった。
次第に好きだと言う想いは容積を増やしていって。
君の些細な表情に気が付けるまでになって、いつも隣に居てくれれば、なんて思うようになった。
僕だけを見ててくれたら、って思うようになった。
そんな胸の内を告白しようと思ったこともあった。
あったけど、強引に振り向かせたくなくて、大石と英二みたいに自然と二人連れ添える様な関係になりたくて、結局伝えていなくて。
そして、君が僕の気持ちに気が付くこともなくて。
時々、感心するくらいに聡いのにどうしてこういうところで変に鈍いんだろうね、君は。
苛々はしないけど、溜息の一つでも吐きたくなるよ。
現状がこんな事になっちゃったのは、僕がそんな風に躊躇っていたからなのかな。
手塚、君が選んだのは僕じゃなくて、越前だった。
学校で乾からそれを聞いた時は一瞬何の事だかわからなくて。
家に帰って部屋で一人になった時に乾の言葉を思い出して、反芻し続けて、やっと言葉の意味を理解して、胸がチクリと痛んだ。
一度痛み出すと押さえきれないくらいに痛みだして、あまりの痛さに泣いてしまうかと思った。
その時は、行かないで、と泣いて叫べそうだった。
言葉の意味を理解したのが自分の部屋で良かったよ。もし乾から聞いたその瞬間に理解していたら君の元へ走って、泣いて縋って僕だって君が好きなんだと想いをぶちまけたかもしれない。
君を困らせたかもしれない。
なんでだろう。僕は君が僕を絶対に好きになるとどこかで考えていた節があった。
自意識過剰な性格ではないけれど、2年と少し友達として隣に居て僕に多少なり気を許してくれている君がいたからなのかな。
迂闊だったんだ。
君も僕みたいに友情から愛情へ変えてくれると思っていたなんて。
いくら気を許してくれても、所詮それは友情の域を越えるものではなかったことに早く気が付くべきだった。
だって、この僕の想いは嘘でも冗談でもなんでもないんだから。
冗談じゃない正真正銘のこの想いをどこへどうすればいいのか判らない。
いっそ忘れてしまえば楽なのかな?
でも、君は友達として傍にいるものだから忘れられるわけもない。
君を見るとやっぱり好きだと思ってしまうから。
無意識で君を視線で追いかける度に、そう思ってしまうのだもの。
君を好きでいることはとても楽しいから忘れるのなんて勿体ないっていうのもあるんだけどね。
だから、喩え君が越前を好きでも僕は君を好きでい続けるよ。
越前のことだから、君を離したりはしないと思う。
あの子は本当に君の事が好きだと思うし、一度手に入れた大切なものを易々と手放したりするタイプでもないしね。
僕にチャンスなんてないかもしれない。
それでも、この想いは止められないんだ。だから、せめて好きでいさせて欲しいんだ。
越前の事を想ってる横顔でも、それでも僕は好きだから。
君を手に入れた越前に頻繁に妬いてしまう。だから時々牽制めいたことを仕掛けてしまうんだよね。
僕だって手塚が好きなんだ、って意図を気付かせつつね。
妬いちゃうけど、今は、ただ君の幸せを祈ってる。
幸せを分ち合える相手が僕じゃないのはちょっと残念だけど。
君に幸せでいて欲しいから、この想いは伝えない。
下手に波風を立てて君を困惑させたくないし。
それに…僕は未だ、君の口から僕じゃなくて越前が好きだなんて聞いて我慢ができるような寛容な男じゃないからね。
越前から手塚のことが好きだと聞いても戯言にしか聞いてあげないけど。ふふっ。
手塚、君が未来永劫幸せでありますように。
だから、越前とのことで悩むことがあったら僕のとこにおいで。
相談にものってあげる。
越前を叱ってもあげるから。
君に、幸多からんことを此所からいつまでも祈ってるよ。
冗談じゃない。
冗談じゃなくて本当に不二は本当に手塚が好きなんだよーという独白なお話でした。
リョマから無理に奪おうとはしません。
自然に奪えるならいつでも奪ってやろうと実は虎視眈々(笑)
片想いは辛いようで、実はちょっと楽しいものかも。
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