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三度目のキス
薄く開いたカーテンの隙間から朝日が零れ始めて、リョーマは覚醒した。
まだ頭は霞がかかった様にぼんやりとしていて、いくらか目を擦り時計に目をやると時刻は朝も始まったばかりの時間で。
随分と早く起きたな、と緩慢に思った。
時計から視線を外して、枕元に移せばそこにはこちらに背を向けて眠る人。
掛け布団から覗く肩は素肌のそれで、昨晩の睦言をゆっくりと回想するには充分だった。
一人悦に入りつつ、その覗いた手塚の肩にゆっくりと手を這わし耳元へ口を近付ける。
「おはよ」
そう囁くと手塚は少しばかり身動いでこちらを向いた。
いつも毅然としている手塚ばかりを見ているリョーマにとって、こんなにぼんやりとした手塚を見られるというのは非常に幸運な事と言えよう。
こんな姿を見られるのは自分だけだと思うと何だか擽ったい。
音を立てて手塚の頬に唇を落とし、リョーマはまた囁いた。
「部長、朝だよ。起きて」
「…嫌だ」
手塚がもそりとまた布団を被り直して目を閉じた。
その動作に流石のリョーマも面喰らって、二の句を告げないでいると手塚から規則正しい寝息が聞こえてくる。
「…ちょっ!アンタってこんな寝汚かったっけ!?」
這わせたままだった手で肩を揺さぶる。
別に寝ていても構わないのだが、てっきりすんなりと身を起こすと思っていただけに何だか慌ててしまう。
すると、眉間に皺を寄せた表情で手塚がまた目蓋をゆっくりと上げた。
「…腰が痛い」
「へ?腰?ああ、そりゃ昨日オレが頑張っ……」
めきょり、と奇怪な音を立てて手塚の拳がリョーマの顔面に埋もれる。
まともに手塚からの鉄拳を喰らい、リョーマは顔を押さえて呻いた。
「そう明から様に言うなと、何度言えば学習するんだ、お前は」
「アンタこそもう少しこういうのに耐性を覚えて欲しいもんだね」
目尻に涙を浮かべつつリョーマは反論するが、手塚はもう布団に潜り込んでいた。
ここまで頑固に寝ようとされると何が何でも起こしてやりたくなる。
睡眠の気持ち良さを知ってるだけに普段ならば寝かせてやっただろうが、越前リョーマという少年はあまりに変な所で意固地な性分があった。
彼の言葉を借りれば、「まだまだだね」と言ったところか。
「ねえ、オレはもう目が覚めちゃったんだってば。アンタも起きてよ」
揺すってみるが、彼からは何も反応がない。
「ねえってば」
「…うるさい」
揺すり起こそうとするリョーマの手を払いのけて、手塚はまたもそりと寝る体勢を整えた。
それにムとしたリョーマが背後の気配で感じ取れる。
さすがに聞き分けがなかったか、と頭の隅で手塚は思う。
余りに、迂闊な考えだったのだが。
「…そうだな、キスされたら起きる」
手塚なりの情けをかけて、そう言葉を投げると途端にリョーマが嬉々として上から覆い被さってきてさらりと唇を攫っていった。
自分からかぶりつかれる様な餌を晒していただけに甘んじてそれを受け入れてやる。
そして、仕様がないな、と身を起こそうとするが覆い被さったリョーマが退かないのでそれは徒労に終わった。
もう一度言おう。手塚はあまりにも――迂闊であった。
「…越前?」
不審気に目を薄く開くとそこには悪戯気味に微笑むリョーマの姿。
「まだ起きてないよね?」
先程はさらりと奪って行っただけのキスとは打って変わり、やんわりと手塚の唇を食み、濃厚に口付けを交わす。
一人展開に付いて行けず、リョーマの下で手塚はシーツを握り占めて耐えた。
手塚の背が反り返ってシーツから僅かばかり浮く。
果たしてそれは驚愕故か快楽故か。
その握力も緩んできた頃、漸くリョーマが手塚を解放した。
浮かせていた躯をシーツに落とし込んで、息も絶え絶えな手塚にリョーマは最上の笑みで口を開く。
「おはよ」
「…お前は…っ!」
「キスしたら起きるって言ったじゃん」
上機嫌なリョーマの顔面へ向けて手塚の拳が振り下ろされるのはこの半瞬後。
三度目のキス。
うん、まあ、手塚はきっとリョーマより早く起きてるとは思うんですけどね。
キスしてくれたら起きる、とか、多分、普段はリョマさん側が言ってるとは思うんですけどね。
たまにはさ、たまには、ホントにたまにはみちゅに誘わせたいじゃないですか。(は?)
誘い受けはね、大好物なんですよ。大好物なんですけどまだ上手く書けないんですよ…っ(涙
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