記念日
















この日を記念日にしよう。
誰と分ち合うでもない。ただ一人だけの記念日に。

それまでと何ら変わらない筈の日々が目覚めた瞬間鮮やかに色付いたこの日を。






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リョーマの部屋におざなりに飾られたカレンダーの今日の日付けが赤で塗りつぶされているのを見て、手塚ははてなと首を傾げた。
たしか、今日は何の日でもない。
何か覚えておかないといけない日だったろうか?
記憶のページを繰ってみるが、それらしい事は思い当たらない。

リョーマと付き合い出した記念日はまだ遥か先だし、
お互いの誕生日でもない。
試合の日でもないし。

「忘れているだけか…?」
「何が」

誰にも聞かれていないと思った独り言に返事がしたことに些か手塚は驚きつつも、その返事をした声に聞き覚えもあるし、第一、この部屋に居てする声なんて一人しかいない。
手塚は緩く首だけを捻って後方に視線を移した。

ドアの前に立っていたリョーマがひょこひょこと手塚の傍らへとやって来る。
癖が若干ある猫毛が少しだけ揺れた。
手には二人分の飲み物の乗ったトレイ。

「すまん。今日は何かの日だったか?」

つい、と手塚がカレンダーを指差す。

リョーマは意外にも記念日に執着するタイプだったことを手塚は彼と付き合って始めて知った。
誕生日は勿論のこと、付き合い始めた日、挙げ句はファーストキスの日から始めて肌を重ねた日。そして自分達が高架下で戦ったあの日も。
近頃は手塚の両親の結婚記念日を知ってわざわざ祝いにまで来た。

記念日には執着を持つが、世間で騒ぐ様な行事には逆に疎いというか、興味が無いようだった。
正月、ゴールデンウィーク、母の日父の日、七夕にハロウィン、クリスマス、大晦日。
例に漏れるのは菖蒲湯の端午の節句と柚子湯のオプションのある冬至。
日頃、リョーマからアンタは鈍いだずれているだ言われるが、お前の方が余程ずれているじゃないかと手塚は実は思っていたりする。

リョーマ曰く。
行事は大衆が祝うけれど記念日はそれを記念と感じる人以外は祝わないから特別なのだと。
自分に関わる事を祝う方が行事に浮かれるよりも重要なのだと。

そんな記念日が好物とも言えるリョーマの部屋の赤く塗り潰された日付け。見事に今日。
もう一度手塚は記憶の糸を手繰るがやはり見当がつかない。
不思議そうな顔をする手塚の隣でリョーマは指し示された日付けに目をやり、苦笑というか照れる様に浅く息を吐き出した。

「んー。これだけはオレ一人限定の記念日なんだよね」

困った様な顔をして手塚を見上げる。
リョーマから与えられた回答でも矢張り手塚は判らない。
リョーマだけだと云うのだから手塚が気にせずとも良いのだろうが、近頃のリョーマが呼ぶ記念日はこぞって自分関連のものだったから、少しだけ気になってしまう。

詮索しても良いものなのかどうなのか、手塚が考えあぐねているとリョーマがぽつりと零した。

「オレが初恋に堕ちた日」

やや俯きがちに答えるところを見るとどうやら照れているらしい。

「つまりは――俺とお前が…」
「出会った日、ってこと」

一瞬だけ手塚を見上げて、口角を上げる。
1年と云うこの期間でリョーマは随分と大きくなった。顔付きもどこか精悍になりつつあった。
1年前のこの日よりリョーマの旋毛が見えにくくなった事にふと手塚は気が付いて、もう一度カレンダーに目を遣った。

「どうしてもこの日だけは譲れないんだよね。オレが生まれ変わった日だから」

手塚に倣う様にしてリョーマもカレンダーを見る。
燃える様に真っ赤に染められたその日。

「ね、部長。おめでとうって言って」
「何だ、唐突に」
「オレのもう一つの誕生日なんだもん。アンタの言葉で祝って欲しいの」

ほら、早く。





この想いが貴方に受け入れて貰えて、そして次の年がそのままやって来たのなら、その時貴方に伝えよう。

今日はもう一度オレが生まれた日だということを。

そして、貴方に感謝したい。
生まれてきてくれたこと。
出会ってくれた事。
もしも受け入れてくれているなら、受け入れてくれた事。

悲劇だとしても、貴方と出会えて良かったと思えた事を。

だから、それまではこの日はオレだけの記念日。





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「おめでとう、越前」






















記念日。
いや、もう、そのまま、です。
私が年中行事に疎い、というか感心が無いので、きっとうちのリョマさんもそんなに季節な事はしないと思います。
まず、わたしが書かない、という、な…!!
そして記念日は私も大好きな子です。
ちゃんと余裕があれば友達の誕生日はそれは盛大に祝いにかかります。
プレゼントの質を優先するので、誕生日多い月なんかは気付けばもの凄い額が通帳から引き出されていたりします…。

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