子午線
「子午線に掴まったらアンタのとこに行けるのに」
そう電話越しに呟いたリョーマについつい手塚は噴き出した。
それを聞きとがめて、リョーマが電話越しに怒るのを苦笑しつつも宥める。
「すまんすまん。またえらく突飛な考えに出たもんだな」
「こっちは日付が今変わったから」
ああ、そうか、日本は今そんな時間か、と手塚はぼんやりと思う。
自分のいるドイツももう闇を孕んでいるが丁度夕食を終えた頃合いだ。
「今、子午線過ぎて行ったんだなーって思って」
「だからと言っても、子午線に掴まるなんてやはり突飛だと思うぞ、俺は」
そう?と不思議そうなリョーマの声。
電話の向こうで首の一つくらい傾げているのかもしれない。
当初は自分の癖であったそれはいつの間にやらリョーマにも感染っているらしかったから。
自分も知らぬうちにリョーマの癖の一つは感染っているのかもしれない。
「じゃあ流れ星に乗って、とでも言えばよかった?」
「それはそれで、恐らく噴いたと思うぞ」
「なんて言って欲しいのさ。ワガママなんだから」
呆れているのか、怒っているのか。
否、楽しんでいると思われた。
「ねえ、まだかかりそうなの?」
「ん?」
「治療」
「あともう少しだ」
「アンタ、こないだもそう言ったじゃん。頑張りが足りないんじゃない?」
拗ねた口調に手塚は苦笑。
苦笑する声が聞こえたらまた臍を曲げるだろうから、そっと口元を掌で覆って。
「こればっかりは医者と俺の体次第だからな。気持ち一つじゃどうにもならん」
「ホントにオレのこと好きなの?」
「なんだ、疑うのか。これはまた心外だな。俺がお前に嘘を吐いてるとでも?」
「じゃあ、早く帰ってきてよ」
「越前…だからだな、気持ち一つじゃどうにもならんと言ってるだろう」
「なるよ」
すうっと息を吸う音。
「なる」
真摯な断定を突き付けて来る。
「オレのことをちゃんと求めたら治るよ。だから、ちゃんと好きでイナサイ。わかった?」
「どういう理屈だ」
どこからそんな自信や根拠が出て来るのか。
やはり突飛なリョーマの考えが可笑しくて手塚はくつくつと喉元で笑った。
こういう笑いをすれば、バカにしてる!とリョ―マが臍を曲げるのは判っているのだけれど。
どうにも、収まりそうになかった。
一頻り、手塚の笑いが収まった頃に、リョーマの溜息。
「また子供だってバカにするんだから、アンタは…」
「本当に子供は凄い事を思い付くな。参った」
「お子さまはどこかの頭の硬い大人と違って考えが柔らかいですからねー」
「ところで、お子さまはもう寝る時間じゃないのか。日付が変わったんだろう、そっちは」
明日も部活は朝からある筈だ。
大会中でもあるだろうし。まさかこの時期にあの大石が練習を怠るとは思えなかった。
ならば、今は遠く離れているとはいえ、部長である自分が部員の遅刻の原因を作る訳にはいかなかった。
「折角の恋人との語らいだっていうのにつれないんだから」
「部長としての責務だ」
「難しいこと言われてもわかりませーん。いいよ、明日もかけるから。じゃあね、おやすみ」
「ああ、おやすみ。遅刻するなよ?」
「わかってるってば!」
それじゃあね、と再び告げて、リョーマが電話を切る。
勿論、切る前に受話口にキスを落としてから。
「Gute Nacht」
リョーマに聞こえていないことは承知乍ら手塚もキスを一つ送って電話を戻した。
窓の外は夜。
日本を過ぎた経線180°はまだドイツの空へはやって来ていない。
子午線。
短いのしか本気で書けないのであしからず…(滝汗
ある夜のリョ塚な感じで…。はい。ほのぼのと。
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