again
















ファーストキスはレモンの味。

どこかで聞いた様な、そんな陳腐なフレーズ。

しかし、海の向こうに長期滞在していた越前リョーマはこの日、暇つぶしに自宅の居間で読んだ雑誌で初めてこのフレーズを目にした。
載っていたのは従姉が持っていた女性向けの雑誌の投稿欄だ。



(レモンの味・・・?)

そこでリョーマは自分のファーストキスを思い出してみる。
物理的なファーストキスは米国滞在中だったが、あれはリョーマには言わば遊びで、本当のファーストキスはつい先日に手塚としたキスだ。
それを思い出してみるが、レモンの味なぞしなかった。
味と言うか、手塚の唾液の甘みぐらいしかしなかった。

(レモン味のキス……っていうか、味付きのキスって面白いんじゃないの?)

「リョーマさん」

呼ばれて振り返れば居間の入口に取り込んだ洗濯物を抱えた従姉が立っている。
その顔はどこか呆れているように見える。

「なんだか、凄い意地悪な顔してますよ」
「そ、そう?普通だよ、フツー」

内心、自分の顔色に実は気付いていたのだが、悟られてはいけない。
手塚と色んな味のするキスをしようと思い付いただなんて…。






その日の晩、リョーマは手塚に電話をかけた。
明日、家に来ないか、と。

手塚も予定はあったが、何が何でも実行しないといけない、という予定でもなかったので、リョーマの誘いを承諾した。
ただでもここのところ生徒会だ部長会議だなんだで部活に顔も出せていなかったから、手塚も少しリョーマの顔が見たかった。




そして次の日、手塚が越前家へやって来た。

やって来た手塚の手を取って自分の部屋へ導く。
そして辿り着いたリョーマの部屋の扉を潜って見えて来た室内の景観に手塚は首を捻った。

「なんで、こんなに食べ物やら飲み物があるんだ?」

部屋はリョーマにしては珍しく綺麗にしてある。
普段は出しっ放しのゲームも今日に限ってはきちんと片付けられ部屋の隅に追いやられている。

そして、そんな整頓された部屋の机の回りには手付かずな食べ物や飲み物、そしていくつものグラスやフォーク、果ては箸やスプーンまでが置かれている。

不思議そうな顔のままの手塚に座布団を勧めて座らせ、その隣にリョーマは腰を下ろした。

「今日はね、いいこと思い付いちゃったんだよ。それをアンタとやってみようと思って準備したの」
「またどうせいらん事を思い付いたんだろう」

にやり、といつもの不敵な笑みに輪をかけて笑うリョーマの顔を見れば、手塚は溜息混じりにそう言いつつも、何を思い付いたのかリョーマに言葉の先を促した。

「第1回、部長と味のあるキスをしようじゃないか大会!!」
「…すまん、越前、もっと判り易く物を言ってくれ」

無邪気に笑うリョーマに手塚は軽い頭痛を覚えた。
とりあえず、何だか嫌な予感が手塚には走っていたのだが、言葉の意味、真意がよく判らなくてリョーマを質す。

「部長、ファーストキスはレモンの味って言葉知ってる?」
「…知っていたくもないがな」

知っていたりする。

「でも、この間のしたオレ達のファーストキス、レモンの味なんてしなかったじゃない?」
「越前……レモン味というのは飽く迄比喩というもので実際にするものじゃないんだろう」

『ファーストキス』という単語に敏感に反応した手塚の顔は淡く目元に朱が差している。
つい先日のファーストキスという割には濃厚なキスを思い出したらしい。

「でもさー、喩えだとしても現実に誰かそういう味のついたキスしたことあるんでしょ?何かそういう事があったからそういう言葉が出来たんだと思うんだけど」
「まあ、あったのかもしれないな。
  で、それと最初に宣言した言葉とどう関係しているんだ。まさか…」

手塚に走った嫌な予感が強くなる。
言葉の先を促したのは手塚にとっては墓穴を掘った様な行動だったのだが。

「だ・か・ら。オレ達も味の付いたキスを体験してみようよ。で、キスの味付けの為の、この食べ物と飲み物って訳」
「本当にいらん事を思い付いたもんだな。…帰らせてもらう」

そう言って立ち上がりかけた手塚の袖を引っぱり、引力の侭にリョーマへ傾いて来た手塚の唇をリョーマは素早く奪った。

「あ、今、味したよね?何の味だと思う?」
「……葡萄」
「当たり!さっきファンタ飲んでたから」

無邪気に笑うリョーマに手塚は本気で頭痛がして来た。
眉間の部分を人指し指で押さえて緩和を計ってみるが、徒労に終わった。

「こういう事。会話の合間に隙を見てオレがキスするから、アンタは普通にしててよ」
「普通にってな…」

隙を見てキスをするだなんて宣言されれば、普通になどしていられる訳がなかった。

手塚は、初心だったのだ。



手塚の言う事等、馬耳東風、とばかりにリョーマは手近なところにあったミルクティーを二人分グラスに注ぎ、スナック菓子の袋を盛大な音を立てて開封した。

取り敢えず、気を落ち着けようと手塚がミルクティーを啜る。
隣に座るリョーマはスナック菓子を頬張っていた。

「はいひん、ほう?」

スナック菓子を咀嚼しながら話すリョーマの言葉は意味不明だ。

「越前、口を空にしてから話せ」

リョーマは手塚の言葉に頷きつつ、急いで咀嚼してスナック菓子を飲み込んだ。

「最近、どう?」
「どうって言われてもな。ちょっと生徒会が忙しいぐらいか。それで、部活に行けていないんだから、大石には面倒をかけていると思……」

中空に目を遣り乍ら最近の事を回想していた手塚の口を突如、リョーマが塞ぐ。
一瞬だけ触れてすぐ離れ、漱ぐとばかりにリョーマはミルクティーを飲みだした。

「うーん、スナックは少し油っぽいね…」
「〜〜っ……越前」

どうしたの?と手塚を見上げるリョーマの瞳は悪戯の色で満ち溢れていた。
……明らかに、この状況を楽しんでいる。

「なんでさ、そんなに生徒会忙しいの?」
「あ、ああ。今年度の委員会が運営しだした時期だからな、各委員会の状況を把握するのでいそがし……」

至って普通に会話を切り出して来たリョーマに釣られて普通に話していた手塚だが、またしても語尾は突然のリョーマのキスで遮られる。

「ミルクティー味♪これは結構イケルかもね」
「………」

手塚の顳かみに青筋が立ち始めている。
それに流石のリョーマも気が付いて少しばかりしゅんとした。

「だってさ、かれこれ1週間部活でも会えてなかったし、一緒にも帰れてなかったし、オレ、寂しかったんだもん」
「越前……」

リョーマのしおらしい態度に手塚の怒りは成りを潜める。

「オレ、言ったよね。部長が好きだって。好きなら、会えなくて寂しいっていうのは当然じゃない?」
「そりゃそうだが…」

それとこれと無闇矢鱈にキスしてくるというのはどうなんだ、と言葉の端に匂わせてみる。
手塚の機微には敏感なリョーマにはこれで伝わった。

「オレさ、好きだって気持ちを伝えるにはキスは一番有効な手かなって思ったから…
  そりゃ、話したりとか手を繋いだりとかでも多少伝わるとは思うけど、キスが一番直球に伝わるかなって…
  でも、アンタが嫌がるなら、もう、止める」
「嫌じゃないが…」

気落ちした様なリョーマがなんだか可哀想になって、ついつい手塚はそう言ってしまう。
それがリョーマの仕掛けた罠だと気付くには手塚はまだ絶対的に経験値が足りなかったのだ。

「嫌じゃないってことは、続けてもいいの?」

おずおず、といった風に俯き加減から上目遣いに手塚を見上げると、仕様がないなとばかりに手塚は小さく溜息をついた。

その溜息を肯定と受け取り、手塚は気付かなかったがリョーマは口の端を奇妙に歪めた。
…手塚が見事に罠にかかった、とでも言うかの様に。

「良かった。ありがとう」

先程の笑みはどこへやら、爽やかな微笑みを手塚に向ける。
そんな自分を省みて、どこかの天才と呼ばれる亜麻色の髪の少年に何だか似てきたな、とふと思ったりもした。

「委員会といえば、お前はどうなんだ」
「ん?何が?」

リョーマはミルクティーがまだ半分以上も残っているのなぞおかまい無しに「はちみつレモン」と書かれたジュースを別のグラスに注いでいた。

「図書委員だったろう、確かお前は」
「あー、あれねー。んー、元々本って嫌いじゃないから楽しい方なんじゃない?放課後に残るってのは部活に遅れたりして痛いけどさ」

ごくごく、とグラスに注いだ柔らかな黄色の液体を喉に流し込む。

「アンタが昼休みに時々借りに来てくれるから、その日は図書委員で良かったなって思うかな」
「なんだ、それは」

知らず、手塚から笑みが漏れる。
それはリョーマが先刻飲んだジュースの様な柔らかな笑み。
そんな柔らかく笑んだ手塚の耳の後ろにリョーマはそっと手を伸ばして手塚の耳に掛かる髪をかきあげる。
手塚もその所作に気付いてやれやれ、といった風ながらも薄く目蓋を閉じる。

素直に応じてくれた手塚に心中感謝しながら、リョーマは上背を伸ばして手塚にキスを施す。
手塚の口中にリョーマの口内に残った甘いレモンの芳香が漂う。

「レモンの味、した?」

緩慢と唇を離したリョーマが手塚との体の距離はそのままに耳元へ囁く。

「ああ、微かにだがな」
「本当なら初めの時にこういう味がしたんだよね」

コツン、と額同士を合わせて囁く様に言えば、苦笑ともとれる手塚の細い笑いが漏れた。

そのまま、啄む様にもう一度キスをして、漸く密着していた体をリョーマは離した。
少し、名残惜しそうに。



そうして、その日は違う味のキスが何度も繰り返された。

again
and
again















again。
何度も何度もキスをするリョ塚ちゃん。
皇子は基本、悪戯小悪魔な方向で。
あ、甘?甘いですか?
いちゃいちゃですか?
それは私にとっては褒め言葉です。えへへ。(キモ!
もっと砂吐くぐらいイチャコリャウッフンアッハンしたのを書きたいです。
どっかに安価で文才売ってないかなー。とほほ。
そんなこんなで(?)ここまでお付き合いありがとうございました〜
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