最終兵器
















「越前」

いつもなら一声そう呼べば子犬の用にキラキラと目を輝かせてこっちへ擦り寄ってくるのに。
今日の越前リョーマはぷい、と視線を逸らせながら黙々と気替えを始めていた。

「越前」
「………」

昨晩から続く彼の苛立ちというのはどうやらまだ治まっていなかったらしい。

(…今日、あれだけ桃城をいたぶっていたからてっきり気は晴れたと思ったんだが)

困った、と言うかの様に手塚は顎に手をやり、観察するかの様にリョーマをじろじろと見た。

「越前」

もう3度目だ。
それでも尚、リョーマは手塚に背を向けてシャツのボタンを留めて行く。

「…………」
「…………」

意固地になった少年と、どうしようかと策を練る少年と。

リョーマはボタンを留め終わり、しかしその場から動かずに黙り続けた。
手塚もまた、黙り続けていた。

チラリ、とリョーマが自分の肩越しに手塚を振り返る。
リョーマから視線を逸らしていなかった手塚とその視線は真っ向からぶつかり、それに驚いてリョーマがまた視線を戻した。

やれやれ、と胸の内だけで呟く手塚の脳裏に大石の声が蘇る。



『で、解決法だけどね』

人がまばらどころかまるで居ない廊下には大石の声はよく通る。
そんな虚無の空間の中、微笑んでピンと人指し指を立てた大石に手塚は一つ頷いた。

『越前のことだから、キスひとつでご機嫌が治るよ』
『…それは、俺から、ということ、か?』

少しばかり眉根を寄せる手塚に大石は苦笑をひとつ。

『だって、手塚からキスってなかなかしないんだろう?』
『しない……が、どうしてそれを大石が知っているんだ』

人の心情を察するにしてもそれは察し過ぎだ。
乾でもあるまいし、どうしてそこまで知っているのかと問いつめてやりたい。

『越前と手塚だったら越前の方が手が早そうだから。ただそれだけだよ。
  なかなかして貰えないお前からのキスは対越前の恰好の最終兵器だから』

だから、試してごらん。
そう友人は微笑みつつ言いのけた。



(やるしかないのか……)

照れる。恥ずかしい。
羞恥の思いが手塚の中を駆け巡る。
よくもまあ目の前のコイツはいつも簡単にやってみせるものだと何だか感心すらしてしまう。

いや、感心などしている場合ではなくて。

「越前」
「……なに」

4度目にしてようやく帰って来たリョーマの声に少しばかり強張っていた手塚の表情が緩む。
見落としそうなほんの微かな変化だけれど。

「こっちに来い」

チラリ、とまたリョーマが肩越しに手塚を振り返ると、手招きする彼の姿。
むすっとしつつ、手塚と視線を合わせない様にしながらリョ―マは手塚の元へと歩み寄った。
…と。

リョーマの頬にキスが一つ降って来る。

呆然と触れられた頬に手を遣って、リョーマは手塚を見上げると、今度は鼻頭にキスが降って来る。

「…え、と。部長?」
「機嫌は直ったか?」

真っ赤になりながらもふう、と軽く溜息。
そんな手塚をぼぅっと仰視していたリョ―マだったが、我に返ったのか手塚に抱きついた。
勢いの剰り、ばすんと音が鳴る。

「……ごめんなさい」
「子供は正直が一番だな」
「子供ってゆーな」

自分の胸の上でぶすりと頬を膨らませる感触。
それに手塚はさも可笑しそうにくつくつと喉を鳴らして笑った。

「部長」
「なんだ」

呼ばれて見下ろせば、わざとらしくチュ、と音を立てて唇を攫われた。

「どうせキスするならちゃんと口にしてよ。ね?」

そこにはいつもの不敵に笑うリョーマが居た。
















最終兵器。
みちゅからのキス。
対越前用。
はーい!塚リョじゃないですよー!塚リョじゃないんですっ!
塚リョで進行しだしたのでちゃんとリョ塚で軌道修正を図っておりますですっ!ダーン☆
やんわり79題目の続きとなっています。
あの日の後書きには皆様のご想像にお任せします、とか書きましたのにね。
朝令暮改なわたくしです。あはん、所詮オオザキですから(撲
しかし、喧嘩の内容は皆様のご想像に今度こそお任せしたいと思いマスッ
100題トップへ
別館topへ