いつもいつでも
標的を発見。
相手はこちらには未だ気付いていない様子。
一か八かの大勝負。
ジーザス、どうか上手くいきますように。
一つ祈りを捧げて、足音、物音を立てぬ様にそろりと一歩近付く。
目標まではあと数メートル。目測では2メートル弱。
もう一歩近付いて、駆けた。
近付く足音に漸く気付いて、相手がこちらを振り向く。
向かっていく自分に驚いているような表情には気付かないふりを装って。
駆けて、
その首根に飛びつく。
自分の重みで自然と相手のが前に傾き、爪先が大地に触れる。
相手がまだ驚いているその隙に――――――
チュ。
「……越前っ」
一瞬の触れ合いの後に、肩を押しやられて距離が作られる。
勢いで首に回した腕も外れてしまう。
相手の眉間には、深くて幾重にもなる皺。
「なんでなの」
「それはこちらの科白だ」
「違うよ、絶対オレのセリフ」
いつも通りの目で見上げても、相手は苛立つ様に柳眉を奇妙に変形させていて。
つい、リョーマは唇を尖らせた。
「なんで、アンタはいつもいつでもさあ、オレがキスしたらそうやって怒るの。キス嫌い?」
「…そうではなくてだな」
「なに、まさか、オレが嫌いとか言うわけっ!?や、やだよ、オレはアンタ好きだもん。別れないよっ!?」
「い、いや、俺もお前のことは好きだ…って、こら、何を、言わせる…」
勢いに任せて飛び出した自分の発言の恥ずかしさに耐えきれなかったのか、手塚は項垂れた。
「えへへ、ごちそうさま」
真っ赤になりながら脱力する目の前の恋人の心中などお構いなしにリョーマは身軽に手塚の腰に腕を回した。
「部長、こないださ、母さんの知り合いの結婚式に行ったんだけど、花嫁はウェディングキスの後に微笑むんだよ。ねえ、なんで、アンタは、キスの後にいつも、怒るのっ?」
一言一言を言い聞かせる様に区切って言われて、自分に身を寄せてくるリョーマを引き剥がしつつ手塚は一つ溜息。
「ほら、そうやって溜息もしょっちゅう吐いてるでしょ!?なんで??」
「お前、自分の行動を振り返ったことはあるか?」
手塚がしみじみと言うのに対し、リョーマは完全に臍を曲げる。
心持ち、その頬が膨れた様に見えた。
「毎日、全身で部長を愛してますけど?」
「…その愛し方をだな、もう少し考えろというか…」
「なに、部長ってばオレに愛して欲しくないのっ!?言っとくけど、無理だからね!?オレ、アンタ愛してるんだからっ」
先刻、やっとの思いで引き剥がしたその小さな体躯がまたぴったりとくっ付いてくる。
ああ、もう、どうにでもなれ、と手塚は今度は剥がすのは諦めた。
どうせ何度引き剥がしてもコイツはくっ付いてくるんだ…。
ここが人通りは少ないとは言え、学校の中だと言っても…。
どうせ周りから見ればただ後輩に懐かれているぐらいにしか見えないんだ…。
手塚国光、14歳の初夏に悟りの境地を踏む。
男が男に抱きつかれるその姿が誰が懐かれているなどと感想を覚えるだろうか。否、思われる筈もなくて。
「ねえ、何で怒るの?」
「さあ、何でだろうな…」
幼子の『何故?』と訊ねる行為には『何でだと思う?』と返答するのが一番良いと聞いたこともある。
その身の内に理想とする答えを抱いているのだそうだ。
「オレが質問してるんだけど…」
けれど、どうやら眼下の人物はそれが通用するような幼い身分では無かったようである。
こちらを見据えてくる眸は幼子のそれに負けないくらいに大きくて零れそうな程の大きな目だというのに。
その奥には勿論、幼くしては持ち得ない強さや輝きが在るのだけれど。
何故いつもいつでもキスの後に怒るかと言えば、答えは実に簡単で。
リョーマが突発的に、しかも場所も状況も考えずに仕掛けてくるからで。
きちんとそれなりに、承諾できる様な場所、場面であれば、手塚なりに応じている。
けれど、それだとしても最低でも苦笑は着き纏うのだ。
それは偏にこういった行為に微かながらも手塚が照れを感じているだけだ。
誤魔化したいが故に、自然に苦笑は零れる。
「ウェディングキスの時は微笑んでやるから、それまでどうして俺が怒るのか自分で考えろ」
出そうになる溜息を喉の奥に押しやった。
そんな手塚を彼の懐から見上げるリョーマの眸が2、3度瞬いた。
生え揃った睫毛が瞬く度に音というには小さ過ぎる音を起てる。
手塚の言葉をその身で反芻し、咀嚼し終えた暫間の後に、リョーマは満面の笑みで手塚の胸に額を擦り付けた。
「うん、そうする」
「判ったら、いい加減離れてくれないか?くっ付かれてると進めないんだが」
時刻は部活開始まであと十数分で。
部長たる者が遅刻する訳にはいかず。
漸く、リョーマもその身を名残惜しそうにしながらも離すが、その代わりとでも言う様に手塚の左手を握った。
もう歩けるなら何でもいい、と手を繋いだまま手塚は歩き出す。
そしてその隣をリョーマは何とも楽しそうに弾みながら歩いた。
「あ、でも、セックスの時に名前呼んでキスするとほっとした顔するよね、アンタ」
にやりと笑うその顔が小憎たらしくて、手の甲で窘めた。
いつもいつでも。
ウェディングの会社ですから、ウェディングキスのシーンは見飽きるぐらいに見てますので!
それまでは緊張でがちがちの花嫁でもウェディングキスの後はふんわり笑うんです。
ああ、すごい幸せそう…!!と常に衝撃です。(見飽きるぐらいじゃないのかよ)
すいません、女の子がふんわり笑うその様はあまりに可愛らしくて…!!!
うん、きっとね、みつがふんわり笑うのもかわいいと思うんですよー
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