凶氣
帰り道すら、凶器になる。
隣を歩かれるというだけの行為が、今は堪らなくもどかしい。
手を繋ごうと触れられた感触に、咄嗟に手塚は自分の手を引いた。
その様に、リョーマは一度手塚を見上げた。
呆れたような、でもどこか寂しそうに視線を自分達の帰路に戻した。
人前だものね、とぽつりと口元から零れた。
リョーマは出会った頃より少し背が伸びた。
少しづつ、男としての色味を深くしてきた。
今、触れようと手塚に伸ばした腕さえも、逞しくなってきていてそんな彼の微かながらの成長に手塚はここ数日悩まされた。
自分の中の何かが疼き出したことに気が付いたのはつい先日だ。
しかも、それまでは自分が一番嫌悪していたものが。
手塚は、隣を大人しく歩くリョーマを見下ろした。
成長した。少しだけれど。
まだその身長は自分には届かないけれど。
微かに幽かに、少年から男になってきている。
そんなリョーマに抱いて欲しいと思っているなんて、口が裂けても言えなかった。
華奢だなんだとよく評されるが、自分だって男なのだ。
リョーマが今、成長してきている様に自分も少年から男へと成長したのだ。
男としてのプライドもある。
女々しいこんな願いなど言える筈もない。
そんな自分が、この胸の内を明かすには剰りにも覚悟が足りない。
手塚は暮れて藍に染まった空に溜め息を一つ飛ばした。
「悩み事?」
リョーマが首を傾げる。
さらりとその長い前髪が揺れた。
「いや…なんでもない」
「そお?ならいいけど…。一人で抱え込まないでよ?ちゃんとオレは傍にいるんだから」
傍にいるからこそ、悩んでいるのだけれど。
そう思う手塚の心中など知っているのか知らないのか、リョーマはにこりと笑う。
それが、いけないと云うのに。
いっそプライドなんて投げ捨ててリョーマに伝えてしまった方がいいのかもしれない。
きっと、リョーマは手塚の願いを快諾するに違いないのだ。
ちょっと困ったようにはにかみながら、嬉しい、と囁くのだ。
そして少し筋張って来たその指が自分の肌の上を滑らかに這う。
自分の妄想とも云えるそんな事に手塚は一人羞恥を覚える。
反射的に目許が朱に染まった。
「…そんなに照れることは言ってないと思うんだけど…?」
くすり、とリョーマは悪戯気味に細く笑った。
そんなリョーマに自分の心の内まで見透かされたように思えて、思わず手塚は顔を逸らせた。
「なんでもない…っ」
「ちっともそういう感じじゃないんだけど…まあ、いいや……って、事にしといてほしい?」
歪に口角を上げて、一度は逃した手塚の掌を今度は確りとリョーマは荒々しく握った。
手塚が驚きに身を引いても、逆にリョーマは倍の力で握り返した。
リョーマの手の中で手塚の手が震えた。
「越前…離せ……」
このままだと迂闊に自分の本音が出そうで、手塚はもう一度身を引いた。
「やだ」
けれど、リョーマは素直に手放してくれなどしなかったけれど。
帰路を進めていた手塚の足が震えながら、その歩みを止めた。リョーマも倣う様に立ち止まる。
「越前…っ」
「やだね。アンタ、何か隠してる…」
いつも自分に穏やかに笑うその目が睨んでくる。
躯の中まで覗き込んで来ようとするその視線に、手塚は立ち竦んだ。
喉の先まで押寄せる言葉を必死に飲み込む。
言えない。どうしても言えない。
今すぐに抱いてくれだなんて。
リョーマのもう片方の手が伸びて、手塚の頬に触れた。
「オレに隠し事?」
「…何も、隠してなど…」
「じゃあ、なんでそんなに震えてるの。なんで、こんなに熱くなってんの?」
触れていただけの手が手塚の輪郭をなぞるようにして滑り、その唇を撫ぜて離れた。
「オレが怒るようなこと、隠してんの?」
「だから、何も隠していない…と」
「アンタの頑固さも程々にしてよ?オレ本気で怒るよ?」
先程よりも眸を険しくして、リョーマが睨む。
そんなリョーマに困り果てて、手塚は溜め息を吐いた。
「隠してる訳じゃない。ただ…言えないだけだ」
「隠してるんじゃん」
「言えないだけだ」
「言って」
言って、とリョーマは繰り返す。
「…言わずとも判れ」
「…なんとなく、当てはあるけど…自信ないし。当たってるならアンタから言って欲しいし」
「…待て、判って…いるのか?」
この欲情している自分の気持ちを。
だとしたら、これ以上の羞恥はない。
一層、目許の赤味を増す手塚にリョーマは俯いて自分の爪先を眺めた。
「今ので、確信した。絶対当たってる…」
そして予告もなく、握ったままだった手塚の手を持ち上げて、リョーマが唇で触れた感触に手塚は背後から迫ってくる想いに押された。
それが、契機になった。
「抱いてくれ」
塞き止めていた筈の手塚のプライドの隙を縫って、遂にその言葉が漏れた。
零れてしまった言葉に手塚は唖然とした。
あんなに耐えていたのに、堪えていたのに。
こんなにも、容易く吐き出された。
恥辱の剰り、目眩が、した。
「…嬉しい」
けれど目の前の未だ小さな恋人は自分が思い描いた科白を身を寄せて呟いた。
言ったのは自分だ、思ったのも自分だ。
けれど、告げたのは、自分の中に巣くうもう一人の自分だ。
リョーマに抱かれたくて、触れてほしくて身悶えていた自分だ。
もう、そのもう一人の自分のせいにしてしまえばいい。
今の自分は、手塚国光であって手塚国光ではないのだ。
そう思ってしまえば、後は簡単だった。
先程の酷い目眩も何処かへ消え果てた。
気付けば自分から手塚はリョーマの頬に唇を落としていた。
「今夜……、いや、今すぐにでも…」
愛してくれと、お前が欲しいと、手塚ならぬ手塚自身が告げた。
凶氣。
12500hitの小倉みるくさんより、リクゲッツです。
リョーマに抱いて欲しくて悶々とする手塚。
結局悶々としているだけでは済まずに言ってしまいましたが;
国光さん、ダイタンっ。
多分、この後二人は野外プレイでもしてると思います…。(ぇ)
だって、みちゅに今すぐって迫られたら王子は本当に今すぐやりますから!!
みつこの願いは何が何でも叶えますから★
12500hitありがとうございました〜
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