May I help you?
『今までの人生で英語を聞くことをしていない人間は、参考書を購入してそこに付属するCD、テープを聞いてもほとんど聞き取れません。まず最初は、問題文が何といっているかを解説した文章を見ながら、CD、テープを聞くところからはじめるのが良いと思われます。』
手塚の手に収まる紙面に、そんな事がつらつらと書いてあった。
高校2年に進級して、手塚は英語に興味をもった。
それはもうかれこれ3年にもなる付き合いの『彼』の影響、ということもあったかもしれないが。
英語は喋れることは不利になることは、まあまずない。
大学への進学をするにも、そのまま就職するにも、英語は寧ろ必要を迫られる。
そして、英語が達者なリョーマと英語で会話するにも。
一瞬ふと浮かんだ妄想ともいえる考えが浮かんだことに思わず頬がかっと染まる。
そんな自分を嗜めつつ、手塚はまた手許に視線を落とした。
英語上達へのアドバイスが軒並み紙面を埋めている。
けれど、一貫してその本が告げているのは、『まずはリスニングから』ということ。
ネイティブスピーカーとの会話が有効だとか、CD、テープを聞くだとか、兎にも角にも生の英語を聞くところから、ということ。
「生の英語…」
それを喋ることができる人間が丁度、手塚の周りにはたった一人いる。
幼少期をアメリカで過ごし、英語を生活の言葉としてしてきた者、越前リョーマ。
ふと、手塚の脳裏を一つの案が駆け抜ける。
妙案、というか奇案というか。
「え…と?ごめん、もっかい、いい?」
それから数日後の休みの日。
珍しく手塚がリョーマの家へとやってきた。勿論、リョーマは手放しで喜んで部屋へと手塚を誘った。
リョーマの部屋で腰を落ち着けた手塚が、世間話も程々に切り出したのは、
『英語を吹き込んでくれ』
ということ。
そして差し出される英語のテキストと冒頭の台詞、というワケである。
こほん、と手塚はひとつ咳払い。
それからやけに神妙な顔をして、リョーマを見詰めれば、リョーマも思わず腰が引けた。
「いいか。英語の上達には生の英語が欠かせないということでな。お前、英語上手いだろう」
「上手いっていうか…それ、アンタに日本語上手いねって言ってるようなもんなんだけど…」
「とにかく」
こほん。
「このテキストの英文を吹き込んでくれ。その為にだな…」
ごそごそ、と手塚は持参した鞄の中を漁り、なんとも釈然としない顔のリョーマに小さな機械を取り出した。
「乾からわざわざ借りてきた」
「なにこれ?」
差し出された機械を手に取って、表と裏と物珍しそうにくるくると回して眺めた。
「ICレコーダーだそうだ。そこから乾がテープに録音し直してくれると言っていた」
「そんなことしなくてもベッドトークででも教えてあげるのに…」
床へと機械を置きつつ、ぼそりとリョーマが呟けば手塚がぎろりと睨む。
付き合いが3年になっても手塚のこういう態度はあまり変化がない。
リョーマはそういうところがやっぱり好きなのだけれど。
「頼まれてくれるか?」
「まあ、できないことじゃないし、アンタからの頼み事なんてそうそうないからね。いいよ」
にっこりと笑ってリョーマはテキストを受け取り、ぺらぺらと流して読んだ。
ふうん、とリョーマから小さく漏れる。
「いつまでに入れればいいの?」
「いつでも構わん。お前の時間が空いてる時に入れてくれればいい」
「高等部の校舎入るとあの教師怒るからな…次に一緒に帰る時に持ってく。それでいい?」
「ああ。すまんな」
「いいって。ま、報酬は今貰っておくけどね?」
「え?」
途端、ぐらりと手塚の視界が傾いて天井が視界に入る。
腹の上でどっしりと腰を落ち着けるリョーマに眼鏡を奪われた。
「おい、こら…」
「世の中はギブアンドテイクが常識なのは知ってる?」
「これは、つりが出るぞ」
「Recの方、サービスしときますよ、旦那」
そのまま、ちゅう、と唇を奪われた。
今やモダン、とでも表現できるようなカセットのみを扱うオーディオ機器。
中学の頃からあるそれは、高校にあがっても手塚の部屋の一角にあった。
先日、リョーマから受け取り、そして今日乾からダビングしてもらったオーディオカセットをラジカセに放り込んで再生ボタン。
少しの間を置いて、雑音が流れ出した。
『あーあー。ちゃんと入ってんの?これ』
ノイズの後に訝し気なリョーマの声が始まって思わずくすりと手塚は笑った。
『まあ、入ってると思って…It begins. Are you ready?』
「結構、乗り気なんじゃないのか…?」
くすくす、とついつい笑いが口を突く。
『Then, first of all, it is from a section 1.
Mariott Marquis, may I help you?
Yes, can you get me receptionist, please?
Hold on, second.
Receptionist, may I help you?
Yes, I have something I would like to discuss with you.
Some of your receptionists told me that your computer is down and that is why you cant make reservation for me.
But it seems that the computer is still no good and nobody would take care of my request for reservation.
I have been calling you from Japan over and over again for this matter.
I think this is damaging your reputation.
I am sorry about that.
Ill make a reservation for you.
Thats great.』
テキストに目を落としつつ、リョーマの声に聞き入る。
そのまま、リョーマは次々にテキストの英文を読み上げる。
手塚の視線も英文を次々に追いかける。
先日、紙面で見た通りにヒアリングをしながらとテキストの双方による学習、というのは思いの外頭に入る。
しかもそのテキストを読み上げているのは自分の恋人なのだ。
聞き逃す筈もなかった。
『How do you feel?
I feel much better. Thank you.…』
「これで、終わりか」
そしてそれから数十分が経ち、テキストも最後のページになる。
ラジカセの停止のボタンを押そうと手塚が腰を上げた時、また小さなノイズが流れた。
はて、と不思議に思いながらも手塚は腰を据え直す。
胸がざわめくのはどうしてだろうか。
『Do you yet hear this?』
まだ聞いてくれてる?
もうテキストは読み切ったのに、何を吹き込んだのだろうか。
手塚の中の謎は深まるばかりだ。
『Ah--, I love you. very much . It loves more than whom most in the world. it leads so far -- without it still stops!』
世界で一番、誰よりも好きだと、突然に告白を始めたリョーマの声に、恥ずかしくなって手塚は途端に停止のボタンを押そうと慌てて腰を上げるが、そんなことをお見通し、とばかりにラジカセからはリョーマのそれを抑止する声が響く。
手塚の指がボタンの真上で止まった。
『Since it thinks that all the things that I still tell in English now are not transmitted, I want to tell only the part of awkward language.
I want to say the thing beyond this some day, when many things can be spoken with you in English.
Which loves you or which do I regard as important?
Although Japanese can also already be spoken considerably, since it may be too told only in English.
Is the thing beyond this several years after again?
Does it study and do its best?』
一言一言、言い切る様にゆっくりとリョーマは伝える。
きっと、きちんと手塚に伝えたいから、というそれだけの為に。流暢な英語、というよりは日本人がカタコトで喋る英語の様に。
これも、きっと手塚に聞き取って欲しいから。
手塚も、リョーマの思いを汲んだ。
そして、そのまま一言も喋ろうとしないラジカセの前で一人赤面しながら手塚は床を見つめていた。
「恥ずかしい…奴だな…」
照れくさいけれど、やはり嬉しい。
無音のテープがただ回るだけの音が手塚の部屋には暫く響いて、それからガチャリと音を立てて止まった。
May I help you?
越前さんの英語で塚さんをめろめろにしてみる計画。
16361hitを踏んで下さった草薙まことさんよりリクを頂戴しました。
わたし、高校時代はテスト前にはテスト範囲を自分で吹き込んで通学中のチャリで聞きテスト勉強のシメを行っていたので、そこからヒントを…。
…。えちの声で入った英語のヒアリングテキストとかまじ欲しいですョ…(盲目)
16361hit、ありがとうございましたー!
和訳は、最後のところだけ、書いておきますね。機械翻訳なので、あんまし正確じゃないです。
『今は、まだ俺が英語で伝えること全部は伝わらないと思うから、拙い言葉の分だけ、伝えておきたいんだ。
いつか、貴方と英語で色々喋れるようになったら、これ以上の事を言いたい。
どれだけ俺が貴方を愛してるか、どれだけ大切に思ってるか。
日本語ももうかなり喋れるようになったけど、やっぱり英語でしか伝えられない事もあるから。
これ以上の事はまた数年後かな?
勉強、頑張ってね。』
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