架橋パルフェ
















まるで威張る様に誇らしげに机上に鎮座するパフェのグラスが目の前に。

パフェ越しに向かいの席に座るのは2つ年下の思い人。
そこまでは良い。
ひとつの大きなパフェを挟んで好きな人と対面。端から見れば楽しいデートの一幕にも見えるだろう。

けれど、そうは見てくれない原因が二つ。

パフェの向こうに座る想い人が自分と同じ性別であること。
そして、彼の隣にはその父親がコーヒー片手に座っているということ。






遡る事、今から数十分ほど前。
否、厳密に発端を辿るならば、昨日。


リョーマは唆された。悪戯大好きな同級生に。

「手塚と長い付き合いでいたいんだろう?それなら菓子折りのひとつでも持って彼の家を訪ねてみることだよ。親にさえ気に入られればこれから先の将来も安泰ってのものだよ、越前」

同じ部活の仲間である彼は真四角の眼鏡を愉悦気味に反射させてそう言った。
そして、リョーマは無謀というか単細胞というか、その口車にいとも容易くノった。


まだ告白の返事すら貰えていないのに、両親に御挨拶というのは熟考せずともおかしな話である。
奇妙な話だと思いもせずにリョーマは今日、こうして持参する菓子折りを値踏みしにデパートまで遥々やってきたのである。
部長、という権限を最大に活かして休日の今日、部活を急遽中止にしてまで。

陳列された上等の菓子を見たり、ケーキ屋のコーナーを覗いてみたり。
ふらふらとデパート内を暫く彷徨。
どれがいいだろうと至極真面目に数有る菓子の中から淘汰しながら大手洋菓子メーカーのショーケースを覗いていた時、背後から声をかけられた。

振り向けば、想い人こと手塚。

まさかの偶然の出会いに反射的に顔が綻ぶが、彼の隣に立つその人物に気が付いて寸でのところでポーカーフェイスを保った。

「俺の父です」

何となくそんな予感はしたのだけれど、敢えて隣の人物は誰かと問えば手塚はそう答えた。

菓子折りをこれから選んで挨拶に行こうとしていた矢先に実父登場である。
出鼻を挫かれるにも程がありはしないか。

「国光、こちらは?」

お互い初対面なのだから、当然手塚の父親もリョーマを見て一体誰だろうか、と疑念を抱く。

「こちらは…」
「部長の越前です」

紹介しようとした手塚の言葉の先を遮って、リョーマはぺこりと深く一礼した。
何事も、第一印象というのは大切なのだ。

「丁寧にどうも。国光がいつもお世話になって」

手塚とはあまり似ない、人好きのする顔をくにゃりとさせて国晴は笑って、最近の中学生は大きいんだなあ、なんてのんびりと言った。



「お買い物ですか?」
「母さんの買い物の荷物持ちなんだよ。女の買い物にはどうもついていけなくてね。男二人でぶらぶらしてたところで」
「部長は今日はどうしたんですか?」
「え、っと。ちょっとね」

まさか目の前の人物の家を訪れる為の菓子折りを吟味しにきただなんてことはちょっと言えない。
本人達を目の前にして、リョーマも漸くかの同級生の話はどうやらおかしい、ということに気付いたのだった。

「時間潰しにそこの喫茶店にでも入ろうと思ってたんだけど、良かったら越前君もどうだい?」

その誘いの言葉が現在に至らせていた。






「まさか、手塚が甘いもの大好きだったなんてね…ちょっと意外」
「いやあ、これでこいつかなり甘いものには目がないんだよ。それこそ和も洋も節操無くね。見た目は甘いもの受け付けられません!みたいな顔しながら」
「…父さん」

掻き回す様にぐりぐりと頭を撫でてくる指から何とか脱出して、じとりと父親を睨む。

「ここの一番大きいこのパフェもね、前から目を付けてたみたいなんだけど流石にこれは一人ではなかなか食べきれないだろう?値段もバカにならないしね」

その一人で食べきれそうにはないパフェ、というのは紛う事なくリョーマと手塚の間にあるそれだ。
優に50センチはあるグラスに生クリームやら色とりどりのアイスやパイ生地が幾層にもなって詰め込まれ、その頂には見目も鮮やかなフルーツに囲まれて再び生クリーム、その上からブラウンとホワイトとピンクのチョコソースがふんだんにかかっているという念の入れようである。
値段もその半端ないカロリー量に比例して、他のメニューから群を抜いて高価い。

「越前君が甘いもの好きで良かったよ。ここに来る度に国光ってば店の前にあるディスプレイを物欲しそうな目で見ててさ。父親としては食べさせてやりたくなるじゃない」
「お父さんは甘いものは召し上がらないんですか?」

脳内変換ではお義父さん、だ。
そんな簡単なことでリョーマの機嫌は上昇する。

二人の会話を聞いているのかいないのか、よく判らない顔で手塚は黙々とパフェと口の間でスプーンを往復させていた。
よく判らない、というのはパフェを食べるのにどう見ても集中しているような顔付きだからだ。集中しつつも、手塚は持ち前の性格からか耳が良い、というか視野が広いからひょっとするとちゃんと聞きながらパフェを食べているのかもしれない。

「僕はちょっと甘いものが駄目でね。母さんは好きなんだけど、パフェ一つでこの値段だろ?なかなか首を縦に振ってはくれなくてさ」
「母親って生き物は財布の紐が固いですよね。うちの母親なんかもそうですよ」
「そう!そうなんだよね。こんなおっきいパフェ見たら子供心は騒ぐじゃない?そういうロマンをあの人は理解できないんだよねえ」
「パフェに限らずでっかいものってのは子供心をくすぐりますよね」

そうそう!と国晴は何度も頷く。
どうやら、なかなかにリョーマとは気が合うらしい。
越前君は話が判るなあ、なんてにこやかに言う始末だ。

そんな二人を視線の端に尚も手塚はパフェを貪ることに没頭している。無我夢中、という有り様、だろうか。
余程、食べたかったと見える。

「国光、胸焼けしない?そんなに食べて」

きっと既にグラスの半分は手塚が完食しただろう光景に気が付いて国晴は呆れた。
実父からの問いに、小さく首を横に振るだけで答えて手塚はまたスプーンを動かす。
子供らしいとも言えるその猪突猛進さを目の当たりに、微かばかりリョーマの心は和む。普段は崩すことの少ない顔も動作によっては大層可愛らしく見えるから不思議だ。

そこには恋という名のフィルターがかかっているからかもしれないのだけれど。

「あ、手塚、生クリームついてる。口の端」

腰を浮かせて、リョーマは向かいの席の手塚の左端の口元を人指し指で拭う。
突然触れられて手塚の体がぴくりと跳ねるが、そんな事はお構いなしにリョーマは生クリームが付着した指先を舐めた。

「国光にお兄ちゃんが居たらこんな感じかなあ」

息子とその先輩の様子を眺めていた国晴がぽつりとそんな事を漏らす。
兄弟、というのに正直リョーマは引っかかりを覚えるが、苦笑してそれを交わした。

『国光に「彼女」が居たらこんな感じかなあ』と言って欲しかったのが本音なところだ。恋する少年の胸中というのは多分に漏れず複雑なもので。

「国光も懐いてるみたいだし、今度暇があったらうちに遊びにおいで」






こうして、筋道は少々違えたが、リョーマの本来の計画は成功を収めたと云える結果を成した。
翌日からリョーマの連日の手塚家訪問が始まったのは言及するまでもないだろう。






















架橋パルフェ。
リョ塚年齢逆設定にて。かけはしぱるふぇ。
17271hitを踏んでくださった詩音さんからのリクで。
国晴さんってうちのサイト初登場じゃないですかね…多分。いつも手塚家というと彩菜さんにご登場願ってますので。
中年太りがまるでない辺り手塚の父ですよね…スリム…

17271hit御礼でございます。
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