tea TIME
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重厚なドアをノックする音がして、手塚は面を上げた。
ドアの向こう側からは名前を名乗る訪問者の声。
「入れ」
「ハッ。失礼いたします」
畏まった声が響き、ガチャリとそのドアは開いた。
開いたその先には自分の部下である見慣れた顔と、全く見知らぬ少年の顔。
手塚は訝し気に小首を傾げた。
「その者は?城では見ない顔だな」
「こちらは…――」
「越前」
青年が後ろに立つ人物を紹介するよりも早く、その少年は自らの名を名乗った。
「越前リョーマ」
「越前?やはり聞かぬ名だな。…用件は」
「この度、将軍の冠を王より頂戴いたしましてね、そのご挨拶に伺ったまでですよ。知将、手塚国光殿?」
まるで馬鹿にする様に口角を擡げる笑い方をされる。口調もどこか相手を下に見ている様な口調で、彼の前に立っていた手塚の部下は一人おろおろと狼狽えた。
背後のリョーマよりも正面に立つ手塚の方が歳も、そして経験も上だ。言わば、上司相手に軽口を叩いている様なもので。
しかし、激しい狼狽の色を見せる部下とは裏腹に、手塚は表情を変えることなく、レンズ越しにリョーマを見据えたまま沈黙していた。
「…俺の二つ名はそんなに有名か」
「まあ、そこそこに。まあ、直に貴方を追い越して、猛将越前の名が天下に轟く日が来ますけどね」
「そうか。精々、国の為に尽くして名を上げてくれ。期待している。他に用件は」
淡々と述べられたそれだけのセリフにリョーマの顔から笑いが消える。
面白くなさそうな顔。
「噂通り、淡白な方で」
「他に用件は、と訊いている。他に何もないのなら、さっさと出ていってくれないか?こちらも色々と仕事が詰まっているものでな」
「そうですか。では、また明日にでも御尊顔を拝見しに参ります。茶でもゆっくり飲みましょう」
そしてリョーマは身を翻して、元来た道を帰って行った。
残されたのは書類を山の様に載せた机に向かう手塚、と扉の前で立ち尽くす部下だけだった。
不意に、部下の方が眉を顰めて切り出した。
「何なんですかね、あの不作法者は」
上官に対して敬意も何も無い。
彼は実に嫌そうに続けた。
その不穏な発言に、手塚は書類に落としていた視線を上げ、ちらりと彼を少しだけ見て、また作業に戻った。
「いや、いい面構えだった。流石、最年少で将軍の地位まで上り詰めただけはある」
「しかし、お言葉ですが…!」
「『将軍』という枠組みで括ればあいつも俺も同じでしかない。…お前も、無駄口を叩いている暇があるなら職務に戻ったらどうだ?」
険を含んだ手塚の声に、ハタ、と部下の彼も自分の所業に気付いた。
慌てて一礼をし、バタバタと足音を鳴らしてリョーマと同じ方向へ駆けて行った。
自分以外、誰も居なくなった執務室で、ギィ、と手塚は皮張りの椅子の背を鳴らした。
「久々に、骨のあるやつが来たかな」
その口元は愉悦気味に曲がった。
翌日、本当にリョーマは手塚の元に再訪した。盆の上にティーサーバーとグラスを二つ乗せて。
彼がまた部下に連れられて扉を潜った時、手塚はまだ書類の山に埋もれていた。
弾む声音でリョーマが声をかける。二度目の対面だと言うのに、言葉はかなりくだけていた。
「知将、休憩がてら茶でも飲まない?」
「…まさか、有言実行するとは思わなかったな。…お前の今日の職務は?終わったのか?」
「オレは武道専門だからね。朝、昼と兵に訓練を付ければそれでいい。今はその中休みってワケ」
盆を片手で持ったまま、手塚が座する机に向かって進む。
その背を見つつ、扉の前で手塚の部下は狼狽えていた。そんな彼に、
「ああ、もう下がっていていい。持ち場に戻れ」
「…ハ。失礼いたします」
手塚がそう告げれば、彼は畏まりつつ、リョーマを訝しみつつ、その場を辞した。
不意に、すぐ傍、机の端に人が腰掛けた。見上げずとも、それがリョーマだということは判っている。
だから、手塚は顔を上げず、手にしていた書類を放した。机の上をひらりと舞う様にそれは滑る。
「気に入ってもらえるといいんだけど」
自分の前に差し出されたグラスに透度の高い茶褐色の液体が注ぎ込まれる。
大方、注ぎ終えられたグラスを受け取りつつ、手塚は不審気に尋ねた。
「お前は何しにきたんだ?」
問えば、頭上でまだ年端もいかない少年らしい大きな眸が不思議そうにくるくると踊った。
「何って、アンタとお茶飲みに来たんだけど?」
「それだけか?」
リョーマも自分のグラスに茶を注ぐ。相手がグラスに口をつけてから、手塚も喉を潤した。
不味くはない。だが特別美味い訳でもない、普遍的なものだった。
手塚の問いに、考える様にリョーマは顔を天井に向けた。
机から伸びた足も、共に考えている様にぷらぷらと揺れた。
返答を待ちつつ、手塚はグラスに口をつける。何か茶菓子が欲しくなってきた。
「アンタが、噂通りに無表情なもんだからさ、」
何か、この執務室に食べ物はあっただろうか、と手塚が思索していた折に、リョーマがやっと口を開いた。
反射で彼を見上げれば、品定めする様な不躾な視線とかち合った。
「茶でも交えて話もすれば笑顔のひとつは見せてくれるかなあ、って、」
かち合っていた視線が急激に下りてきて、
「思っただけですよ。知将殿?」
触れられた。唇に。
一瞬、何が起こったかは理解しかねて、手塚は呆けた様に、ただリョーマを見上げた。
くすりと薄く笑っているその顔を。
「お前、本当に何がしたいんだ…?」
理解し兼ねた。
「だから、アンタの笑顔が見たいだけって言ったでしょ?」
「キスされて笑う奴がどこにいる」
「今のは…アレだよ…ほら、濡れてたから。口が」
「言い訳になるか」
苛立つ訳でもなく、矢張り無表情のままで、緩慢に手塚は口唇をぬぐった。
「でも、今、ちょっとだけ表情変わったよね?驚いたみたいな」
「普通驚くだろう」
「それでも、アンタって不動そうだったから。いいもん見れたなーっと」
いつの間にか飲み干していたらしいグラスを机上の盆に返して、リョーマは机から下りた。
一度、懐から時計を取り出して、そのまま扉へと駆けて行った。
「おい。もう帰るのか?」
「実は中休みって嘘なんだよね。稽古の途中で抜け出てきたからさ早く帰んないと」
ドアの間近で足踏みしたまま、リョーマが振り返る。
「抜け出てきたって言ったら帰れって言われそうだったし。あ、盆は置きっぱなしでいいよ。明日も来るから」
「いいから、早く行け。職務中に何をしてるんだ、お前は」
「言うと思った。それと、」
案の定の反応に、にしし、と楽しそうに笑い、リョーマは一度足を止めて、手塚を指差した。
「焦った顔も可愛いね」
「………」
「それじゃ、また明日ね」
そして廊下の奥へと足音は消えて行った。
嵐の様に通り抜けて行った数分の出来事に、手塚は気疲れを起こし、椅子に深く背を預けた。
ふう、と息を吐き出して、まだ残っていたグラスの中身を傾ける。
何か、思惑とは違うものがやって来始めていた。
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17771hitの町田さんよりリクを。
…あの、ファンタジーで、ということでリクを頂戴したんですが…これってパラレル?パラレルなんですかね…???
ファンタジーって魔法使ったりとか妖精が辺りを跳ね回ったりとか、そういうのですかね…!!?
なんだか、ものすごく勘違いをしている気がします…あわわ。すいません…
FF7をわたしがやっている時の日記を読んでくださって、このリクを頂いたので当初はRPG系で考えてたんですが、このテニプリのファンサイト業界にはすでにRPGで確立なさってる有名サイトさんがいらっしゃるので、恐れ多くて没。
あの、ひょっとして知将とか猛将とか書いてる時点で一部の方々には何をモデルにして書いたのかばればれでしょうか…???どっきーん
うう、うう、ものすごく勘違い感が否めないんですが…。リテイク、お待ちしてます…べそべそ
それでも、17771hitはありがとうございましたv
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