ミスターラヴァーズ
















腹上の男は、糸が切れたみたいにくたりと体の力を抜いた。
彼が爆ぜた後も、こちらは体内を遡上する感覚にえも言われぬものを耐える。本来ならばただ外界へと排出する為だけの器官なのだ。
しかし、その正体が行為の中の最大の絶頂感だという事に彼が気が付いたのはついこの間のことだ。

そして、彼も全てを吐き出し、乗り上げている男の腹部が白濁の液で塗れる。
体内のものは遡上から下降を始めて、相手が楔を引き抜くと同時に双丘の合間を縫う様に流れていった。

「…っ…はァ…………」

もうお互い、何回目になる射精か判らない。
普段から回数を数えるという不粋な真似はしない、というかできない。
リョーマも、手塚も相手を貪るだけで精一杯だ。この時だけは、常に携帯している筈の余裕もどこかへと吹き飛んでいる。

食うか食われるか。
甘い睦言とはかけ離れた行為に近頃は変化してきている様な気がする。
平たく言えば、お盛ん過ぎるのだ。どちらも。

「はい、そこ。意識飛ばさない。風呂。風呂行こう」

ぼんやりと霞がかる手塚の脳がリョーマの声を聴覚する。
瞼に力を込め、閉じそうだったものを何とか開ける。
薄暗い中に、自分と同じように気怠そうな顔のリョーマが映り、手塚も体をやっとに起こした。

「…だるい」
「オレも一緒」
「体中ベタベタする」
「オレも一緒。あと、シーツもね…」

自分達の下に敷かれている白いシーツを摘んでみせる。
染みがうっすらどころか、広範囲に亘っていた。端を摘むリョーマも、それを見遣る手塚も揃って顔を顰める。

「ここまでくると惨たらしいな…」
「だね。これ、まだ洗濯したら使えると思う?」
「…できれば使いたくないな」

シーツの端を放るように離せば、音も無くそれは波間のひとつとして消えた。

「これでシーツ買い替えるの何枚目かな…」
「いちいち覚えているわけがないだろう。今後は少しペースを落とすか?」

シーツ1枚と言えど、その量が嵩むと出費としては少々痛い。

まだ何も纏わぬまま、ベッドサイドに置いた眼鏡を引き寄せて、掛けた。
薄暗い室内も、少しばかりクリアになる。
その鮮明さを増した視界に、自嘲じみた顔のリョーマが映る。

「…落とせると思う?やっと同棲までこぎ着けたのに」
「…。無理だな」
「調子のってくるとアンタから続き催促するし?」

にや、と揶揄するように意地悪く笑うリョーマの頬を窘める程度に軽くぺちりと叩けば、手塚のその反応にリョーマはもっと笑った。
一つ屋根の下に住み始めて数カ月。それよりも前からリョーマが手塚に教え込んだ情事は一気に回数が増えた。
最初でこそ、痛みだ気分の悪さだといった負担から、手塚は然程好き好んではいなかったようだが、それはそれ。
テニスでものめり込んで最強を極めた男は、関心をそそられた事に対して没頭し出すのにはそう時間はかからなかった。

手塚に情交を気に入らせたリョーマの手腕が軍配を決する原因として大きい。

「お互い、お年頃になると大変デスネー」

増々、頬を緩めるリョーマを一人ベッドに残して、手塚は先にベッドから下りて振り返った。

「…無駄口はいい。ほら、風呂に行くんだろう」
「一緒に入っていい?」

手塚の後に続く様に、リョーマも跳ねる様にベッドを下りる。
出会った頃から数年経っているとは云え、リョーマの身軽さは未だ健在であった。幾許か大振りになった体躯は軽やかに手足のバネで小器用に動く。
そのバネに任せて、手塚に飛びついた。

「今更聞くか?そういうことを」

顔だけをこちらに向けて、苦笑する顔目掛けて唇を重ねた。飽く迄軽く。

「昼から買いに行こ。シーツ」
「一緒に、な」

じゃれ合うように転がるように浴室へと二人は消えた。



















ミスターラヴァーズ。
Mr.Lovers
18981hitありがとうございました。さえさんより、成長後の彼等で、とのリクを頂きました。
事後。
このシチュエーションってわたし結構多用してるような…。
ピロートークフェチ?
人様のならば、最中が一番好きですが!(笑顔)
同棲始めたらシフト回数二桁までいくがいいさ…。若いってすごいな。

18981hit、御礼、そして多謝でございます。

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