「…。………………? ……………! ……越前、起きろ」
「えっ!?うそ、もうこんな時間?ちょっ、練習始まってるじゃん…!」
「急ぐぞ」





















struck on with
















休日の部活動の午前の部が始まり出して1時間丁度。ばたばたと足音も煩く、二人の少年がコートに駆けてきた。

「遅れました…っ」
「見ればわかるよ、越前」

金網で出来たコートの扉をガシャンと鳴らして肩で息をするリョーマを、扉から最短距離に居た不二はにこにこと迎えた。
彼が遅刻してくるのは、まあ大抵日常茶飯事。

問題は――……

ガシャン、とまた音がする。
不二が笑顔のままでそちらに視線をやれば、扉の金網に指をかけ、リョーマ宜しく荒々しく肩を上下させた我等が部長様の姿がそこにあった。

「すまん、遅れた…」
「見ればわかるよ、手塚」

にこり、と皮肉を交えて痛いくらいに微笑んでやる。
彼が遅刻してくる姿なんて友達になって初めて見るかもしれない。

「仲良く遅刻、仲良く出勤だなんて、生々しいね」

やはり笑ったままの不二に対して、息も未だ整わぬまま、リョーマは不思議そうにキャップの鍔を上げて見せ、手塚は一気に顔を紅潮させた。

不意に、とんとん、と不二は自分の鎖骨の辺りをユニフォームの上から人差し指で突いてみせる。視線は手塚へ。

「急いで来たのはわかるけど、ちゃんとボタンぐらい一番上まで留めてきた方がいいと思うよ。手塚」

赤くなってる、と要らぬ指摘をしてやれば、淡々としたフリをして手塚はユニフォームの前を掻き合わせ、そんな手塚をリョーマは振り返って見上げた。

「取り敢えず、まずは大石のところに行ってあげてくれるかな?部長の無断の遅刻で流石の副部長も困ってたから」

見かけは冷静を保っているのだろうけれど、内心ではきっと烈火の如く羞恥に塗れているであろう手塚のその様が剰りに可笑しくて、今にも吹き出しそうで、不二はツイと大石が居る辺りを指差して話題を変えた。

目許に淡く朱を差したまま、手塚は小さく、ああ、とだけ答えて、ボタンを一番上まで留め乍ら颯々と身を翻す。そんな手塚をリョーマは名残惜しそうな目で眺めて、自分もコートの中へと足を踏み出した。

「越前」

けれど、その足を止める、怖い怖い笑顔の先輩からのコトバ。
いつも穏やかに笑ってはいるけれど、内心は正直なところ杳として知れない、怖い怖い先輩。

「まだ何か用ッスか?」

明ら様に面倒くさい、というような顔をして、リョーマが不二を振り返ろうとして爪先に力を入れたその瞬間、
べろり、と背中を捲られた。

「…なっ、」

何をするのか、と突然の彼の行動に慌てて強引に振り返ろうとするが、相手には予測範囲の行動だったのか、ユニフォームの背を捲る手は離してくれなかった。
振払おうとしても、リョーマの動きに合わせて腕をふらりふらりと揺らして躱す。

それどころか、繁々と観察でもする様にその幼い背中を不二は眺めた。

「赤く、なってるね」

黙考するような間を置いてから、不二はツツツツツ、とリョーマの背に人差し指で歪な線を描いた。
描く先には、元から書かれていた痣にも似た赤い直線が何筋か。

不二がその痕を辿った瞬間に、悲鳴にも似たリョーマの声が口から飛び出る。卑らしさを孕んだその辿り方は完全に死角からの攻撃としてリョーマにヒットする羽目となった。

「背中に痕が残ってる、ってことは……昨日は………、かなり奥まで入れたね?」

痕の尾の部分をトントンと突きながら、不二は語尾上がりに、興へと乗った口調で告げた。
ぞわり、とリョーマの毛は逆立った。

「さ…」
「さ?ああ、じゃあ手塚の腰の辺りにも君の手形が残ってるかもしれないね。腰、ちゃんと支えてあげてたんでしょ?」
「さわん…っな!」

大振りに腕を振って身を翻して、今度こそリョーマは不二を振払う。
その瞬間にパシリと相手の腕を打つ音こそすれど、賑わいも最高潮の部活の最中、そんな幽かな音を気に留める人間は生憎、その場には居合わせなかった。

「いたーい。越前ひどーい」
「い、いきなり何なんスか…!」

ちっとも痛くなんてなさそうな顔でのうのうと口を聞いてみせる不二に、ユニフォームを腰よりも下まで引っ張ってリョーマは対する。
全身の毛を逆立てて威嚇する猫の様にその目はぎりぎりと吊り上がって不二を見据える。

けれど、そんな1年坊主など何処吹く風とばかりに不二はペースも変えず、頬に人差し指を当てて、考える様な仕草をしてみせる。

「何って言われても……、好奇心?」
「尋ねないで下さいよ…」
「出歯亀?」
「自分で言わないで下さい…」

努めて朗らかに答える不二に、ユニフォームの裾を引っ張ったまま、リョーマは項垂れる。
頭に乗せたいつもの白いキャップがずるりと滑った気がした。

「マーキングなんて付けて、健全な部活の場になんて来るものじゃないよ、越前。ああ、君の彼氏にも同じ事、後で伝えておいてくれるかな?」
「…はいはい」
「お座なりだなあ。そんなに休日の夜に愉しみたいなら休日は全部部活は休みにするようにも言っといてもらっていい?」
「あの人に限ってそういう事はできないから無理ですよ」

真面目一辺倒で怠慢嫌いな振りが大層に上手い人なのだから。
その裏で、物臭な一面もあることは知る者のみぞ知る天下の手塚国光御大の秘密だ。

公式試合の後の休日でも無いのに、部活を休みにする謂れは無いとでも、実直そうなあの顔できっと言うに違いないのだ。
部長面が大変にお似合いなあの人は。

手塚のその辺りの性格を不二も心得ているのか、言えてる、と少し吹き出しつつもリョーマの意見に賛同した。

「じゃあ、やっぱり少し控えるか何かしてもらわないと」

実はそれも無理な話で。

瞳にその様をくっきりと浮かび上がらせてこちらを見上げて来るリョーマに、不二は困った様に眉を少しばかり下げた。
ただでさえ柔和な顔がより一層の印象を与える。

顔の摺り替えが上手い人間ばかりが此処にはやけに集まるな、とリョーマはふと痛感する。

「もう、逃げられないねえ、君等は」
「は?」
「ううん、独り言。まあ、精々体を壊さないように励んで」
「励めって……。生々しい…」
「いやだなあ、生々しいのは君達だよ。さてと、真面目に誰かとラリーでもしてこようっと」

らんららーん、と鼻歌でも歌い出しそうな楽しそうな雰囲気を最後に、不二はすたすたとリョーマの元から去った。
一人取り残されたリョーマは、がしがしと痒くもないのに肩を掻いてその後ろ姿を見送った。

「逃げたいなんて、いつ思える様になるかな…」

まだまだまだまだまだまだまだまだまだ?と一人ごちつつ、やっと緑のコートに足を踏み入れた。




















struck on with。
***に夢中。
なんとなく、リリカルにリョ塚をからかう不二きゅんが書きたくなったのでした…。
不二てんぱい、セクハラです!
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