つれないあのこ。
「ねえ、どうしてオレのこと名前で呼ぶの?」
目の前のコートで行われている試合を隣り合って見乍ら、とても唐突に脈絡なく、リョーマは竜崎にそう訊ねた。
ゲームも中盤に差し掛かって、コート内の熱も上がってきたところだというのに、突然にリョーマから振られた疑問に竜崎は顔を奇妙に顰めた。
「はあ?一体なんだってんだい。薮から棒に」
「だって、オレ以外は名字で呼んでんじゃん。カチローとカツオもそう。なんで名前で呼ぶの?」
そう言って、質問の矛先は後ろに居並んだ顔馴染みの同級生3人組へ。
こちらも唐突に話題を向けられて、吃驚したような顔付に揃いも揃って変わる。
「リョ、リョーマ君、今、桃ちゃん先輩がコートで頑張ってるのに…」
「ほら、やっぱり名前で呼ぶ。ねえ、なんで?」
「なんで…って言われても。ぼ、僕達友達だし…」
別に気圧される必要など無く、普通に返せば良いのに、カチローはどこかおどおどした様子でリョーマに返答した。
カチローの語尾に被さる様に、向かいの高椅子に腰掛けた審判が30ー15、と声を張る。
「ああ…そっか」
カチローの返事に、リョーマが少しばかり納得した様な態度でそう返してくるものだから、カチローは少しばかり傷付いた。
友達である、ということに今更気付いた、というようなその態度は傍から見れば失礼以外の何者でもないだろう。
「なんだい、名前で呼ばれるのが嫌なのかい?リョーマ?」
腕組みをして呆れ顔で竜崎が言う。そんな竜崎へ、思案を巡らす様に小さくリョーマは唸った。
「そういうんじゃないんだけど…」
「けど?なんだい?珍しくはっきりしないねえ」
「うちの仔猫がヤキモチ妬くんだよね。自分は呼びたくても呼べないもんだから」
「仔猫?アンタんちのあの毛むくじゃらの子かい?」
竜崎が頭に描いていたのは越前家の愛猫だ。たった数回くらいしか見たことはないが、リョーマの父親とも進行のある竜崎は、一応ヒマラヤンの彼とは面識がある。
ふわふわとした毛並みも、竜崎の手にかかれば、毛むくじゃらで済まされてしまうらしい。本人が聞いたら、どういう顔をするだろうか。
けれど、リョーマは竜崎の答えにふるりと冠りを振った。
「そっちじゃない。第一、カルはもう仔猫じゃないし」
「じゃあ、新しい仔猫でも飼ったのかい?今度は何猫だい?」
「何猫…って言うか、黒豹?」
それが自分の名前を呼ぼうにも照れがあるらしくて、リョーマとは呼んでくれない、とゲームの審判台に、黒豹宜しくしなやかに腰掛ける手塚を目の前に置き乍ら、リョーマはさらりとのたまった。
つれないあのこ。
短め短め。でもこれだけが書きたかったので悔いはなく。
ちゃんと、意味伝わってますかね?????
othersへ戻る