old taste
















リョ塚in遊戯王テイスト、と思い込んで読み進めてください。
















やや重いガラスの扉を押し開き、リョーマは薄暗い店の中へと足を進めた。
軋むドアの音に気付いたのか、奥のカウンターと思しき場所から、短く髪を切りそろえた店主が無愛想ないつもの顔をひょこりと出した。

「よう、久しぶりだな」
「なんかいいの入ってる?」
「うちはいいもんしか揃えない主義だぜ?どういうもんを探してるんだ?」

立ち話もなんだ、と店主に手招かれ、堆く積まれた箱の山をくぐり抜け、カウンターの向かいに据えられている丸イスへとリョーマは腰を下ろした。



此処は、巷で昨今もてはやされている、とあるカードを専門に扱う云わばホビーショップと一般的には称される場所。
そのカードが現れる前まではプラモデルなども扱っていたらしく、店内のそこここに少年向けの玩具の在庫の箱が転がっている。

カード、と呼ばれるだけあり、その正体は薄い長方形の紙片。トランプの様な外見だと想像して頂くと容易いかもしれない。
そのカードを用い、プレイヤーは魔術士になって、表面に描かれた呪文やモンスターを召喚して対戦し、楽しむ。カードと一口に言っても、その種類は多種多様で、トレーディングカードとしても流行を来してきている。
そして、その幾種類ものカードを入手し、自由に組み合わせ自分だけの『デッキ』を作り、対戦相手と戦うことができる。基本的なルールとしては、相互に与えられたライフポイントを先述した呪文やモンスター等を使って削り合い、先に相手を0点にした場合、勝利となる。

リョーマも、そのカードゲームのプレイヤーの一人であった。






「ついこの間、『いいもん』買ってったばかりだろうが、お前さんは」
「ああ、クニミツ、ね」
「あれさえあれば敵無しだろうが。何しろ、世界中のプレーヤーが欲しがる超レアカードだぜ?」

他に何が要るんだ、と続ける店主にリョーマは苦笑してみせた。

二人が話す、レアカードとは、この世に1枚、若しくは数枚程度しかない、特出した攻撃力や防御力、特別な能力等を持つカードのことである。
その一枚をリョーマは先日、この店主から購入した。そのカードの名称が『クニミツ』だ。

「クニミツは使ってないよ」
「はぁ?」
「だから、他にいいの無いか探しに来たんじゃん」
「ちょ、ちょっと待て。お前、折角のレアカードを使ってないのか…!?」

淡々と述べるリョーマに、店主は酷く狼狽した。

「使ってないよ」

店主の慌て振りを気にかけることもなく、尚もリョーマは飄々と言って退ける。

「持ってるだけでいいんだもん」
「…そういうのを宝の持ち腐れって言うんだぞ…」
「だって、他の奴に見せるのも勿体ないし」
「カードはデュエルで使ってなんぼだろうに…」

なんて勿体ない、と店主は頭を抱えた。それに対して、リョーマはそう?と不思議そうに首を傾げてみせるばかりだが。

「あのカード以上のもんなんてなあ、そうそう落ちてたりするもんじゃ…………、ああ、そういえば」
「ん?どしたの?」

自分の発言により、何かを思い出したらしく、店主はすぐ後ろの棚に積まれた箱のひとつをがさがさと漁り出した。
不思議そうにその様を見遣りつつ、リョーマは頬杖を突き乍ら大人しく店主の動きが治まるのを待った。

間もなくして、店主は一枚のカードを取り出し、カウンターの上へと置いた。
リョーマもそれを覗き込む。そして、目を見開いて、店主の顔をパッと見上げた。

「これって…」

そのリョーマの反応を待っていたかのように、にやりと不敵に笑った。

「要るか?」
「いる!!」

力一杯答えるリョーマに、店主はにやにやと楽しそうに笑ったまま、カード1枚の金額を提示する。
紙片1枚としては尋常ではない値段ながらも、リョーマはさっさと財布からその金額を取り出しカウンターに叩き付ける様に支払って、カードをポケットへと捩じ込んだ。
そのまま出口へと踵を返す浮き足だった少年に、今度は精々有効活用してくれよ、と店主は声を投げるが、

「まさか。こっちも勿体なくて使えないよ」

晴れやかな笑顔でそう返されて、カウンターに呆然と立ち尽くした。








「クニミツ!」

場所は変わって、リョーマの自室。
一人部屋である筈のその室内には、凛と立つ青年にも似た顔の少年があった。

ノンフレームの眼鏡に、涼やかな切れ長の眸。すらりと長い手足。右流れの癖のある髪がくるりとドアを騒々しく開けたリョーマを振り返った。

そう、『彼』こそ、レアカード・クニミツ。
ありとあらゆる攻撃を無効化し、相手の攻撃力・防御力を吸収してしまう『手塚ゾーン』を発動できるサポートカードながらも、世界にただ1枚存在する最強のカード。
カードでありつつも、こうして姿が具現化するのもレアカードの由縁でもある。

「どうした?」

バタバタと自分の元へと駆けてきたリョーマのやわらかい髪をふわふわと撫でつつ尋ねてくる。
そんな手塚の目の前に、先程入手したカードを笑顔で突き付ける。

手塚の、表情が固まった。

「お、おまえ…どこで、それを……」
「馴染みの店で」

えっへへ、と、とてもとても楽しそうに笑うリョーマとは裏腹に、手塚は苦々しい顔をする。

「こういうのがあるんならさ、言っといてよ。もっと死にもの狂いで探したっていうのにさ」

手にした例のカードに、チュ、と唇を軽く触れさせ、上目遣いで項垂れている手塚を見る。

「誰が言うか………」
「だろうと思った。あの店主に感謝しないとねー」
「越前」

ぎらり、とレンズ向こうの手塚の目が鈍く光った。
名を呼ばれ、ん?と反応を返すと同時。
素早い動きで、手の中のカードを奪われ、リョーマは小さく叫びを漏らした。

「ちょっ!何すんの!?返してよっ」
「これは俺が預かっておく。どうせ、使う気などないのだろう?俺同様」
「たしかに……使わないつもりだけど…」
「ならば、問題はないだろう?」
「それとこれとは話が別っ!返して!」
「却下だな」

元はカードの癖に、リョーマよりも遥かに手塚の方が背が高い。
カードを奪い返そうとぴょんぴょんと飛ぶリョーマを嘲笑う様に、腕を掲げ左右に振って攻撃の手を躱す。

「〜〜〜っっ」

悔しそうに唇を尖らせるリョーマに、思わず良心の呵責を覚えるが、ここばかりは譲れない。
何しろ、このカードは―――……

「…返してくれないんだったら、こっちだって手段は選ばないんだからね!」

ぐい、と突然胸倉を掴み、手繰り寄せ、重力に任され落ちて来た手塚の唇に自身の口唇を押し付けるようにしてキスを奪った。
逃げられないように、唇に触れた瞬間に掴んでいた手は胸倉から首の後ろへと交差される。

くちゅくちゅと口内をやや乱暴に荒らされ、掻き回されて、自然と手塚の体の力は抜けて行く。
勿論、リョーマの狙いは最初からはそれで、力の抜けきった手塚の手からカードをあっさりと奪い返した。唇を離し終わる前にはやさしく鼻頭へとキスを落としてやってから。

「召喚!」
「…!よせ、えちぜ……っ!!!」

カードを奪い返してすぐに、リョーマはカードを掲げてそう叫んだ。手塚の抑制の声は、遅く、ハッと顔を上げた時には、カードから人の影が出現した後だった。

カードの絵柄でもあったそれを目の当たりに、手塚は目眩すら覚えた。


「うわ、かっわい…!」

当のリョーマはと言えば、目の前に現れたそれに嬉々として目を輝かせた。
出現したそれ、とは…

「あなたが今度のマスター?」
「マスター、じゃなくて、リョーマ、って呼んで?」
「リョーマ」

にこり、とそれが笑う。
手塚はまだ甲高いその声に更に追い打ちをかけられた。

小さな小さな華奢な体躯。
まだ丸みを残した幼い輪郭と円らな瞳。
ノンフレームの眼鏡と右流れの独特の髪型。

そう、今、リョーマの後ろで煩悶としている手塚をそのまま幼くしたカタチ。

「クニミツも、小さい時は素直だったんだねえ…」

やけにしみじみと、リョーマが言うのに対し、きょとん、と小さな手塚は緩く小首を傾げた。

「クニミツ?」
「うん。そこで頭抱えてるのがクニミツ」
「あ、聞いたことある。俺はそのカードの小さい頃のものだって」
「うん、それそれ。ほら、クニミツも挨拶したら?」
「いい…」

何の因果で、幼少時の自分と対面しなくてはならないのか。
しかも、今の自分より遥かに無邪気でにこにことよく笑う。現在の自分からすれば羞恥ぐらいしか沸き起こらない。

けれど、リョーマは何を勘違いしたのか、何かを思い付いた顔で必死に顔を背けようとする手塚の傍へと歩み寄る。

「もしかして、妬いてるの?」
「は?」
「ダイジョーブだよ。確かに小さいクニミツも可愛いけど、オレが好きなのは今のクニミツなんだから」

そして額に唇をふわりと寄せ、首へと腕を絡み付かせて、耳元に、今の綺麗なアンタがね、とやけに低い声音で囁く。
決してそういう意味で気分を害していた訳ではないというのに、その言葉を待ちわびていたかのようにぞくぞくと膚が粟立って頬が熱を持った。

「別に…妬いてなど…」
「クニミツは嘘が下手だね」

くすくす、とリョーマが肩口で小さく笑う。耳にかかる髪がその笑い声でふわふわと揺れる。
本当に違うのだけれど、リョーマの腕の中は何故か落ち着く。そのまま、身を預け…

ようとして、自分達に向かってくる幼い視線にハタと気付く。

「クニミツ?」

いつもならば、すぐに身を任せてくれる手塚なのに、今はどこか緊張した様に身を固くしていて、どうしたのだろうか、と不意にリョーマが顔を上げる。
そして、リョーマも手塚が気付いた視線に気付いた。否、思いきりその視線とぶつかった。

「えと…」

どうしたものか、手塚を腕に治めたままリョーマは頭を悩める。幼い手塚の存在を忘れていた、という訳ではないが、本当に忘れていなかったのかと詰問されれば、NOとしか答えられない。
恋人同士の甘い時間が始まりかけていたのだ、ということで、それも詮方ないと思って頂きたい。

「カードの中に戻っておいた方がいい?」

ひょこ、とまた首を傾げて小さな手塚は尋ねた。
予想だにしていなかった問いに、目を瞬かせながらリョーマはしどろもどろに答えを返した。

「え?あ……うんと…、そう、だね」
「うん、わかった。また用があったら呼んでね。それじゃ」

ボワン、と薄煙が立ち上って、床にパタリと1枚のカードが落ちた。

「…なんか、随分と『全てお見通しデス』ぽかったね…」
「そう、だな…」
「やっぱ、アンタの小さい時だけあって、察しがいいつかなんつか…」
「そう、だな…」
「ま、折角、気を遣ってくれたんだし…」

下唇からそっと頬に触れさせて、伺うようにすぐ間近で手塚を見上げる。

「させて」
「仰せのままに。マスター」
「やだよ、その呼び方」

くすりと小さく困った様に笑いながら、もう一方の頬へとキスを落とした。




















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20102hitゲッタの小倉みるくさんよりリクを頂きました。ありがとうございましたー
このin遊戯王設定は小倉さんのサイトに元ネタがあります…!わたしもキュンキュンさせて頂きました。
その時のきゅんきゅんを思い出しつつ、ガリガリやってみましたが、まだまだ元ネタの小倉さんのものには敵いません…!
ぜひ、小倉さんのサイトにも足を運んでみてくださいませ…!

20102hitありがとうございましたv
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