欲張り
「この欲張り大王め」
フライドポテトを齧り、机に頬杖をついて手塚は不満げに向かいに座るリョーマを睨んだ。
当のリョーマはといえば分厚く二段に重なったハンバーガーを頬張り乍らぱちくりと目を丸めた。
「こんな謙虚な人間捕まえて、いきなり、何。何なの」
「どこが謙虚だ。お前一人で1000円越えてるんだぞ」
手塚がリョーマのトレイをコツコツと人さし指で小突いた。
そこには種類の違うハンバーガーが2種類、サイズの一番大きいフライドポテトが1つと小さいポテトが1つ。それからアップルパイにドリンクのLサイズが1つ、サラダ、フライドチキン、と、兎に角山程のファーストフードが盛られていた。
向かう手塚のトレイにはシンプルにSサイズのポテトにMサイズのドリンク。
頬張ったハンバーガーをしっかりと咀嚼して飲み込む。
「ちょっと奢ってやると言ったらこの有り様だ」
コツン、と一際大きく手塚が指でリョーマのトレイを小突くが飄々とリョーマはドリンクを啜って受け流した。
「それに、ものには加減というものがあるだろう。食べきれるのか?この量」
「朝飯前ですが」
そしてリョーマはまたハンバーガーの包装紙をがさごそと取り払って、それはそれは美味そうにかぶりついた。
この小さな体のどこに入るのか、と手塚はその有様に憂鬱そうにまたポテトを一本齧った。
「アンタの方がオレなんかより欲張り大王だと思うけどね」
「…根拠は?」
「いつも物欲しそうな顔してるじゃない。オレといると」
「……は?」
思わず、手塚の手からポテトがぽとりと落ちた。
不思議そうにリョーマはハンバーガーの最後の一欠けを口に放り込んだ。
「もしかしなくても…自覚なし、な、わけ?」
手塚はポテトを落とした時の姿勢で硬直したまま動かない。
リョーマは自分のポテトに手を付出した。
そのまま、Lサイズのポテトを食べあげ、フライドチキンを二つ食べ、サラダに手を付けたところで、手塚が漸く手を引っ込めた。
「あ、やっと動いた」
「…物欲しそうな顔?」
「常々、オレに何かされたいだなんて、アンタもやらしくなってきたね。…オレの調教の賜物?」
「調教言うな」
「調教」
「言うなと言っている」
「ちょうきょ…」
動こうとしたリョーマの口を手塚が掌で塞ぐ。もごもごとリョーマは苦しそうに藻掻いたが手塚が手を離す気配は一向に無い。
頬をうっすらと朱で染めて。
「言、う、な」
パタパタとリョーマは自分の口を塞ぐ手塚の手の甲をはたくが寧ろ手塚はぎゅうと掌を押し当てる。
「もう言わないか?」
手塚の問いにこくこくこくこく、と何度もリョーマが頷くのを見て、手塚も漸く掌を離す。
解放されてリョーマは直ぐにすうと大きく息を吸った。
「命の恩人だな、俺は」
「殺そうとしたのはその命の恩人さんなんだけど…」
「俺に殺されるならお前も本望だろう?」
「……」
「考えるな」
じっと思案顔で見詰めてきたリョーマに手塚は嘆く様に溜息。
自分を溺愛するこの少年ならばイエスと答え兼ねない。生憎と手塚には殺意なんて欠片も無いというのに。
「やっぱり、どう考えてもお前の方が欲張りだ」
「…その根拠は?」
絶対にそんなことはない、とばかりにリョーマは余裕の笑み。
そんなリョーマの顎を手塚は細い指でつうとなぞって軽く持ち上げた。凄艶な顔付きで。
「お前が欲張りだと言う俺を欲しがったのはお前だろう?」
指の腹で弾く。軽くリョーマの顔が上を向いた。
視線は丁度手塚の眸を捕らえる。
「如何かな?越前?」
その笑い方は、リョーマが仕込まずとも手塚が元から持っていた妖し気な表情だった。
彼が欲を張れば世界がそれを叶える為に躍起になる、起爆剤の顔。
欲張り。
結局はえちの方が欲張り?
そんな欲張り大魔神なえちさんがらぶいです。(盲目)
そして欲張りなえちを好きなみつこが好きだ。(処置なし)
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