ぬるいけどエロですよ。
本番ではない上に生暖かいですが一応エロなんですよ。
火の無いところに煙は立たないって言葉を知ってる?
どこかの誰かさんから聞いたんで、オレも最近知ったんだけど、少しでもその事実がなければ、噂が立つことは無い、って事なんだって。
身を持ってなるほどって思えるなんて、こんな事で知るなんて滑稽なんだけどさ。
エレベーターの中の非常用の受話器って、エレベーターが壊れた事があるから大体どこにでもあるんだろうね。
エレベーター
カシャン、と硬質なモノ同士がぶつかりあう音をさせて非常用の受話器を壁に戻してから、手塚はすっかり故障して微動だにしなくなったエレベーターの隅で座り込んでいるリョーマを振り返った。
「なんて?」
「あと1時間くらいは此処に居ることになりそうだ。今から業者に連絡する、と言われた」
「どこにかかったの?」
「このショッピングセンターの警備室だ」
二人同時に溜息。
最初から業者にかかる電話にしておけ、という思いと、参ったな、という思いとを混同させて。
扉近くの電話からリョーマの元へと歩み寄って彼に倣う様に手塚も腰を下ろした。
「厄年にはまだ10年あるんだがな…」
「それなら、オレは後12年だよ」
はあ。
二人揃って、本日此処に閉じ込められてから二度目の溜息。
それから間を置かずに沈黙が狭い直方体を支配した。
「…」
「…」
分厚い壁の向こうには休みということも相俟ってきっと大勢の人間が居るだろうに、その喧噪は塵一つ分もこちらには忍び寄っては来なくて、ただただ無音の時が流れる。
「……」
「……」
喧嘩をした訳でもないのに、どうしてお互い黙っているんだろう、と開く気配はまだ遠いエレベーターの扉をぼんやりと眺め乍らリョーマはふと思う。
事は単純で、どちらも口を開かないから結局会話が始まらないのだ。
そんな事には気付かないリョーマは、何か喋ってくれないかな、と他力本願も最高潮に隣に手塚を横目でちらりと盗み見た。
エレベーターが止まった時に備えられていた照明もすっかり落ちて暗い中に浮かぶ手塚の顔はどこか焦燥染みている様に見えて、途端に違和感を感じる。
普段の、威風堂々とした手塚とのギャップからの違和感。
ふと足元に視線を落とせば、悠々と足を伸ばして座るリョーマとは違い手塚は膝を立てていたりして、しかも履いている黒のジーンズが皺が辛うじて見てとれる程度ではあるけれど握りしめていたりして。
(あれ、この人…)
ひょっとしてこの状況に不安を覚えているんだろうか。
当たり前と云えば当たり前の心境にそこで漸く気が付くリョーマだった。
寧ろ、稀有にも程がある現況にのんびりとしているリョーマの方が肝が据わり過ぎていると言っていいのではないだろうか。
「ねえ」
リョーマの呼びかけに手塚は静かにこちらを向く。
反射する光量もないこの場ではレンズの奥の瞳がいつもよりも明瞭と見えた。
「もっと、こっちくる?」
顔を覗き込む様に首を傾げてみせれば、自分の不安を感知されたことが恥ずかしいのか情けないのか、眉を顰めた。
「大丈夫だ」
飽く迄、強気な発言が返ってくる。
手塚だとて男子の自覚はあるのだから、おいそれとリョーマの助け舟に乗る訳にはいかないのだろう。
それでも、幾許か増えた握りしめられてできた皺が増えた辺り、内心ではリョーマの言に従いたかったのかもしれない。
「…ホント、困った人」
苦笑して肩を竦める。それを咎める視線が手塚から向かってくるけれど、それは気にしない事にして、そのまま横移動してリョーマは文字通りに手塚と肩を並べた。
先刻までは何の温度もしていなかった膚にリョーマの体温が触れる。
「大丈夫だと言っただろう」
「『オレが』心細いからくっついただけだよ」
それが嘘だなんて飄々としたリョーマの口調からして明白なのだけれど、手塚の胸に安堵感が少しではあるけれど広がった。
「…」
「……」
「ねえ」
「…」
「今、何分経った?」
「よくわからん」
「2、3分くらいかな?」
「…かもな」
体内時計であと50分余り。
長い、とリョーマは思う。
その感、手塚と雑談も良いだろうけれど、まだまだ固い隣人の気配から察するにどうも会話は長続きしそうもない。
(第一、折角のデートで1時間て貴重じゃない?)
隣には愛しい人。
二人のフィジカルな距離は超が付く程に近距離。
ここまではいい。
問題はここからな訳で。
暗い。
相手は沈黙。
目ぼしい玩具も何もない。
「絶対、暇だあ…」
「…」
この密室で愛しい人と二人きり。
…。
密室で?好きな人と、二人きり?
何かがリョーマの頭の中で閃光を放った。
後数十分は誰も来ない密室、しかも強度の分厚い壁に囲まれた密室。
二人きり。相手はいつもは見られない不安の色を抱えた御様子。
「こういう部長も可愛いつか綺麗だよね…」
頬杖付いてしげしげと隣人を眺めれば気付かなかった様子の片鱗が見えてくる。
暗がりに白い肌。緊張した様にも見える不安気な横顔。
膝を抱えた掌はいつもより小さく見えた。
「…お前、視線がやらしいぞ」
身の危険でも察知したのか、膝を抱き込んだままで手塚がリョーマから逃げるような素振りをしてみせる。
「やらしい、だなんて失礼な事言わないでよ。ただ、有意義な時間の過ごし方を思い付いただけじゃん」
「有意義…?」
愈々、腰まで引かせて逃げの体勢に入ろうとする。
そんな手塚に愛想笑いにも似た乾いた笑いを顔に張り付かせてリョーマは手塚の腕を取った。
「お前、この非常事態に何を…!」
「いいから。黙って」
掴んだ腕を辿って肩を抱けば、手塚に逃げる猶予も与えない程素早く、リョーマは手塚の唇を奪う。
「…んっ」
相手の下唇を舐める格好でリョーマの下は手塚の中へと侵入る。
逃げ腰の手塚に覆い被さる要領で体重をかければ、固くしていた体が徐々に傾倒していく。
合間に短い嬌声を耳にしながら、複雑に舌を絡め、唾液を送る。
先ほどまでは全くの無音だった箱の中にはすぐにお互いを求めあう音が響き出す。
終には手塚の後頭部は冷たいリノリウムの床に這う様に落ちた。
それでも尚、リョーマは手塚を攻める饒舌さを緩めはしない。
先刻までの緊張と現在進行形で襲ってくる昂揚とが相殺する形で手塚の脳は既に思考が停止している。
唯、リョーマが入って果敢に責め立ててくるからそれを受け入れていた。
「…ん。…、ふ…っ」
もう何度目か判じられない小さな甘い声に、ゆっくりとリョーマが目蓋を持ち上げればそこには睫を小刻みに震わせる凄艶な恋しい人。
その痴態に誘われる様に手塚のシャツの釦に指をかける。飽く迄、口吻けは止めぬまま。
入ってくる外気に撫でられて、手塚の脳も冷静さを取り戻し始める。もう釦が全て外れる直前という頃合いも遅過ぎる時に。
「…!」
そして、最後の釦がホールを抜けた後に、確りと現状に気付き未だ止まぬリョーマのキスを受けながらその下で藻掻いた。
「えち……―ぜ、…」
「?」
自分を向こうに押しやろうとでもしたいのか、突如として両肩をぐいぐいと押し上げてくる。
いつもこの良い雰囲気を壊すのはこの人自身なんだよな。頭の片隅でそんな事を振り返りつつ、漸くリョーマは手塚を解いた。
「なに?」
リョーマがけろりとしているのに対して手塚は肩で息をしつつ、好く潤った瞳を向けてくる。
最後の一つを残して、全てがボタンホールを抜けるのには間に合った。
「お前、まさか最後までやる気じゃ、ないだろうな…っ?」
「え、当然……て、あ、そっか、まずいっけ」
完全に雰囲気の飲まれていたリョーマではあるが、『後数十分で人が此処へやってくる』という事は辛うじて覚えていたらしい。
「最後までやっても後始末できないし…」
「いや、論点はそこじゃないと言うか、しかしそこでもあるんだが…」
手塚としては『こんなところ』で『こんなこと』という倫理の話として切り出したつもりなのだけれど、リョーマはオケーションの意味合いとして手塚の言葉を受け取っていた。
この点に於いてだけは、どうも平行線を辿り続けているらしい。
「でも、まさかこのままで助けを待つってワケにも、」
先程まで手塚のシャツの釦に掛かっていた指がそのまま下降して、手塚の下腹部を柔らに触れる。
「…!!」
「いかないよねェ?」
にやり、とその口端が意地悪く歪み、直ぐに手塚のボトムスの釦を弾いた。
「越前…っ」
「外に零すワケにはいかないなら、『ココ』に溜めるしか無いと思わない?」
トン、と自分の腹部を親指で軽く突いてみせる。
深紅まで染め上げた顔で柄にも無くあたふたと手塚は慌てる。
その間にも、自分のボトムスのジッパーが下ろされていく音が聞こえて、手塚の脳は破裂寸前も近かった。
「越前…っ!」
「オレ丁度腹減ってたし」
「ちょ…っ!待て…――っ」
静止の声など何処吹く風、と完全に聞き流してリョーマは勢いも宜しく手塚の下半身を剥いだ。
次の手塚からのストップの命令が来るよりも先に、奥から覘いてきている手塚自身をその口内に納めた。
「…――ぁっ」
敏感な部分に舌を這わされて、仰臥していた躯が跳ねる。同調する様にリョーマの味覚の部分にも苦味が触れる。
先端から陰茎に沿う仕草で舌は根元まで辿り着いた。
その間もリョーマの動きに合わせて手塚の体は小さく何度も跳ねた。
「思ってるより時間経ってるかもしれないし、一息にいっていい?」
「どこが…一息だ。充分遊んでるくせに」
「遊んでないって」
言葉とは裏腹にリョーマは朗らかな迄に笑む。
「もう、どうにでもしろ――…」
自分から眼鏡を外して、その目を手で覆う。赤く朱く染まっていた顔色は未だその侭だ。
「素直な子は嫌いじゃないよ、オレ」
「お前に素直な子呼ばわりされる覚えも謂れもない」
愉悦に弾むリョーマの声に対して、手塚はどこか涙声。
手塚にとって、唯一の救いはこの場が薄暗い乍らも視覚がはっきりしない所だったかもしれない。
「じゃ、いただきマス」
もう勝手に食え、とばかりに手塚は抗う様子を見えない。どうにでもしろ、という先述の言はどうにも本音らしい。
流されてばかりでは佳い大人になれない事を彼が気付く日は来るだろうか。
「んっ…。…。……ふ…っ」
ぱくり、と擬音を背景に背負い込みそうな程の勢いの良さで一度は口を離したその先端をリョーマは咥え込んでそのまま吸い上げた。
口内では括れの裏側まで執拗に何度も往復したり、手塚自身の拡張を悦しむ様に唇で扱く。
硬質さも極限まで達してきて、手塚の息遣いも鼓動も輪をかけて早くなる。薄く開いた口許からは絶間なく嬌声が上がり続ける。
「…っ!」
一際、大きく口腔全体でリョーマが吸い上げたその瞬間に、手塚は爆ぜた。
痙攣するように跳ねていた躯もそれに伴って弛緩を始め出した。
後には、無機質な箱の中でリョーマの嚥下する音だけが嫌に響いた。
エレベーター。
こんなところでこんなこと…!(文中より引用)
フェラの表現て難しいっす。ポルノでも読むしかないのかなー…
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