待ちぼうけ
















キーンコンカーンコー―…
ガタガタガタガタ。ザワザワザワザワ。

午前の最後の終業のチャイムとほぼ同時に生徒達は席を立ち、各々の友人とお喋り開始。
そんな中、一人席を立たずにぼんやりと窓の外を眺める手塚が居た。

「手塚?お昼だよ?」

不意に降ってきた声に鷹揚に振仰げば、いつの間にそこに居たのか、乾が小さな包みをぶら下げて立っていた。

「ああ、乾か…どうした、こんな時間に」
「今日は手塚のところで皆で食おうって話だっただろう?それで来たんだけど…他の連中はまだみたいだね」

そういえばそうだったかな、と朧げな記憶の箱を突けば朝練の時にそんな話をしたような、していないような…。
つい今朝の事なのに、胡乱もいい具合だった。

ガタガタと音を鳴らして、乾は手塚の前の席の椅子を正面に据えて腰を下ろした。

「人待ちしてるみたいにぼんやりしてたけど、五月病かい?気が早いね」

漸く葉桜がちらほらとしてきた4月も始まったばかりだと云うのに。

「人待ち…か。まあ、似たようなものだ」
「流石にあの越前も易々と高等部までは来られないと思うけど?中等部を抜け出て来たら来たで、君、怒るだろう」
「…そうじゃない」

苦そうに笑う。少し恥噛むようにも見受けられる。

「待っているのは少し違うものだ」
「へぇ、手塚が越前待つ以外に何かを待つなんて興味深いね」

もう彼の習性なのだろうか、ごそごそとポケットを探って小さなノートを取り出した乾に手塚は明から様に嫌そうな顔をした。
ノートに挟まれていたシャーペンをカチカチと音立てながら、それで?と乾は言葉の先を促す。

「…敢えて言うなら、時間、か?」
「そんなに越前と早く帰りたい?」
「…そうではなくてだな…」

語調も愉悦気味に尋ねてくる目の前の同輩に軽い頭痛を覚える。
もしかしなくても、揶揄われている。

「…。…早く2年が来ないかと思ってな」

頬に淡く色を付け、手塚はまた窓の外に視線を投げる。
都会特有の隙間の無いマンションの稜線がただ在るだけの外界目掛けて。

つられる様に乾も一度窓の外を見る。それから手塚をちらりと見て、ノートに何か書き込んだ。

「2年…。…。ああ、なるほどね」

したり顔で更にノートにペンを走らせる乾に視線も寄越さず、手塚は瞑目する。
ふわり、と、外から吹き込んでくる微風が手塚の髪を揺らした。まだまだ春の薫りを多分に含んだ弱い風。

「長いな…」

この薫風があと1回通り過ぎるまでの時間というものは。

「越前も、同じ思いだよ。留年でもして待っててやれば?」
「そこまで不謹慎な真似はできんさ」
「じゃあ、毎日手でも繋いで帰ってやれば?」

早く2年という時間が繋がる願掛けにでも。
ふわり、と、手塚は頬を緩めた。

「…そうだな」
「春は恋人達を加速させるねえ…」

お熱い事で。
パタリとノートは閉じられた。






















待ちぼうけ。
越前馬鹿な手塚。高1の春。
お互い渇望しすぎだ。早くいちゃこりゃするといいよ。
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