愛してる
いつもどれだけ傲慢不遜な態度を取って、年上だろうと薄笑いを浮かべて相手の調子も頭から食ってしまうようなこまっしゃくれた子供だろうと、やはり脆いところはあるらしい、ということを手塚はまだ数カ月足らずの短い付き合いの中で薄々感じていた。
手塚とリョーマが肌を初めて重ねたのは初夏の日差しも厳しくなってきた頃だった。
愛情をもって人と交際する、という経験自体が初めての手塚にはそれが早かったのか遅かったのか知る術はない。
けれど、その回数が日を増して多くなっていく度に、リョーマの態度は変わっていった。
徐々に手塚に飽きて無味乾燥な房事になった。――ではなく、逆に手塚に縋るというか、悲壮感漂う程に必死そうに見えた。
こうしてまた週末を迎え、明日は休日だからという大義名分の下に目合わる自分の上で時折リョーマは囁き、口吻けを与えてくる。
その『時折』の回数が、流石に他者と経験の無い手塚でも矢張り多い様に思える。
自分に告げている、というよりは、どこか、リョーマ自身が確認する様に囁いている様にも手塚には思えた。繰り返し与えられるキスも、その一環にすら見えてくる。
「どうして………んんっ……ッハ………………そんなに何回も、言う?」
「部長?最中にどうしたの?喋るんだか喘ぐんだか、どっちかにしたら?」
リョーマの指先で躯を弄ばれている手塚側の方が負担が大きい。
負担の軽いリョーマは飄々と言葉を紡ぐが、手塚はそうはいかない。荒ぐ息の合間を縫う様に掠れた声を絞り出すことが精々。
本来、外界からは何者も侵入などしてこない器官を、自分達の享楽の為に開かせているのだから、当然と言えば当然の結果で。
何度回数をこなしても、その時の疼痛に手塚は慣れはしないから、今も震える指先は支えられる様にリョーマの指と絡み合わせる。リョーマに触れていれば、躯が二つに引き裂かれそうな痛みも治まっていく様な気がしたから。
「何回も、って……………ああ。愛してるよってこと?」
「ん…………っ」
眉が悩ましげに顰められ、声を発し乍らも手塚の中で蠢くリョーマの脈はどくどくと谺する。
「どうして?言っちゃいけない?」
「…そうでは、なくて……っ、お前は……っ、ちゃんと、俺に言ってるの、か?……っゥん」
絶痛と快楽と、綯い交ぜにされて濡れる眼を何とか開いて、腹上の少年を見上げる。涙で朧げにしか輪郭は見えないが、目を見張っている気配はした。
手塚に乗り上げたまま、バツの悪そうに表情を変える。
「アンタに対して、言ってるよ。知ってる?言葉は詛いの一種なんだって。だから、アンタをオレの詛いで縛ってるんだよ」
「…ッハ、また、支配欲が強い、もの、だな…っ」
「なんとでも。アンタだけは絶対誰にも譲りたくないから、ね。……………んっ」
短い呻きの後、リョーマは手塚の内部で爆ぜた。
体内で溯上する勢いも敏感に手塚自身に伝わる。一度自分の奥底まで侵入りこんで、重力に従ってまた河口へと向かう。
最初でこそ異物感に犯される感覚は気分を害したが、今となってはそれが自分の外に出ていく事の方が不快にすら思えた。どうせなら、このまま胎内にリョーマの残滓を収めておきたかった。
リョーマが自身を引き抜けば、河口から溢流が漏れ、そのまま、双丘の挟間を縫っていく。
楔が引き抜かれた瞬間に反射の作用で手塚の背が撥ねる。余韻を残して小刻みに震える手塚の身を柔らに抱いて、リョーマはひとつ息を吐き出す。
少しばかりの疲労感も共に吐き出して。
「越前、キスがしたい」
自分の身に腕を回してくる小さな躯を逆に抱き締め返し、汗で濡れた髪に埋没する耳元に告げた。
「していいの?」
「俺が、して欲しいんだ。変なことは聞かなくていい」
「ふーん?」
もぞもぞと身を動かして、手塚から腕を解き、両膝をシーツに摩らせて顔同士が正面に来るところまで上る。
リョーマの顔が視界に入ってきた辺りから、徐々に手塚は目蓋を下ろし出す。
それが完全に下り切る前に、リョーマはまた手塚を言葉で縛り、それから自身の目蓋もゆっくりと下ろして、まずは緩く唇を重ねた。
愛してる。
キス題でこういういちゃこりゃ何度目ですか…?
自然とこういう展開になってしまうので、そこんとこはご愛嬌です。
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