cat darling
















洋猫か、と呟いたきり目線まで猫を抱え上げ、手塚は青味がかったその円らな瞳を凝っと見詰めた。
抱え上げられた長毛種の猫は、いつもの奇声じみた鳴き声をあげることもせず、苛立たし気に尾をはためかせることもせず、ただぶらりと手塚の手によって抱え上げられている。
不思議そうな顔をして。






リョーマの部屋のほぼ中央で時が止まった様に見詰め合う一人と一匹の様子をよく冷えた麦茶を啜りつつ部屋の主は傍観する。
お互いが不思議そうな顔をして、目の前の『コレ』は一体何なのだろうかと勘ぐってでもいるような顔をして。


「そんなに珍しい?ヒマラヤン」
「洋猫の野良というのは見かけないからな。珍しい」

素直な感想を手塚は述べた。猫はまだ何も言わない。

「夏だというのに、こいつは暑くないのか?」

こんなに長い毛に覆われて。
手塚がようやくカルピンから視線をそらせてリョーマへと視線を移して尋ねる。

「ちゃんと夏の前に冬毛が抜けて、これでもすっきりしたから大丈夫なんじゃない?」
「見ているこちらが暑いぞ。刈ってやった方がいいんじゃないのか?」
「だから、ちゃんと不必要な毛は抜けたんだってば」
「だが、まだこんなに長いんだぞ?」

可哀想じゃないかと、手塚の科白としては初めてに近い単語が飛び出した。
猫を飼ったことはないと言っていたけれど、それにしたって普遍的な猫の知識が無い。未知との遭遇とは精々こんなものなのだろうか。

尚も手塚の手からぶらりと垂れている愛猫をリョーマは取り上げた。

「ちゃんと自分で管理してるってことでしょ、毛が自然に抜けて入れ替わってるってことは。人がそんなに気にしてやらなくていいんだよ」

リョーマの手の中で、やっと彼はほぁらといつも通りに鳴いた。

「それよか、こうやって脇持って抱え上げる方が心臓に負担かかるんだよ。抱えてやるならちゃんとケツの部分も支えてやらないと」

実践指導、とばかりに脇から腕を通し、臀部も手で支えてみせる。手塚は至って真面目な顔で繁々と頷いた。
猫は、またほぁらと鳴いた。そして、むずがるようにリョーマの手の中でもぞもぞと動き、するりと腕を抜けた。

「あ」

短く飛び出たリョーマの言葉を背中に受けつつ、わずかな距離をすたすたと歩いて手塚の傍まで近寄り顔を見上げて、にゃあん、と『猫らしく』鳴いた。
普段聞かない甘ったれた声。喉をゴロゴロと鳴らし、座る手塚の足に頬を摺り寄せた。

「…可愛いものだな」

飼い主のリョーマからすれば、明らかな媚売り。そんな事に、猫と触れあう体験は初めての手塚は気付けない。
頬を緩ませて、足下にすり寄るカルピンをひょいと抱え上げた。

ゴロゴロ、と機嫌良くヒマラヤンは喉を鳴らす。

「ふわふわしてるな」

先刻リョーマがやってみせた様に脇と臀部とを支えて抱える。顎にふわふわと当たる柔らかい毛は人間とはかなり違う。

「そりゃあ、長毛種だし」

猫が可愛らしいのはきっとこういう風に人心を惑わす為なのではないだろうか。手塚は見事にその術中に嵌まっているようにリョーマには映った。
このまま、手塚に愛猫を預けておくのは、何だか嫌だった。
否、表現は寧ろ逆か。
恋人の腕にこの強かな猫を置いておきたくない。なんだか嫌だった。

その心境の原因は、きっと手塚の視線が先刻からこちらよりもカルピンを見てばかりいるからだ。



そろそろ餌の時間だから、と凄く適当な事を言って、手塚の手からカルピンを奪おうとリョーマが腕を伸ばす。
――が、

ペシリ、とはたかれた。

手塚に、ではなく、ヒマラヤンに。
人が手を振払うようには猫は振舞えない。けれど、明らかに伸びて来たリョーマの腕を拒否するようにその掌上にペシリと肉球の付いた手を据えた。

「……カル」

恨めし気に名を呼べば、空々しくほぁらと鳴いてみせて手を引っ込めた。手塚の腕にすっぽりと収まる。

「…お前、飼い主のくせに嫌われてるんじゃないのか?」
猫と触れあうのは初めてでも、ペットとその飼い主の間に漂う雰囲気には流石に気付く。
揶揄かう様にくすりと笑われる。

「嫌われてないよ。今日は特別なんじゃない?誰かさんがいるから」
「?…………ああ、俺のせいか。ペットと飼い主というのは似るもんなんだな」

なるほど、とリョーマからすれば唐突に手塚は何かに納得した。

「お前もこの子も俺が好きなわけだ」
「…アンタ、自分でそれ言う?普通はオレのセリフなんじゃないの?『カルピンもオレもアンタが好きだなんて、ペットと飼い主って似るもんなんだね』ってさ」
「先手必勝と言うだろう」

楽しいらしい。くすくすと手塚は小さく笑って、なあ?と腕の中の猫に同意を求める様に尋ねた。
そしてそれに対して、ふにゃぁんと鳴く。よくできましたとばかりに手塚がその頭を撫でてやったりするものだから、いよいよ可愛げが無い。リョーマからすれば、という括弧付きだが。甘えられている手塚からすれば可愛い限りだ。

頭を撫でられて更に機嫌が良いのか、緩慢なペースで喉をゴロゴロと言わせる。

「…気に入らない」
「なんだ、いきなり」
「その毛の長い猫が」
「お前の猫だろうに」

おかしな事を言う、と手塚にまた笑われる。
ゴロゴロと鳴き尽くしたリョーマの不機嫌の原因のその猫は遂には手塚の二の腕に頬を寄せて瞼を下ろした。腕の中で眠る算段らしい。

リョーマの苛立ちは更に募った。

「ずるい」
「お前、相手は愛玩動物だぞ」
「部長はオレよりカルピンのが好きなんだ」

じぃっと妬む様に拗ねた様に手塚を上目遣いで睨んだ。

「比べる対象じゃない、と言っているだろう」

はあっと大きく呆れた溜息が手塚の口を突く。肩の力も抜いて吐き出した反動か、微震に腕の中の猫が批難めいた声音でひとつ鳴く。

「でもしっかり比べてんじゃん」
「…。…越前、ちょっと寄れ」

リョーマが喋る度にカルピンはぴくりと耳を小さく動かす。煩い、とでも無意識で抗議するかのように。
それに気付いた手塚は手招いてリョーマを近くへと呼んだ。

静かにしてろ、猫の睡眠の邪魔だと直球で告げれば機嫌は更に悪化の一途を辿ることは目に見えている。手塚だとてそれくらいは容易く想像がつく。

だから、


近付いてきたリョーマの口唇にツンと口を付けた。

「静かにしてやっててくれ」
「…カルピンの為っていうのが解せない…」

それでもどこか嬉しそうな顔を滲ませるのだから、猫が感情そのままに喉を鳴らしたり尾を振ったりするよりも、リョーマの方が判り易いかもしれなかった。






















cat darling
23932hitありがとうございました。槙野華麟さんへ!
(リョ×塚)×カルで。キスのおまけつきで。瑣細すぎますが…どぎまぎ。
手塚にべたべた懐いているようで、実はリョーマのことが一番好きなあの子だと思います。
猫はいいですよねえ…断然猫派であります。

23932hit感謝!
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