翼さえ残れば
その昔、人には尾が生えていて。名残として尾骨が脊柱の最下部にある。
進化の遺物であるその尖った骨を指の腹でリョーマは撫でた。自分のものではなく、自分の腰に跨がっている手塚の、を。
自らと同じく一糸も纏わぬ姿で、悩まし気に眉を顰める躯はぽきりと簡単に折れそうな程細い。リョーマが腕を回す腰も、余計な肉などない、見事に引き締められた躯。
「…っ、ん、ぁっ」
胯がいつつ、ゆっくりと浮かせている腰を手塚は自ら緩々と下ろしていく。
それまでお互いの肌を貪りあっていたせいで、手塚の腰の下にあるリョーマのものは雄々しく聳り立っていて、手塚が開いた脚を更に開いて腰を沈めていく度に、手塚の裡へと少しずつ食い込んでいく。
手塚の先からは歓喜の程度が知れるように、少しずつ白濁の液が溢れ、茎から会陰へと伝ってリョーマの腹を濡らしていった。
「ふ……っ、んん…っ」
肉が肉に擦れる乍ら侵入してくる感触に、手塚の白い喉と背は弓形に反り返ってその光景を見上げていたリョーマの欲情の火種に油を注いでいく。
思わず、頭上の光景の凄絶さに喉が鳴った。
仰け反った喉の更に上にある濡れそぼった薄い唇は下腹を次第に圧迫してくる刺激に喘ぐ様に開いたり閉じたり、息を飲んだり、と忙しなく動く。
天井を見上げた顔に見える目蓋が堅く閉じられて小刻みに揺れているのがリョーマの眼には映る。痛みを堪えているよりも、その様は快感に打ち震えている姿にしか見えなくて。
いつもヘの字に曲がるか直線を結ぶことしか見せない口許が俄に吊り上がっているのがそのなによりの証拠と言っていいだろう。
ずぶずぶ、と淫らな音を立てて、リョーマのものは手塚の最奥へと突き立てられて行く。
手塚が上げる声にも喜色の色が濃くなり、逆に手塚の下で仰臥するリョーマの眼は肉壁で締め付けれられる圧迫感に苦しそうに少しだけ歪んだ。
喰らっている筈なのに喰らわれている気配。優位は今はあちらにある。
反った薄い背が一際大きく張り、手塚の口許から短くも甲高い掠れた嬌声が噴出した。イイところに当たっているのだと、手塚のその反応でリョーマは勘付いた。嬌声をたらたらと零しながら、手塚は腰をくねらせる。
最初の頃と比べるとなんとステップアップしたものか。吸収の早い優秀な生徒にリョーマは困った様に溜息を小さく漏らした。
リョーマの全てを飲み込んで、腰を揺らし一人追い立てられていく手塚の腰を支えていた手を離し、脇腹の線から入りこんで、背なを撫ぜてやる。
反り返る背には明瞭と浮かぶ背筋と肩骨。
先程まで触っていた尾骨が尾の名残だとするのならば、この肩骨は羽の名残。勿論、自分の祖先達には羽など生えていない。
けれど、こんなにもくっきりと浮かび、しかも手塚がリョーマの上で躯を揺する度に天使が羽ばたく様に狭まったり広がったりするのだから、この人の祖先にだけは羽が生えていたのかもしれない。
ふと、そんな事を手塚の肩甲骨に触れていたリョーマは自分の考えに違和感を覚えた。
自分の腹の上の生物が天使の末裔だなんて、そんなことは有り得ない。
男のものを後孔で咥えて、快楽を満喫しようと腰をくねらせて自分の性感を煽情する箇所に擦り付けて、歓喜と享楽に打ち奮える天使なんて聞いたこともない。
こんな風に、妖し気な微笑を湛えた天使というものも、どんな絵画でも見たことなどない。
そうだ、それにきちんと尾の名残があったではないか。
天使ではない。尾が生え、羽が生えているもの。天使などではなく、それに該当するものは、悪魔、ぐらいだろうか。
そうか、悪魔の末裔か、この人は。
それならば、頭上と下肢で繰り広げられている凄艶な痴態にも頷けるというもの。
蝙蝠の様な黒く歪な翼さえ残っていたなら、こんな極地に着くまでにこの淫らな本性が知れていただろうに。
進化のバカヤロウ。
リョーマは舌打ち、地獄の使いを懲らしめるべく、熱く火照った裡へと激しく腰を打ち付けた。
翼さえ残れば。
手塚さんは飲み込みが良い。色んな意味で。
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