「…っあ、あああっ!」

悲鳴にも似た嬌声が迸るのと同時、撓るその白い喉が綺麗すぎて、思わず喰らいついた。













明け方の戻り道
















嫌になるくらいしっかりとした足取りで1歩先を歩かれて、リョーマは呆れた様に朝焼けの空を見上げた。
散々にお互い体力を消耗した朝の帰り道の筈なのに、この悠々とした様はどうだろう。矢張り、鍛え方が違うのだろうか。

朝焼けの空から視線を下ろす。自分の未だ細い二の腕。
ぐ、と拳を作り、腕を直角に曲げてみれば、隆起した筋肉が半袖の下からむくりと頭を擡げた。
オレだって鍛えてるんだから。
決して負けちゃいない。リョーマは何度か腕を曲げたり伸ばしたり、を繰り返した。

「どういう遊びだ?それは」

不意に頭上から声が降って来て、リョーマは屈伸させていた二の腕から視線を上げた。いつもの淡々としか顔の手塚がいた。

「別に」

たん、と大股で一歩足を進めて、リョーマは手塚の隣に居並んで歩いた。
一二度、手塚は首を不思議そうに捻ってから、また正面に顔を向けて歩き出す。

閑静な住宅街を遠くに。
静かに上る東側の太陽で、空は赤紫色に染め上げられる。
写真にでも収めれば、朝なのだか夕方なのだかわからないだろう。赭く燃える空。
薄く長く尾を引き乍らその空に漂う雲をまた見上げながら、リョーマはひとつ伸びをした。

朝が始まる。



空から下ろしてきた視線のフレームの中に、部活で見る様な涼し気な手塚の顔が映り込んで、不意にリョーマはその手を握った。
特に、理由なんてなかった。好きだから、恋をしているから、その距離を少しでも縮めて感じたいと急に思えど、誰も咎めはしないだろう。

けれど、そんなリョーマを手塚は視線で咎めた。

「なに?」

険しい色をして降ってくる手塚の目を逆に睨み返して抗議を短く伝えれば、視線を逸らされた。

「人なんていないんだから、いいでしょ?」

人々は今、漸く目を覚ましだす頃。リョーマもいつもならば夢の中、という時間。
その上で、更に人通りが少ないコースを選んでの帰り道。
常日頃は周囲など気にも留めずに我を貫く人だというのに、こういう事に関しては、場所、時間、状況、と只管に気にする。そんな手塚を慮って選んだ道だというのに。
朝焼けに染められる家までのこの戻る道は手塚が常に提示する条件は全てクリアしている筈だ。

リョーマが握った手に力を込めて強く握っても、手塚はこちらを向いてはくれない。

「別に、いいけどね」

離そうとはしないのだから。
繋いだ手が暖かい。それは、妙な違和感をリョーマに不意に与えた。

「部長、手があったかい」
「俺も血ぐらいは通っている」
「そうじゃなくて。いつも、アンタのが手、つめたいのに」

いつもは逆にリョーマの体温の方が高くて、子供だな、と手塚に揶揄されたこともあるというのに。
その大人ぶった手塚の手が、暖かい。

「どうして?」

答えに該当するようなものはひとつも思い浮かばなくて、思ったままにリョーマがそう純粋に手塚へと疑問をぶつけてみれば、あちらを向いたままの顔の中で薄く開けられた目だけがこちらを窺って来た。

「お前の…せいだろう」
「意味わかんない」

放り込まれた熱がまだ冷めきっていないことを、当事者であるリョーマは知らない。
知っているのは、手塚と、その躯だけ。

朝日が空気を温め始めた。


















明け方の戻り道。
偶にはこういう自己中心的なもの書いてても笑って許してやってください。
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