この世が踊るのに必要なカロリーを3分以内で計算せよ。
世界は踊る
「地球は踊っているのではなく、ただ規則的に廻っているんだ」
へえ。じゃ、そのキソクテキなキソクってどんなキソク?
「1日に何回転だとか、何か法則があった筈だが?その辺りは乾の方が詳しい。アイツに聞け」
その回転だって、自分の目で見たことないでしょ?ひょっとしたらサルサ踊ってるかもしれないじゃん。
「…ああ言えばこう言う…」
それはアンタでしょ!
「いや、お前だな。そういうのを屁理屈と言うんだ」
絶対アンタだね。
「だって、地球が回ってるのなんて体感してないじゃん!オレも部長もっ!」
「…。ほら御覧、少年。雲が動いているだろう?地球が廻っている何よりの証拠だ」
「あれは風のせいじゃないの?雲って水蒸気のカタマリなんでしょ?カップ麺の湯気ふーって吹くのと同じ原理じゃないの?」
「…そういう変なところで現実的だし」
「うぜえ!」
勢いを大きくつけて、リョーマは身を起こした。堤防に生える草がさわさわと鳴った。
「世界は踊ってんだよ。その方がいいに決まってる!」
「何がどういう理屈で良いのかな。少年よ」
微風で変わらず揺れ続ける丈の低い草に埋もれ乍ら、リョーマには視線もくれず、仰向けの目の前に掲げた愛読書の字面を追いつつ手塚は隣で身を起こしたリョーマに告げた。
「その方が楽しいからに決まってんじゃん」
「第一、なんでサルサなんだ。そんな陽気に踊る母星はあまり見たくないな」
「あっ、ぶちょー、ファンタについてるシールを集めたら宇宙に行けるって」
飲み干した空き缶をくるくると両手の間で回し、缶の側面についていた黄色く角の丸いシールをぺろりと剥がして、秋空に掲げてみせる。
分厚くもないのに、完全合成フィルムのそれは秋晴れの陽の光を透しては来ない。
「踊る母なる星を見たくはないかね、少年」
「見たくないと先程言っただろう。少年」
「行こうぜ宇宙」
「行かない」
本のページをひとつ繰った。秋は風が涼しい。部活も引退してしまったせいで放課後や土日が暇で仕方が無い。
尚も紙上の文字を追いかける手塚の隣で、ぷうと膨れてからリョーマはまた身を倒した。戻る時も勢い良く。
彼の威勢は草と剥き出しの土がクッションとして受け止めてくれる。
「つれないんだから」
「生憎と、釣る方が趣味なんでな」
「…へえ。ざぶとん、一枚ヤマダに持ってこさせようか?」
座布団と幸せをお運びします。
ちゃんちゃかちゃかちゃか、てんてーん。
「アメリカ帰り1年目の12歳が笑点なんて見るわけないだろう…」
「15歳が笑点の存在を知っているのも結構驚きだと思うよ?」
つまりは両成敗。
ふう、と読書を続ける手塚とは違って手持ち無沙汰なリョーマは嘆息をひとつ。秋色の濃い高い空に霞んで消えた。
「世界は踊ってるんだよ、部長」
「ああ、そうか」
「オレも踊りたーい…。踊ろうよー、ぶちょー」
「これを読み終わったら付き合ってやるからそれまでは昼寝でもしてろ」
寝るのはお前の得意分野だろう?
やっと、手塚が横目でだけれどリョーマの方を見た。ばっちりにそれと目を合わせて、リョーマは朗らかに笑みを浮かべる。
「部長、踊りなんてできたんだ?」
「さあな。人間やろうと思えば何でもできるんじゃないか?要はやる気が全てだ」
「うわー、ハイパーポジティブ」
「ハイパ…それも何だか久々に聞くな…」
「ねー、タンゴかワルツかフラメンコ、どれにする?」
「地球と同じ踊りでいいんじゃないか…?」
「地球が踊るワケないでしょ。5.978セクスティリオン・メートルトンの巨漢じゃ踊りにくくてしょうがないじゃん。部長、地球は踊ってるんじゃなくて回ってるの。小学校でやらなかった?」
「お前…さっき自分で……」
「んー。ロンドだと誰かさん思い出すし…ここは中学生らしくフォークダンスで手を打たないかね、くにみつくん」
「…………読み終わったらな」
遣っていた目を呆れで充ち満ちさせて、手塚はまた本の世界に戻った。
世界は、踊り続ける。
世界は踊る。
なんか二人がエセくさくてすいませ…。
30題へ戻る