プリプリマドンナ
















「アンタって、絶対油断してる!」

リョーマがそう不機嫌そうに怒り乍ら手塚を睨んだのは、都大会の鎌田中との試合の帰路の事だ。
青学メンバーと別れて二人になった途端、そうしてリョーマが口を開いた。

思えば、試合が終わってから少し睨んでいたような気がする。
そう思っても、こうして怒られる理由が手塚にはとんとわからなくて、ついつい小首を傾げてしまう。

「ああ、ほらまたそうやって!」
「何がだ」

ほとほと呆れた様子で手塚が一つ溜息をつく。

「そうやって判ってないことが罪だよ。あのさ、何で試合、半パンで出たの!?別に半パンじゃなきゃだめってルールでもないのに!」
「何故と言われてもな…長いと動き辛いだろう」
「あーもーっ、ホント判ってない!!」

のんびりと答える手塚に痺れを切らした様にリョーマは自分の猫っ毛な髪をくしゃくしゃと掻き回した。
穏やかなその性質の髪は強く掻き回しているのに癖が残らない。
風に遊ぶ柳の如く柔らかそうなその髪に触ってみたくなったが、そう言えば相手は怒っていたのだったと思い出して伸ばしかけた手を引っ込めた。

「何を怒ってるんだ」
「だから!半パンだったら、みんなにアンタの足見えちゃうじゃん!」
「…矢張りお前がどうしてそんなに怒ってるのか皆目見当がつかないんだが」

そして、また溜息。
そんな手塚に人指し指を突き付けてリョーマが口角泡を飛ばす。

「だーかーらー!アンタは気付いてないんだろうけど、みんなそういうトコにクラクラくるもんなの!さっきのこう、首傾げるのだってどんだけ相手を惑わしてるんだか知らないでしょ!?」

言って、リョーマはさっき手塚がやったのと同じ様に小首を傾げてみせる。

「そうは言われても癖だからな、首を傾げるのは」

あーっもーっ
リョーマの怒りは収まらないらしく、歩く速度を上げ、手塚より2歩程先を歩き出す。
そうして速く歩いてみるも、手塚の方が遥かにリーチが長くてすぐに追いつかれてしまう。
追いつかれる度にリョーマは一時的に速度を上げて手塚の前で歩き続けた。

「本当に何を拗ねてるんだ、お前は」

その行動が年相応な子供っぽくて今度は溜息の代わりに微笑みの様な苦笑。

「だって!」

手塚が漏らした苦笑を耳聡く聞き取って、リョーマが手塚を振り返る。
途端、リョーマの足が止まって手塚もつられて歩を止めた。

「困るんだよ、アンタを誰かに持って行かれそうでさ」

先程の怒気は何処へやら、一変して寂しそうに項垂れた。
そうやって繰る繰る表情が変わるのも、子供らしい仕草で手塚は喉でくつくつと笑った。

「なんで笑うの」

俯いたまま、視線だけで手塚を睨み上げる。
手塚は笑いを口元に残したままだ。

「ああ、すまん。お前も立派に子供なんだな、と思ってな」
「どーせ、オレは子供ですよ!拗ねてますよ!不安になってますよ!!」

また頬を膨らませてぷいっと前を向き直してリョーマは歩き出した。
そんなリョーマの後ろで今の言葉を反芻した手塚がふ、と何かに気付く。
そして一人でさっさと歩き出したリョーマの後ろでまた歩みを始めた。

「不安になってるのか?」
「なってるよ!アンタ、本当に自分がどれだけ周りから狙われてるか知らないんだから!」

手塚の規則正しい跫を後ろに聞き乍ら、今度は振り返ることなくリョーマは言葉を投げる。

「それは、なんだ、俺がお前以外に易々と心移りすると思ってるのか?」

その手塚の言葉でずんずん歩いていたリョーマの足が止まる。
左足は一歩を始めたところで、中空に浮かせたまま固まっている。
いきなり止まられて、手塚はリョーマのぎりぎり後ろで立ち止まった。
止まったり突然歩き出したり忙しい奴だ、と手塚は一人思う。

「ねえ、今の、狙って言ってる?」
「何を狙ってだ?」

片足を宙に浮かせた奇妙な格好のまま、リョーマが首を捻ってこちらを向く。
そしてやっぱりリョーマの言う所の意味が不明で手塚は不思議そうな顔をする。

「素なんだね…なんで、素でそんな殺し文句言えるの。天然ってオソロシー!!」

さっきのどこが殺し文句だったのだろう。
手塚は一人そう思って、その顔色は増々怪訝な表情が色濃くなる。
そして天然と言われたことに少しの腹立たしさを感じた。

「早くオレ大人になろうっと」

浮かせたままだった足を揃えて、気落ちした様に深い溜息をついてみる。
そうすれば、ふわり、と自分に触れるものがあって。

視線の両端には見覚えのあるジャージに包まれた二本の腕。
それで手塚が後ろから被さって来た事が判る。
そして俯いているせいで襟から覗く項に何かが当たる感触。
柔らかで温かくて。

「何を拗ねてるんだか判らんがこれで機嫌を直せ」
「〜〜っ!  それも素なんでしょ?ホント、アンタって恐ろしい人だよ」

それから先程よりも盛大に息を吐き出す。

「なんだ、まだ臍を曲げてるのか?」
「ううん、直った。子供扱いがお上手でいらっしゃる事で」

リョーマの髪に顎を埋め乍ら覗き込む様に相手を見てみれば、まだ拗ねた様な口調とは裏腹に見上げてくるその目は酷く嬉しそうで。

未だ未だ自分の手に負えるのだと思うとまた手塚から笑いが漏れる。

「ね、手繋いで帰ろ?」
「お子様は贅沢だな」
「子供は本能のままに生きるもんなの!アンタこそ大人なんだから子供のワガママには付き合ってやるもんだよ」

自分の肩から垂れている左手を取って子供は軽やかに身を翻す。
繋いだ手を中心にくるりと回った様はダンスでも踊っているかの様で。

「やれやれ。大人らしく我侭に付き合ってやるか」
「そうこなくっちゃ」

破顔したその子は大人の手を握り直して、また歩き出す。

























プリプリマドンナ。
4994を踏んでくださったくらげさんに捧げます。
手塚が無意識にリョーマを翻弄し、チッスしてそれで機嫌を直す12歳。というリクで頂きました。
リクありがとうございます!
ちゃんとお応えできているでしょうか?(ハラハラ)
タイトルが、あの、何ともアホ臭くてすいません…
怒ったり拗ねたりしているリョーマを指しております。
決してプリティプリティの略ではありません。(いや、そんなん思わんだろうよ)
プリプーラマドンナと迷ったんですが(どちらもアホくさい)流石にプリプーラは意味不明過ぎかな、と思ってこちらに。
手塚がキスする場所はお任せ頂いたので、項にしてみました。
もーう、個人的趣味です。げへへ。(オヤジ)
襟足から覗く項とかに滅法弱いチラリズムニストな私です。
そんなこんなで、くらげさん、キリ番ありがとうございましたv
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