sweet vivarents
















隣り合って歩む二つの影はT次路に差し掛かる。
互いの影から伸びる細い影は繋がれていて。

「じゃあ、ここでお別れね。オレんちこっちで、部長んちあっちだから」
「…ああ」

小さい方の影が道の左側を指差す。
大きな影はゆっくりと顔を縦に動かす。

「今日が試合だったから明日は部活午後からだよね?」
「そうだ。流石に午後からならお前も遅れんだろ?」
「多分」

多分て、お前な。
手塚が肩を竦める。

「ウソウソ、大丈夫。遅れないから」
「そうしてくれ」
「じゃあ、また明日ね」
「…ああ」

繋いでいない片手を振って立ち去ろうとして一歩を踏み出したリョーマの体が後ろにクンと引っ張られる。

何かと思って振り返ってみれば、自分は疾うに放した右手を手塚の左手が握ったままだ。

「…部長?あの、手」
「ああ」

いや、ああ、じゃなくてさ。
まだ何か用があったかと思い至って、進めた一歩を戻してまた手塚の元へ歩み寄る。

「他に何か言い忘れたことあった?」
「…ある」

短くそれだけ答えた手塚の口元を見遣り乍ら、リョーマは何だろう、と考えを巡せる。

しかし、いくら考えても明日の部活のことは話したし、道すがら今日の試合についての考察もした。
あそこのプレイはどうだったとか、次の相手はああだからこう攻めるといいだとか。

結論が判らなくて、手塚の目元へ焦点を合わせればこちらを凝っと見ている透明度の高い鳶色の眸とかち合う。

「何のことか判らないって顔してるぞ」
「うーん、もうちょっと待って。えーとね…」

顳かみに自分の人指し指を突き付けて唸るリョーマを只管見続けながら、手塚はふと自分達が道のど真ん中突っ立て居ることに気が付いてリョーマの手を引いて壁際へ移動した。

引かれた反動でよろけつつもリョーマも動き、背に当たる壁に全体重をかけて凭れる。

うんうん唸り乍ら遂には俯き出したリョーマを斜め上から見ていた手塚から細く穏やかに笑いが漏れる。

笑みで動いた茜色の空気に、弾かれた様にリョーマが顔を上げた。

「判った。何?結構アンタもオレに負けないくらいにワガママなんじゃん」

口の端を釣り上げて笑うそれはいつも手塚を翻弄する笑み。
そしてリョーマから感染したように手塚も目を細めて笑む。

「まあな」

肯定した手塚に満足した様にリョーマは無邪気に、にこりと笑ってやる。




「愛してるよ」





刹那、通りを風が走る。
まるで、リョーマのその言葉を手塚以外、たとえ二人が立つ壁の向こうの譲葉にすら届かせさせない、とでも言うかの様に。

その風に髪を玩ばれながら二人は立つ。

「これで満足?」
「ああ」

自分からその言葉を欲したのについつい手塚は気恥ずかしさから視線を逸らしてしまう。
そして、手塚が繋いでいた手を放そうと指を解き始めると今度はリョーマがその掌を強く握る。
左手にかかる圧力にまだ若干赤味の残るその目元でリョーマを振り返る。

「越前?」
「偶には、アンタからも聞きたいな」

にっと白い歯を微かに覗かせて手塚を見上げてくる。
それに手塚は反射的に瞠目する。

そんな手塚の反応は範疇内だったのか、リョーマは覗かせていた口内を閉じて、またにこりと笑む。
どこか、寂し気な色を混じらせて。

「いい。判ってる。アンタが中々な照れ屋だってことも、口下手だってことも。
  言葉にしなくてもちゃんと好きでいてくれてることも」

じゃ、今度こそバイバイ。
遂に繋がれていた手は離れる。

リョーマが2、3歩ほど歩みを進めたところで未だ吹いていた通りの風に乗って微かな手塚の声が届いた。

「好きだ」

その3つの音色にリョーマの歩みが止まる。
そして、ゆっくりと手塚を振り向いたリョーマの顔は耳まで紅に染まっていて。

「あー、えっと」

リョーマが俯きつつ、かしかしと頭を掻く。

「あ、ありがとっ」

叫んで、また身を翻してバタバタとアスファルトを足で喚かせて道の彼方へと駆けて行った。

すぐに見えなくなった小さなその影に手塚は小さく苦笑しつつ、また明日な、と零した。





















5151ヒットを踏んで下さったくらげさんから頂いたリクで、『プリプリマドンナの続きの様な感じで、リョーマに甘える手塚。しかし、結果的にリョーマを翻弄する手塚』ということで頂きました。
ううーん、なんだか、リョマが振り回される点がなんだか履き違えてる感が否めないのですが、大丈夫だったでしょうか?はらはら。
二人は、アレなんです。
別れ際に必ずリョーマが「好きだよ」とか「愛してるよ」とか言ってるんです。(痛)
だから、その言葉が無くて、手塚は「いつものは?」って思って手を離さなかったとゆう。
その辺が手塚なりの甘えとして書かせて頂きましたが。

こんな感じでも大丈夫でしょうか?
毎回のことながら、人様からのリクというのは緊張してしまいます。
でも、自分じゃ絶対思い付かない素敵シチュなので嬉しいのですけれど。むふふ。
くらげさん、5151踏んで頂いて申告頂き、その上リク頂いてありがとうございましたvv

ちなみに、タイトルは完全に閃きです。
すうぃーとびばれんつ、と読みます。
恐らく、ビバレンツなんて言葉はないかと。
辞書で確認したところなかったです。
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