マラゲーニアゼム
















午後の授業も難無く終わり、放課後の部活動の時間が始まる。

グランドでは陸上部や野球部、体育館ではバスケ部などが活動を始め出す。
そして、勿論、この青春学園内のテニスコートではテニス部も活動を始め出す。

最初にコートに響くのは部長であるリョーマの声。
そして、その隣には副部長の大石の姿。

「えー、じゃあ、今日もいつも通り練習するってことで」
「越前」

気怠そうに言うリョーマに大石がぴしゃりと言い放つ。
その声に更に気怠さを増したかの様にリョーマは後頭をぽりぽりと掻く。

「今日はレギュラーはミーティングからって言ってあったろう?」
「そんなの、大石と乾でやっときゃいいじゃん。いっつも殆どそんな感じだし」

そういう訳にはいかないだろう?
大石は頭痛でもするのか、眉間を抑えつつ大きく溜息をついた。

「はいはい。じゃあ、レギュラー陣はこの後、部室に集合するようにー。他はウォーミングアップして、ラリーから始めて。
  …これでいい?大石」

ちらり、と横目で大石を見遣れば、苦笑しつつも縦に首を振った。



「やーっぱ、人選ミスだって。英二が副部のが絶対良かった。大石ってば頭堅いんだもん」

レギュラー陣が部室に集合したところで、パイプ椅子を大業に撓らせ乍らリョーマがぽつりと漏らす。
それに応じるのは、苦笑いをしつつも河村。

「まあ、越前と英二じゃノリはいいけど破天荒なことばっかりやりそうだし。竜崎先生が大石を副部長に充てたのは英断だったと思うよ?」
「そーうかなあー。どーも大石は堅くってダメだよ。ねえ、手塚」

半ば強引にリョーマ自身に隣に座らされた手塚は急に話を振られ、どう答えたものかと思案顔になってしまう。

「こらこら、越前、手塚が困ってるじゃない」

わざわざ手塚の隣に椅子を持ち出してきた不二がいつもの様ににこにこと笑いつつ云う。

「不二も、油断なんないよね…ちゃっかり手塚の隣座っちゃってさ?」
「部長の権限で強引に隣に手塚を置いた越前よりはまだ謙虚だと思うけど?」

にこり、と不二は笑ってみせるが、背後で暗雲立ち込めるような気配がある。
それにリョーマは半眼で睨む様にして応じる。

「こら、そこ、無駄話しない!」

そこへ、ホワイトボードに議題と思われるものを書いていた大石が振り返りつつリョーマと不二を窘める。
見えない花火を飛ばし合っていた二人に挟まれた手塚はそんな大石をありがたく思う。やっぱり、この人が副部長で良かったかもしれない、と心の隅で思い乍ら。

「で、今度の練習試合のオーダーだったっけ?今日決めるのって」

相変わらず背凭れに体を預けつつリョーマが大石に訊れば、大石はちゃんと覚えていてくれ、とばかりに苦虫を噛潰した様な顔をする。
そこへ、桃城が小学校の学級会ばりに腕をぴんと張って挙手する。

「はいはーい!!普通、オーダーって部長が決めるもんなんじゃないッスか?」
「そう、本来なら…ね」

またしても大石。
今度は胃の辺りを押さえている。痛む、らしい。

「オレも決めたんだよ?でもさー、大石が猛烈に反対して聞かないんだもん。最後にはバアさんまで駄目だって云うし」

リョーマがぶすっと膨れる。
そんなリョーマの姿を見ると手塚はやっぱり、自分より2つも上だというのに幼いな、などと感じる。
体格こそ大きい方だが、中身はてんで子供だ。寧ろ、2つ下の自分よりも幼いのかもしれない。
そんな事を手塚はぼんやりと頭上のリョーマを見上げ乍ら思う。

「駄目だってオレも竜崎先生も言ってるのに、越前の方こそ考えを改めてくれないし…」
「はーい、おーいしセンセー!」

桃城に続いて、それまで大人しく座っていた菊丸が今度は元気良く手を挙げる。
それに大石はくすり、と笑って教師が生徒を当てる様に人指し指を向けた。

「はい、菊丸英二君」
「越前が決めたやつの、何がわるかったんですかー?」
「D2でオレと手塚で入れたら駄目だって言われた」

菊丸の問いに答えるのは当のリョーマ。
相変わらず不機嫌な表情そのままだ。

「ほえ?なんでそんなオーダーにしたの?」
「だって、しょっぱなからこう強いのドーンと出しとけば、相手の気勢も下がるじゃない?」
「ふーん。越前も随分と建前が巧くなったんだねえ」

揶揄う様な口調で不二が口を挟む。
それに更に不機嫌さに油を注がれたリョーマが今度は大きな瞳そのままで不二を容赦なく睨む。

「建前、ってどういうこと」
「ん?そのままの意味だよ。部長がオーダー決める権限があるからって、それは狡猾すぎるんじゃない?」

また自分の上で花火が散り出して、手塚は大きく息をつく。

思えば、何が原因なのか手塚は判らないがこの二人は口喧嘩、というか、牽制ばかりし合っている。
性格的に合わない、という訳でもないし、お互いテニスの実力は相当のものだから試合形式で練習をしているのをよく見かける。

一体、何が原因なんだろうか。

止みそうにも無い頭上の喧噪に手塚は一人小首を傾げる。

「よっく言うよ、不二。オレが日直だったり掃除当番で部活の頭に遅れる時はさっさと手塚かっ攫って部活終わるまで自分の相手やらせてるくせに」
「あれー?気付いてたんだ。もっと越前は鈍いタイプかと思ってたなあ」
「あ、あの…。部長、不二先輩、その辺りにしといてあげてください」

怖ず怖ずと発言するのはそんな二人の後ろに座っていた海堂。
海堂のその声に二人が疑問符を浮かべた顔で振り返れば、海堂は真っ直ぐ前を指差す。
その指す方向を辿れば、ホワイトボードの前で胃を押さえつつ蹲る大石副部長の姿。

「…大石、何やってんの?」

白けた様子でリョーマがそう声を投げる。

「何って、越前と不二がいらない話ばっかりして話が先に進まないから大石ってば持病の胃痛がしてきたんだよー」

もー、とぷりぷり怒りつつ菊丸が大石の背を甲斐甲斐しく撫でてやる。
だいじょぶかー?と優しく声をかければ、なんとも辛そうな面持ちながらも微笑んで、大丈夫、と大石が返す。

「だーからー、オレのオーダーのままでいいって言ってんじゃん、大石」
「えー!でも、部長ー!部長ってダブルス苦手じゃなかったですっけ!?」

桃城がまた挙手しつつそう言えば、リョーマはポケットを探って取り出した輪ゴムを指に掛けて弾く。
弾かれた輪ゴムは見事桃城の鼻頭にヒットして、大袈裟なまでに桃城は後ろへ倒れ込む。

「黙れ、桃城」

そして、そこへ飛ぶリョーマのトーンの低い声。

「今から練習すれば何とかなるだろ」
「んー、でも、ダブルスって協調性が大事なんだよ?越前。
  越前ってさ、こう言っちゃなんだけど、協調性ゼロじゃない?唯我独尊っていうか傲慢不遜っていうか。ね、タカさん?」

不二に話の矛先を向けられた河村は、おっとりとした様子で、うん、そうだね、と返す。

「やってみなきゃ判んないじゃん。オレと手塚の相性ってばっちりっぽいし。黄金ペア以上に息ぴったりかもよ?」
「あの…」

それまで一言も漏らさなかった手塚がそろりと左手を挙げた。

「なに?手塚」
「折角なんですが、俺もダブルス苦手で…何て言うんですかね、自分のコートに誰かいるとボールぶつけたくなりません?」
「ぷ…っ!!」

手塚のその言葉に噴き出したのは大石の背を撫でていた菊丸だ。

「菊丸先輩?」
「手塚ってば、越前とおんなじ事言ってやんのー!ケッサクー!!!!」

けたけたと笑う菊丸の言った事に吃驚しつつ、リョーマを見上げると口の端を上げた相手の顔が伺えた。

「ほーら。相性ばっちりじゃん」
「いや、あの、それってつまり二人ともダブルス向いてないってことなん…じゃっ!?」

それまで床で伸びていた桃城が椅子に必死に掴まりながら身を起こせば、そこへまたリョーマが放つ輪ゴムが剛速で飛び桃城は再び床に身を沈めた。

「んじゃ、D2はオレと手塚で、D1が大石と英二、S3が海堂でS2がタカさん、S1が不二で、桃城は補欠で決まりで!」

これにて解散、とばかりに席を立とうとするリョーマに一斉に批難の声が降り注ぐ。

「だから!なんでD2が越前と手塚なの!」
「そうですよ!俺、ダブルスは苦手って言ってるじゃないですか!」
「練習試合とは言え、手塚のデビュー戦に泥を塗るのは可哀想だと思うんだけど…勝てるオーダーで行こうよ、越前」
「タカさん、なんでそこで負けるって決めつけてるにゃ…!?」
「っていうか、俺、補欠ですか!?マムシはS3なのに!?」
「んだと?そこは妥当じゃねえかよ、桃城」
「ああ!?何つった、マムシ!」
「そこはどうでもいいけど、やっぱりD2が不服だね、僕は!」
「不二先輩、どうでもいいってことはないでしょう!?どうでもいいってことは!」
「ううん、どうでもいい!」
「ぇぇええ……っ!!??きっぱり!?」
「問題はD2だよ。僕とタカさんがD2で越前と手塚はシングルスでいいんじゃないの?それが一番妥当だと思うんだけど?」
「そんなの、いつものオーダーとあんま変わらないじゃん!もっと色々試していくべきじゃない?例えばオレと手塚のダブルスとかさ!」
「試すにも冒険しすぎじゃにゃーい!?」
「だから、ダブルスは苦手ですってば!」
「何事もチャレンジ精神がないと駄目だぞ、手塚!」
「そういう問題ですか!?」
「それで君らが負けたらどうするのさ!仮にも部長が負けたとなれば士気が下がるのはこっちの方なんだよ?」
「だーから!これから練習するから大丈夫だって言ってんじゃん!不二もわっかんない奴だなー!」
「わかってないのは君だよ、越前。付け焼き刃で何とかしてどうしようっていうの!?」

ぎゃあぎゃあ、と部室内が騒然となる。
それらの声を聞き耐えていた大石がゆらりと立ち上がった。

「お前ら!全員グランド50周!!!」

















マラゲーニアゼム。
malaguena them。
マラゲーニアとは、フラメンコの一つだそうです。
フラメンコばりに騒がしい彼等。
リョ塚というか…すっかりギャグの装丁に…あわわー??
ちなみに、これは6767hit踏んで下さった詩音さんへ。その節はありがとうございます!!
頂いたリクは「ランパラの続きで副部長も出演の方向で」という事でしたのでー、消化といえば消化なのかもしれないんですが…
うううううん???

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