PKF
















その日は朝から小雨が降り、ただでも冬と云うこの気候故の冷気を増していた。
小雨は断続的に降り続け、午後になって寒さが一段と増した所で、


純白の雪に変化を遂げた。







「ぶ、ちょーーーーーーーーーっ!」

今日も一日の授業を終え、手塚が下駄箱を出たところで背後から叫ばれ、そして猛烈な勢いで飛びついて来る物体が一つ。

「部長、雪、雪!!!」
「越前、雪は見れば判る。判ったから、離れろ」

ここが学校だということの分別がついているのか。
手塚から白い溜息が零れ出る。

飛びつかれたまま、首を捻って背後を見れば、ぴったりと手塚に腹をくっつけたリョーマが目を輝かせて見上げていた。

「なんで、そんなに落ちついてるのさ!雪だよ!?雪!ナマ雪!!」
「お前こそ、何でそんなにはしゃいでいるんだ?珍しい」

背から回されたリョーマの腕をやれやれ、と云った風体で外そうと手首を掴めば、その先の掌がこれ以上ないくらいに真っ赤になっていた。

「だって、ロスじゃ雪なんて降らないし!山でも時々降るかどうか、ぐらいなんだから!」
「……だからと云って、ここまで成る程に遊ぶのは褒められないな」

呆れた様子で掴んでいたリョーマの手首を離して手塚は歩き出す。
そんな手塚を拗ねた様子で見ていたリョーマだったが、なにか閃いたようにその場に蹲って、足下の雪を掬い、跫も静かに手塚に近付いてその学ランの襟首を後ろから引っ張った。

「えち………!!!!!」

越前、服を引っ張るな、と声をかけようとした手塚の背中を冷たい何かが滑り落ちて行く。
リョーマは、手塚の襟首から掬った雪を落としたのだ。

声にならない声を上げて、手塚が瞠目する。
その様をリョーマは酷く楽しそうに見て、ケタケタと声をあげて笑った。

「やーい!」
「やーい、じゃ、ない!」

刹那、リョーマに向かって白球が飛び、見事顔面に直撃した。
痛くはないが…冷たい。
リョーマの顔を崩れた雪がはらはらと落ちて行く。

「にゃろう…!」

やられて黙ったままの越前リョーマではない。
目には目を。
雪玉には雪玉を。

足下の雪を機敏な動きで掬って丸めて手塚目がけて投げる。
しかし、それを手塚はひらりと身を躱してよけた。

「越前、まだまだだな……………っ!?」

余裕の笑みでそう言い放とうとした手塚の顔には雪玉が命中。

「部長こそ、油断せずにいかないと。雪玉が一つだなんて思ったら大間違いだよ?」

目の前でにやりと笑うリョーマの掌には早くも握られた雪玉が片手にそれぞれ一つずつ。
既に肩にかけていたテニスバッグは足下に放られている。
臨戦態勢は十分と云ったところか。
「そうか、そっちがやる気ならこちらとて黙ってはいない」

手塚も薄い雪原の上に自分の鞄を放った。
両者、暫しの睨合いが続く。

しかし、リョーマはすでに凶器を手にしているのに対し、手塚はまだ武器を持っていない。

手塚は、じりじりと後ろにさがった。
そして、リョーマは逆に間合いを詰めつつ、手にした雪玉を投げるタイミングを伺う。
下手に投げては、相手に雪玉を造らせる隙を作ってしまう。
作らせる前に、両手に持ったものを命中させなければ、やられるのは自分だ。

そして、睨合っていた視線を手塚が一瞬外した。
その一瞬を逃すことなく、リョーマは見事なタイミングで素早く雪玉を投げた。
照準は的確。

しかし、リョーマが振りかぶった瞬間に手塚は大きく右に動いた。
リョーマが放った雪玉は手塚の肩を掠って地に落ちる。
知らず、リョーマから軽く舌打ちが漏れた。

かろうじてリョーマの攻撃を避けた手塚は指先で若干の雪を掬って、小さな雪玉を作る。
それを投げさせない、とばかりにリョーマの手に残っていたもう一つの雪玉が飛ぶ。
それを寸でのところで屈んで避け、屈んだ隙にまた雪を掬って手の中の雪玉の補強にかかる。

「越前、攻めるのが遅いな…!」

リョーマが補填するべく、手塚を視線の端に入れたまま後方へ飛び着地した瞬間を狙って手塚が雪玉を投げる。
顔目がけて飛んで来るそれを首を捻って何とか避けるが頬を掠り、じんわりとした冷たさが頬に残る。

二人の冷たく熱い戦いは佳境へと差し掛かろうとしていた。









そんな二人の様子を3ー6の教室から放課後の掃除をしつつ、不二と菊丸はにこやかに眺めていた。

「なんか、すっごい楽しそうなことしてるにゃー!」
「そうだね、僕も、その雪玉、消えるよ?とか言って消える魔球持って参戦しに行こうかな」
「あー!オレもアクロバティック披露しにいくー!」
「じゃあ、さっさと掃除終わらせちゃおっか?」
「オッケー!」




















PKF。
国連平和維持軍。
争いではなく平和を!!
ある意味、とても微笑ましい争いですが、これは(笑)
ちなみに、ロスは年中温暖らしいです。
雪も山間部ぐらいでしか降らないんですと。
気温が一桁になるのも希有らしい。
そして、これは7500hitの町田さんからリク頂きました。
「雪と戯れるリョ塚ちゃん」ということでしたが、たわ、むれてる、か?
始め、雪合戦をしつつ、リョーマが「やったな、こいつめえ!」「ウフフ」みたいな会話を想像して急いで頭を初期化してみました。
そしたら、こんなんできました(笑

7500ありがとうございます!
その他textトップへ
別館topへ