お日柄も宜しく。
















良く晴れた休日。正午を少し前にして、青学男子テニス部へとある集団が足を進めた。

白地のTシャツ。その左側部分は少しくすんだ淡いブルー。

氷帝学園。男子テニス部。

跫も高らかに部長の跡部を筆頭にテニスコートへと辿り着く。
今日は、青学でオーダーについて揉め事が起こった練習試合、その日である。
快晴な上に爽やかな風が微かに吹く。テニスをするにはうってつけだ。


レモンイエローが跳ねるそのコートの入口を潜って、目的の人物を見つけて跡部は声を掛けた。

「よお、越前」
「ん?あれ、跡部、もう来たの?随分早いじゃん」
「何言ってやがる、丁度時間じゃねえかよ」

あれ、そうだったっけ。
恍けた様に後頭を掻きつつ、リョーマは部員達へ練習試合を始める旨を伝え、事前に組んだオーダーのメンバーを召集する。

「全く、お前のとこぐらいだぜ?俺様率いる天下の氷帝を呼びつけるなんざ」
「だって、真田んとこに断られちゃったんだからしょうがないじゃん」
「ほーう、氷帝は立海大の代わりか。相変わらずいい根性してるじゃねーの。後で泣いても知らねえからな」

ぴくり、と跡部のこめかみに青筋が立つ。
しかし、それに意を介する事なくリョーマは飄々としていた。

「まさか。うちが負けるとでも?そっちこそ負けても今後練習試合に付き合ってよね」

リョーマはいつもの不遜な笑みでそう返す。

「まあまあ、お二人さん、はよ始めてまおーや」

青筋の引かない跡部を宥める様に肩をぽんぽんと叩きつつ、跡部の背後から忍足が顔を出す。

「まあ、それもそうだね。今回、うちには秘蔵っ子がいるから楽しみにしててよ」
「秘蔵っ子?なんや、青学は1年出すぐらいに選手に事欠いとるん?」
「まさか。ソイツは特別だよ」

にやりと笑った表情そのままにリョーマは答える。
その後ろでは召集をかけられて青学のレギュラーが集まり出していた。
リョーマはそのレギュラー達を振り向き、群れの中に手塚がいるのを見つけると手招いた。

ちょっと、こっちに来い。と。

呼ばれて、手塚は不思議そうな顔をしながらもリョーマの隣に進んだ。

「なんですか?部長」

リョーマを見上げようとした手塚をリョーマはその背後から腕を回した。
手塚の方が幾許か身長が低いので、おぶさる様に絡んだリョーマの視線は跡部らと並んでいた視線より低くなる。
そして、覆い被さられてその重みで手塚は少し前に傾いでしまう。
その姿勢のまま、リョーマは跡部を見上げて酷く愉しそうに笑った。

「これ。うちの秘蔵っ子」
「なんや、えらい別嬪さんやなー」
「ほぉ。おい、一年、名前は」

頭の上から降って来た聞いた事の無い声に手塚がリョーマの重みを凌ぎ乍ら漸く頭をもたげると、そこには妙な程威厳に満ち溢れすぎて逆に傲慢そうな男と丸眼鏡をかけた一見剽軽そうな男がこちらを見ていた。

「手塚、と言います」

取り敢えず、傲慢そうな方の男に名を尋ねられたので素直に名を名乗る。

「手塚、コレ、今日の練習試合の相手の学校の部長の跡部。それと――、こっちの関西弁は忍足」
「よろしゅうな〜」

忍足、と紹介された方の男がにこにこと笑い乍ら手塚の手を握って上下に振った。
随分と人懐こい人だな。それが手塚の忍足の印象だ。

なされるがままに手を振られていると、自分の手を握っている忍足の手首をリョーマが突如掴んだ。
それによって上下へ動いていた握手も止まり、そしてリョーマの手によって忍足は引き剥がされた。

「お触り禁止。うちの学校のなんだから」
「随分可愛がっとるんやなあ。そんなケチケチせんでもええやん。なあ、つかっちゃん?」
「は?つかっちゃん?」

一瞬、誰の事だか判らなくて忍足を見上げれば、その視線は間違う事無くこちらを見ていて。

「そ。手塚やからつかっちゃん。かわええやろー?」
「侑士〜、そのネーミングセンスの無いあだ名の付け方そろそろやめたら〜?」

突如、忍足の脇から一人の少年がぴょんと―文字通り―飛び出て来て手塚は少し驚く。
前髪がV字になっているおかっぱの何とも個性的な髪型をした少年だった。

「ガッくん、失礼やな〜ネーミングセンス溢れ過ぎててどないしたらええのんか、ってくらいにめっちゃいいあだ名やん」
「どこがだよー」

そのおかっぱの少年はけたけたと屈託なく笑った後に、リョーマを背中に抱え乍ら呆けた様な顔をしている手塚に気が付いた。

「あ、俺は向日岳人。よろしくねー!」
「こちらこそ、今日は宜しくお願い致します」

ぺこり、と頭を下げようとした手塚だったが、背中にのしかかっているリョーマのせいで腰を曲げられず、会釈程度にしか頭を下げられなかった。

「…部長、そろそろどいてください」
「なんで」
「重いんですけど」
「オレがこうしてたいんだから、いいじゃん」

ちっとも良くない。
じゃれて来るのはいつもの事だが、内心で手塚は呆れる。

その呆れの感情は顔には少し出ていたようで、目の前の跡部がそんな手塚を見て快活に笑った。

「こりゃ、どえらく気に入られたもんだな。越前がここまで他人に執着するたあ珍しいじゃねーの。アーン?」
「手塚は別格なの。悪い?」
「いや?いーんじゃねーの?手塚っつったか、お前もこんなのが相手じゃこれから気苦労が大変だぜ。まあ、頑張れよ」

何をどう頑張れと言うのか。
というか、これからの気苦労ってなんだ。どういう意味だ?
他にも幾つもの疑問が手塚の内に湧き出でたものだから、どれから訊ねればいいのか考えてしまう。

「うわー!跡部が労いの言葉かけてる!」
「ほ、ほんまや…いつも俺様至上で貶すことしかせえへんケゴたんが…!」

思案顔の手塚とは打って変わって、跡部の脇から生えていた二人は跡部の『頑張れよ』の一言に驚愕していた。

「あ、あああ、明日は槍が降るでえ…」
「忍足、その呼び方いい加減やめろ」
「え?なんで?ケゴたん」
「止めろっつてんだろうが!」
「えー、いいやん、かわいらしゅうて俺好きやねんけどなー」
「侑士って、時々命知らずだよね…」

跡部に怒鳴られても忍足は飄々としたままで、寧ろ一層愉しそうに声を弾ませた。
その隣では向日が脱力したように呟いた。

目の前での喧噪に手塚は2、3度瞬きした後、そろりと真上にあるリョーマを見上げた。
視線の先のリョーマは驚いている手塚とは違って見世物でも見ているかの様にとても愉快そうな顔をしている。

「あの…部長」
「ん?どしたの、手塚」
「あの方達――というか跡部さんと忍足さんは、仲が悪いんですか?」
「嫌よ嫌よも好きのうち、ってね」

そう朗らかに言い退けたリョーマの心中は手塚には想像すら追いつかなくて、手塚はまた、不思議そうな顔をした。

いつまで経っても始めようとしないリョーマに大石が、そろそろ始めないか?と声をかけた。


本日は、テニス日和也。
















お日柄も宜しく。
リョ塚テイスト、少な…!!??
いや、でも、リョーマは手塚に抱きついてるし、握手した忍足を窘めたりしてるし…
甘さスッキリ!ってことで、ね。ご勘弁を。
こちらは、7700をカウンタで踏んでくださった詩音さんへ。いつもありがとうございます。

リョ塚年齢逆設定で、他校出演、というリクで頂きました!
他校お気に入り筆頭、氷帝にてお送りいたしました。ありがとうございました〜
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