計画的実行犯
















秋晴れの空に鰯雲。
風は涼しい、というよりも幾らか寒い、という感想を覚える。

そんな、秋も最中。
ここ、青学のグラウンドでは例年の慣習通り、体育祭が行われていた。

体育祭もプログラムを中盤まで消化し、放送委員の声が次のプログラム名をグラウンドに響かせる。



「越前、やけに楽しそうだね」

にこり、と不二。
その隣にはリョーマ。

「次の借り物競走って越前出番だったっけ?」
「ううん、違う」
「じゃあ、なんでそんなに楽しそうなの?」

にこり、にこり、と。
一見、屈託が無いように見えるが、不二という人物をよく見知る人々なら笑顔の裏に隠された彼の意図が見えたであろう。
腹の中を探っている、ということに。

リョーマは不二のそんな真意を判る一人のうちであったから、敢えて黙秘を貫く。
視線の先には、借り物競走に参加する生徒の群れ。

「そういえば、手塚、借り物競走出るんだってね」

不二もリョーマと同じ方向に視線を向ければ、わらわらと生徒が群れるその中に手塚が居ることが容易に判る。
リョーマがそこしか見ていなかったから。

「…不二ってさ、いつもどこから情報仕入れてるの?」
「え?知りたい?手塚譲ってくれたら教えてあげるよ?」

ふんわりと笑ってみせる不二にリョーマはちらりと批難の目を一瞬投げかけて視線をまた手塚に戻す。

「やーだね」
「言うと思ったよ」

くすくす、と非常に愉快そうに不二は笑った。

「それだけの情報網持ってるんなら、どうしてオレが楽しそうかぐらいお見通しじゃないの?」
「あれ?バレてた?」

当然。
リョーマは溜息を上空へ投げる。
空は秋らしく、青味がやんわりとしている。
そこには夏の様な真っ青な色とは違う実に趣深い色が広がっている。

「桃が体育委員で良かったね」
「まあね」
「借り物競走の借りる物、どの紙も、部活の部長、にしたでしょ」
「うん、まあね」

パンと遠くのグラウンドで競技用のピストルの音が響く。
そして、バタバタと走る音や応援の声。

「それで、手塚の順番が来るまで此所に隠れてるって寸法なわけだね?」

そう、リョーマ達が居るのはグラウンドからはやや離れた茂みの中。
端から見れば、男二人がこそこそと隠れる様に蹲っていて、奇妙という他ない光景である。

「まあね」
「手塚は、次の次に走るんだっけ」
「うん、そう」

短くそう答え続ける。
視線はグラウンドから逸らされていない。
なぜなら、手塚以外のテニス部員に此所にいることがばれてはいけないからだ。

そう、リョーマが体育委員である桃城と共謀し―というよりも、脅しに近かったのだが―借り物競走の札に全て部長と書かせたのは単純明快な答えである。

手塚と手を繋いでゴールテープを切る。

ただ、それだけだ。
勿論、傍に佇む不二にはお見通しである。

別に借り物が人であっても手を繋ぐ必要は全くない訳だが、リョーマのプランでは手を繋ぐことは揺らぐ事の無い決定事項であった。
最優先事項と言ってもいい。

つまり、今、他の部員に居所がばれると、その部員とも一緒に走らなければならない。
しかし、リョーマは他の部員と一緒に走る気はない。
手塚一人と走れればそれでいい。

だからと言って、手塚がどの紙を取るか判らないから、体育委員がどの紙をどのタイミングで出すかまでは判らないから、と言って全ての紙に『部長』と書いたのは剰りに横暴というか無計画というか知恵無しというか。


目の前では案の定、他のテニス部員がリョーマを探して右往左往している。
それを息を殺して、そっとやり過ごす。

他の部活の部員が続々と自分の部活の部長を連れてゴールするなか、テニス部員と帰宅部員だけがグラウンドに取り残された。
3着まで決まったところで、もう一度ピストルが鳴り、終了を告げれば、グラウンドに残った者は肩を落とす様にしてトラックから出て行った。

そして、次の走者の為にピストルが鳴り、先程と同じ光景が繰り返されて、第三走者へ向けてピストルが鳴らされる。

走者の中には手塚も居る。
ピストルが鳴るとほぼ同時にリョーマは立ち上がって、グラウンドに近付いた。
鼻歌なんて混じらせながら。
意気揚々と。

酷く楽しそうなリョーマの後ろをこれまた楽しそうな顔をして不二が続く。


目の前では、手塚が札のところへ行き付き裏に書かれた文字を見て周囲をきょろきょろと見回した。
それを察して、リョーマはトラックぎりぎりまで歩み寄る。
なるべく、手塚の視界に入る様に。

そんなリョーマをやっと見つけて、手塚が小走りに走って来た。
そして―――

「不二先輩!一緒に来て下さい!」
「へ?」

リョーマの元へ走り寄って来た手塚――基、リョーマの後ろにぴたりとくっ付く様に居た不二の元へ走り寄って来た手塚、にリョーマはぽかんと口をだらしなく開いた。

「いいよ。なんて書いてあったの?」
「いつも笑顔の人、と」
「ああ、それなら僕の事だね。行こうか手塚」
「ちょっ!!!?不二!?」

手塚の手を取り、一歩を踏み出した不二の肩を咄嗟にリョーマが掴むと、不二はこちらをゆっくりと振り返った。
その瞳は………愉悦気味な光を湛えて、開かれていた。

「越前、まだまだだね」
「…にゃろう………」
「さ、手塚、行こうか。今なら一番でゴールだよ」
「あ…はい」

こちらを困惑気味にちらりと手塚は見るが、不二がぐいぐいと引っ張って行くのでそれにつられる様にして、手塚もゴール目がけて走り出した。

そして、怒りでリョーマの拳が震える中、不二と手塚はゴールテープを切った。




「え?全部『部長』って書いてた筈なのにどうして手塚の持って来た紙はそうじゃなかったかって?
  ふふ、僕にも体育委員の知り合いが居てね。それから、乾にデータから手塚が何番目に紙まで辿り着いて、どれを取るかっていう予測を立ててもらったんだ。ちょっと博打ではあったんだけど、まさか成功するなんてね。ふふっ」

とは、青学の天才――こと、魔王、不二周助氏の言葉。

















計画的実行犯。
こちらは、8000ゲットの詩音さんからリク頂きました品でございます。
ランパラ設定で『学校行事』ということでしたので、『体育祭』ということで。
借り物競走という、なんだかベタな始末となりました…。借り物競走って本当にやってるところあるんですかねえ。
私の通ってた小中高はしなかったんですけど。
多分。

っていうか、リョ塚じゃなくて不二塚な終わりしてないかね、わたし…。
途中まではリョ塚な雰囲気だったのになあ…。
そして、最強、もとい最凶な不二大魔王でございます。

8000hitありがとうございましたっ!(ぺこり)
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