チャンネルはそのまま、ボリュームはフルで。
















夜も更け、目の前に設えられたテレビでは深夜番組特有の取り留めもない内容が繰り広げられている。

そのテレビの前ではリョーマがどっかりと座り、その後ろのベッドサイドで手塚は一人読書に勤しんでいる。
時々、テレビから笑いが起こると手塚が顔を上げる。
そんな光景が続いていた。



「越前」
「なに?」

手塚が顔を上げて幾度目か、突如リョーマの背中に声をかける。
しかし、手塚が呼んでもリョーマは振り向くことなくテレビを見ている。

「もう遅いからそろそろ寝ないか」
「これ見終わったら」

テレビから相変わらず視線は外されない。
やれやれ、と言った調子で手塚は本に栞を挟んでパタンと大きめに音を立てて閉じた。
その音に漸く、リョーマが手塚を向く。

振り返ったその目は睡魔に乗っ取られ始めているらしく、しぱしぱと何度も瞬いた。

「ほら、眠いんだろう」
「眠くない」
「嘘をつけ」

手塚がリョーマの髪を掻くように梳くと、それを煙たがるようにリョーマはかぶりを何度か振って払いのける。

「これ見終わったら寝るってば」
「そうか。では、俺は先に寝る」

瞑目して一つ溜息を吐いてから、手塚は布団の中に潜ろうとして布団を手にかける。
すると、行かせまい、とばかりにリョーマが手塚の服の裾を掴んだ。

「・・・なんだ?」
「オレが見終わるまでは起きててよ」

どういう理屈だ、と手塚はまた溜息。
そんな手塚にリョーマは不貞々々しそうな視線で睨み上げる。

「アンタだけ寝るなんて許さないよ?」
「…やれやれ」

どうやっても裾を掴んだ手を離す気はないらしく、リョーマが指に力を込めたので、手塚は大人しくベッドサイドへ座り直した。
本の続きを読もうと床に置いておいた本に腕を伸ばそうとするが、服を引っ張られた。

「…なんだ?」
「アンタも偶にはテレビでも見たら?どうせ家でも本読んだりしかしてないんでしょ?」
「いや、テレビは見るが」
「へー。何の番組?」

好奇心に充ち溢れた瞳でそう尋ねられるから、手塚は普段の自分を思い返して口を開いた。

「ニュース、とかな」
「後はNHKとか?」

くすくす、と揶揄かう様にリョーマが笑う。

「こういうバラエティとかって見ないんでしょ?」
「テロップが五月蝿くてかなわん」

だからアンタは堅いんだよ、とリョーマはまた笑う。

「ほら、こっち来て」

手招く代わりにリョーマはまた手塚の裾を引っ張る。
渋々、手塚はベッドサイドから腰を上げてリョーマの隣へ腰を下ろした。

「そっちじゃなくて、こっち」

そうリョーマが指差すのは、リョーマの懐。

「逆じゃないか?俺には窮屈そうだが」
「うるっさいなー。いいから!こっちったらこっち!」

ぐいぐい、とリョーマは更に手塚の裾を引っ張る。
先程から引っ張られてばかりで既にそこには幾つもの浅い皺が出来ていた。

「わかったから、手を離せ。シャツが伸びる」
「はいはい。  ほら、早く早く」

言われた通りに手塚のシャツから手を離すとリョーマは腕を手塚に向けて腕を伸ばした。
楽しそうなリョーマとは裏腹に手塚は軽く嘆息をついてリョーマの懐に潜り込んで平らな胸に後頭を預けた。
そこへ空かさず背後から腕を回されて抱き竦められ、頭の上には何かがやんわりと乗って来る感触。
見上げれば、リョーマの顔がすぐそこにあって、自分の頭に顎を乗せているのだと判る。

なんだか、妙な感じで、少し擽ったかった。

しかし、すぐ上のリョーマの視線は目の前のテレビを見ていたから、それに倣うように手塚も視線を真っ直ぐに向ける。

画面に映るのは見た事も無いが恐らく芸能人だろうと思われる人物が2、3人。
下には派手な色味で書かれたテロップが絶えることなく流れる。

喋っているのを聞いているんだか字幕を読んでいるんだか判らんな。
そう思いつつもテレビを見る。

テレビの向こう側では笑いが起こっているが手塚には何が面白いのかちっとも判らない。
頭上のリョーマも笑っている様子はないから、ひょっとしたら面白くないことでテレビの中の人物達は笑っているのかもしれない。

「越前」
「なに」

正面を見たまま問いかければ、少し俯いてこちらを向いて来る。

「何がおもしろくてこの番組を見てるんだ?」
「うーん。なんとなく?」
「なんだそれは」

手塚が苦笑すると、リョーマも同じ様に苦笑う。
きゅう、と手塚に回された腕に力が入った。

「いいじゃん、今はアンタとテレビ見てるってことが楽しいんだから。一緒の時間を共有してるっていうのが面白いの」

洗いざらしらしい、清潔な香りがリョーマの鼻腔を擽り、手塚の髪に顔を埋めるようにして髪にキスを落とす。
それに手塚が顔を擡げるとリョーマは隙をついて手塚の唇を攫い、手塚がそれを抵抗することなく受け入れるから、一度離れてもう一度触れる。

暫し触れていると、手塚の方から腕を伸ばしリョーマの首へ絡めた。


室内にはテレビからの笑い声に隠れる様に恋人同志の甘く濡れた声。

















チャ ンネルはそのまま、ボリュームはフルで。
どっかのラジオのパーソナリティが言ってた決まり文句より拝借。
こちらは、8484hitをゲットしてくださった冢倉さんよりリク頂きましたので、冢倉さんへ!
いつも相互リンクでお世話様でございます〜
リクは『テレビを見るリョ塚ちゃん』ということで…。
お前らテレビ見ろよ!
はい、ちっとも見てません。いちゃこくので忙しいです。
…どうも、私は見上げてキスさせるのが好きみたいです。
ひどくウキウキしながらね、書かせて頂きました。うふふふ。
こうね、顔を水平にするぐらい見上げたところへキスを落とす、というのが好きなんです。たまらんのです。
髪の毛が下にさらさらーっと流れたりなんかしてですね!
…と、語りはこのくらいにして。

8448hit、ありがとうございましたっ!
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