yoJoobaT
頬を涙が伝う。
つ、と音にならない音を立てて。
一筋、二筋、と手塚の頬を伝う。
頬を伝い切った涙が床に落ちて、そこで初めて手塚は涙の存在に気付く。
目の前のリョーマが驚いて目を丸くしている姿が滲んで見える。
また一筋、零れ出すから、リョーマはその涙が通った道を優しく撫でる様に手塚に腕を伸ばした。
リョーマの指が頬に触れて、手塚の肩が震える。
「どうして、泣いてんの」
至極尤もな事を、悲しそうな顔をしてリョーマが訊ねられ、手塚はゆっくりとかぶりを振った。
判らない、と蚊が鳴く様な声で呟いて。
「わからないって…それこそ、なんで」
困った様に眉尻を下げつつ、リョーマは手塚を引き寄せた。
そのまま、引き寄せられるままに手塚はリョーマの胸に額を寄せた。
そして、また、一筋。
リョーマのシャツに薄い染みを作りだす。
「悲しい事があった?」
「いや」
「淋しい事があった?」
「いや」
「それとも、不安?」
ぎゅう、と手塚を抱く腕に力を込めて、ぽつりぽつりとリョーマは訊ねる。
最後の問いに手塚は一拍押し黙って、こくり、とリョーマの懐で首を緩く縦に振った。
「何に対して?」
判らないんじゃなかったの。
先刻の手塚の言葉からそう返そうと思った発言を呑み込んで、リョーマは先を促す。
「悩み?将来のこと?それとも、オレのこと?」
「恐らく、お前のこと、だ」
それまでただリョーマの懐に収まっていた手塚がリョーマの背に腕を回す。
何かを確かめるように。
何かを捕まえるように。
「どうして。オレはここにいるよ?」
「…それが、判らん」
どうして、急に涙が出て来るのか。
越前リョーマという者に対してどうして涙が出て来るのか。
一番困惑しているのは、他ならぬ手塚自身だ。
答えを、一番求めているのも、また、彼自身。
「オレはアンタの傍にいるし、アンタを離す気もない。いつでも追いかけてるし、いつでもアンタの望む事には応じる」
手塚の髪に愛おしそうに鼻先を寄せる。
そこには、いつも漂う大好きな人の馨り。
擦り寄って来るリョーマに手塚の中心が無意識に答えを引き擦り出す。
警鐘と共に。
「…お前は」
回した腕の先のリョーマの背に手塚が爪を立て、微かにリョーマのシャツが皺を寄せる。
「知っているか。俺達の関係は神を冒涜している存在だということを」
そう、つい先日にどこかの雑誌の記事で見たその事。
神は男女の交わりにのみ寛容で、自分達を含む同性間での恋愛を法度としているということ。
手塚だとて、自分達の関係というものは世の中からは多少の異端であることは知っている。
男と女が出会い、そこに愛情が芽生えるのが普遍的なものだということ。
自分達は許されざる者だという、紛れも無い事実。
「このまま、続けていけるか?」
相手を恋情や愛情以上に想っているからこそ、異端で有り続けることは不安でもある。
手塚は腕に力を込めた。
離したくない、と想うからこそ。
ここに居続けたいと想うからこそ。
「そんなに神様が大事?」
ぽつりとリョーマが呟く。
身を隙間なく寄せているせいか、リョーマが声を出す度に声帯の震えが手塚に伝わる。
「アンタと結ばれることで見放す様な神様ならいらない。アンタを離して漸く手に入るような神様の祝福なんていらない。
オレには、アンタだけ居ればいい。不幸のどん底でもアンタが居れば幸せでいられる」
だから、この世に君臨する神様なんて無視しちゃえばいい。
オレ達にだけ微笑んでくれる神様を見付けに行けばいい。
そう、何かの呪文の様にリョーマが呟き、その言葉が手塚の耳から脳へ、心臓へと響く。
「神様にもジーザスにもマリア様にも永遠の愛なんて誓わなくていいから、オレにだけ誓って。いつまでも変わる事無くオレを想ってくれることを。アンタが元気な時も病んでいる時でもオレは傍にいるから」
それは光目映い教会で牧師が告げる祝詞。
鐘の代わりに手塚の左胸がけたたましく鳴り響く。
「誓えるのなら、その証に口付けを」
いつもの調子でそう告げるリョーマを見上げれば、聖母の代わりに微笑む口元。
その口元に吸い込まれ、そして暫しの交わりの後に静かに離れる。
「オレからも、誓いの証を」
リョーマは呟き、手塚の襟元から覗いているその薄い色の首筋へ唇を落とす。
離れれば、そこにはうっすらと色付く桜色の礫。
其処から滑り降りる様に、手塚の首筋に顔を埋める様に、首の根元、そして鎖骨へとキスを降らせる。
忍び込ませたリョーマの手により手塚の膚が露になっていく。
手塚の膚を埋め尽くさんとばかりにリョーマはキスを降らせる。
その通った後には、ぽつりぽつりと桜が咲く。
それを甘んじて受け入れて、リョーマに圧されるように手塚は体を床へ倒した。
yoJoobaT。
逆から読むとTabooJoy。
禁忌と欣喜。
あががが、相変わらず変にタイトルをつける癖が。
俗称は『キンキ』でお願いします。(は?)
そして、どこまでも、結婚式の決まり文句を引っ張る私であります。
だって、あの言葉群は大好きなんですもの!
言い得て妙。
こちらは、8666hitを踏んでくださった小倉さんからのリクを承ったブツでございます〜。
箇所箇所、意味判らん文章でまっことすいません。
きっと、一番私がわかりません。(え。)
取り敢えず、みちゅを泣かせて、王子から愛情表現があり、ほんのりエロ、ということで、えと、リクとして成立しておりますでしょうか。はらはら。
8666hitありがとうございましたっ
どうぞ、お納めくださいませ〜
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