ORINPIC
4年に一度の世界の祭典。
それは全世界に中継され、そして世界中が妙技に酔い、記録に沸く。
そして今年はオリンピック発祥の地が開催地。
日本からは程遠いそこでの光景は、夜も遅くに電波に乗って届いていた。
「あーっ、今の惜しい」
「しかし、巧いな」
その舞台の為だけに設えられたスカイブルーとシーブルーで彩られるテニスコート。
ライムイエローがその間を綺麗に突き抜けて行き、液晶向こうの観衆が一斉に歓声を送る。
「やっぱ、4年に一度の大舞台だしね。集まる人間も気合いのレベルが違う」
座椅子に腰掛けた手塚の太腿に頭を預け、ごろりと横になりながら目を輝かせてリョーマが言う。大方、今テレビに映っている世界のトップとやりあってみたいだとか考えているのだろう。
リョーマの好物は和食とテニスの巧い強い相手だ。
全く、見境がないな、と薄目ですぐ真下の旋毛を見下ろす。
夏休みも終わりに差し掛かった今日、手塚邸にて。
普段ならば日付けも変わって数時間経った今の様な時間、手塚もリョーマも夢の中なのだけれど、ここ数日は違う。
多種多様な競技が行われる中、二人揃ってどうしても見たかったオリンピックでのテニスの中継が始まっていたせい。
生憎と同郷の選手は残留していないが、その分、最強として選りすぐられた者が妙技を披露している。
手塚の部屋にはテレビは無いせいで、二人が仲睦まじく身を寄せ合っているのは手塚家の今。
手塚が座している座椅子は本来は祖父のものだけれど、時刻も遅いこの時間では家人は誰も起きてはこない。
何かと奥手な手塚が部屋以外でこうして恋人としての触れ合いを許してくれているのも、それに起因しているのだろう。
「どうせなら、現場で見たかったな」
眼下の猫毛を指で梳きながらそう漏らせば、サーブを繰り出す選手に視線を注目させながらも、見るより出たかった、と彼らしい発言が返される。
「お前では、まだ無理だ」
俺にも勝てないくせに、と薄笑いを浮かべて言えば、機嫌を崩した様に上目遣いで睨んでくるものだから、見上げて来た額にキスをひとつ落としてやる。
「そう怒るな」
「…キスひとつでごまかされないんだから。失礼なこと言ってくれちゃってさ」
ぷう、と幼い頬が膨れる。
「今は、と言っただろう。4年後、テレビの向こう側にいろ」
揶う様に薄笑いを浮かべ、また彼の不機嫌さを宥める為に鼻頭にキスを落としてやる。
擽ったそうにリョーマが手塚の脚の上で身を捩る。
それでも、目だけは酷く強気に、
「金メダルとってきてやる」
と言ってのけた。
未だ未だ夢想の範疇だとは言え、こいつらしい、と手塚は小さい笑いを隠しきれない。
「だから、その時も今みたいにすぐ近くでオレの活躍を見ててよ」
国の為じゃなくて、アンタの為に栄誉をかっ攫ってくるから、と夢見る少年の唇は漏らし、お返しとばかりに手塚の頭を引き寄せて奥深くまで口吻けた。
手塚も、答えとそれを満足そうに受け止めた。
唇同士が擦れ合う音と、スマッシュの決まる熱烈な音が深夜の室内で同調した。
散々に同国の選手を賛辞するアナウンサーの声と、沸き立つ観衆とスタッフ達。
数えるのが億劫な程のカメラと人の視線との中から、ただじっと黙して注視してくれている唯一の人の目を探し出してから、藍にも似た軽やかな髪を揺らして未だ少年の彼は鋭いサーブを放った。
凪ぐ風。その中を駆けて行くライムイエローの球。
熾烈で苛烈な強いその一球は鮮やかに相手のコートに跳ねて、観衆が沸いた。
その一球で決された世界の頂点に君臨した弱冠の日本人は小さく拳を作って、掲げた。
栄誉と名声、そしてそれ以上の感動と興奮。
沸き立つ周囲の中で、手塚は艶やかに微笑った。
あの日の誓いの今日は、夢かそれとも現実か。
ORINPIC
言わずもがな。オリンピック。
ギリシャのあの青いテニスコートは綺麗でしたね。
次は中国の北京なのだし、真っ赤なテニスコートとかどうですかね。IOCさん…。
8989hit分で、琴子さんより。ありがとうございますー!
リク内容としては国光宅でいちゃいちゃオリンピック観戦するリョ塚ちゃんとオリンピック出場する越前さんとそれを見守る国光さん。(と、出ていないけれど地元の人々。笑)
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