ゴゥ。ラブゲィム
「お、目ぇ覚めたか」
突如開けた視界の中に自分の父親の顔だけがあることに仰天してリョーマは瞠目した。
そんなリョーマの様子に気が付いて南次郎はきしし、と卑しく笑った。
「お前、風呂で上せたんだぜ?覚えてるか?ま、3時間も入ってりゃのぼせるだろうよ」
「3時間?」
覆い被さる様にして自分の顔を覗き込んでいた南次郎を押し退けつつ、リョ―マは意外そうに呟いた。
まさかそんなに入っていたとは思っていなかったのだ。
我ながら長い、とは思っていたが精々1時間程度かと思っていたからだ。
「…やばい、重症」
そんなに今日の事を振り返り続けていたのか、と思うと湯当たりからではない頭痛がしてきた。
それだけ考えていて結論が出ていないのだから頭痛は増すばかりだ。
「なんだ、青少年、風呂で考え事か?」
リョーマの傍で胡座をかきつつ南次郎が意地が悪そうに、にやりと笑った。
そんな実父を一睨みしてリョーマも軽く胡座をかいた上で頬杖を付いて顔ごと、視線を逸らせた。
「親父には関係ない」
「お、なんだなんだー?いっちょ前に反抗期か?…ははーん、さてはアレだな。恋だろ、リョーマ」
「……っ!」
どうしてバレた。
そういう反応をしてしまったのがいけなかった。
南次郎はにやりとした笑みを更に深いものにし、それに気が付いたリョーマが何とも嫌そうな顔をした。
「よしよし、息子よ、お父様が相談に乗ってやろう!で、どんな子だ?胸はでかい子か?」
「ないよ」
興味津々、といった風体で体を乗り出してくる南次郎に愛想のあの字もない無表情でリョーマは返す。
「じゃあプリケツの子か?」
「平べったいよ」
相変わらずむすりとしたままのリョーマに、南次郎はお前、ホントに俺の子か?と片眉を上げて疑うような顔をした。
「胸とケツは選ぶ上で重要な要素だぞ?」
「親父はさ…」
南次郎の言葉など完全に聴覚から除外して、ぽつりとリョーマが漏らす。
「お?なんだ?」
「母さんと恋愛結婚なんでしょ?」
「お前、俺の事はオヤジ呼ばわりなのに何で母さんはおふくろって言わないんだ?」
「母さんの方が好きだからだよ。当たり前じゃん。でさ、どっちから告白したの。母さんと親父と」
「俺に決まってんじゃねえか」
「どうして告白しようと思ったの?」
睨むでもなく揶揄うでもなく、凝っとリョーマは南次郎を正面から見据えた。
そんなリョーマの様子に一瞬、南次郎は驚いた様な顔をしたがすぐに先程とは違った笑みで口角を上げた。
「いい女だったからな。他の奴に取られちゃかなわねえと思ったからだな」
「あー、なんとなく判る。母さん美人だし、気量良しだし」
アイツとどっちがいいかな、と何となく頭の中で比べてみる。
母には失礼かもしれないが、リョーマにとっては優劣付け難い感じだ。
「でもよ、始めは返事すら貰えなかったのよ、これが」
「へぇ」
「貴方次第ね、なんて言いやがってよ」
南次郎の言葉にリョーマの視線が硬直する。
そして脳裏を掠めるのは、今日の出来事。
『部長次第じゃないですか?』
そう戸惑った様に考える様に返して来た瞳の色。
それすらも自分を虜にする原因の一つだということに彼は気付いていたのか。
「おい、リョーマ、聞いてるか?」
「…聞いてるよ。で?親父はそれからどうしたの?」
まさかこの父親がそれで諦めた筈はないだろう。
自分と、血が繋がっているのだから。
「もうそれからは押しの一手だったな」
「悩んだりしなかったワケ?」
よくもそれだけであの母親を落としたものだと若干の感心はするものの、どこか単純な行動にも感じられ、少々呆れを含めてそう返す。
「はん、やっぱりまだまだだな、リョーマ」
「何がだよ」
「悩んでいい事なんかあるかよ。悩んでるうちに誰かにかっ攫われるかもしれねえのによ」
恋愛は先手必勝だぜ。
そう言って、南次郎は懐から煙草を取り出して一服ふかし始めた。
「ふーん。嫌だけど、やっぱオレと親父って親子なんだ」
「おいコラ、さり気なく嫌とか言うな」
顰めっ面で南次郎はリョーマに煙を吹きかけてくるものだから、堪らずリョーマは立ち上がって踵を返した。
その去り際に、一言だけ。
「オレも同感だね。攫ったもん勝ちだよね、恋愛なんてさ」
勝負事には貪欲に勝ちを奪いにいかないと。
その言葉は南次郎に言ったのか、自分自身に言い聞かせたのか。
ゴゥ。ラブゲィム
9333hitを踏んでくださった町田あきこさんより「嵐之バスルーム」の続き、ということでリクを頂きました。
湯当たりした後のリョマさん。対おやじ。
リョマさんも手塚に対してこれからも押しで行くみたいですよ?
それでもってかっ攫っていくらしいですよ?
9333hitありがとうございました〜
手塚出てなくてすいません;
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