pinkish ball about you
「ボールが足りない…?」
青学テニス部から3年が引退して少し経った頃、1年生からその報告を受けた桃城は髪をがしがしと苛立つ様に掻いた。
「やっぱ新体制だと物の管理とかなかなかむっずかしいな……。おい、越前」
「なんスか」
「ちょっと女テニまで行って借りて来い」
「え。何でオレなんすか…」
「タイミング良く俺の前を通ったのが悪い」
にしし、と歯を覗かせて笑う桃城に呆れた様にリョーマは軽く溜息を吐いてからくるりと桃城から踵を返した。
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「ねえ、エージ。こういうジンクス、聞いたことある?」
場所は変わって、3年6組。
帰宅の準備をしていた菊丸を隣に不二が窓の外に目を遣り乍らそう言った。
「にゃ?ジンクス?どんなのー?」
「女テニには、一つだけボールのラインがピンクのものがあるんだって」
ふんふん、それでー?
鞄に筆箱を放り込みつつ、菊丸が先を促す。
不二の視線の先には女テニの部長と思われる人物にぺこりと頭を下げるリョーマの姿。
「そのボールを使ってラリーをするとね…」
にこり、と不二は笑みを深くして菊丸に向き直った。
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女子テニス部から借りた何球かのボールを詰めたバスケットを片手にリョーマは男子テニス部のコートへと向かっていた。
思っていたよりも女子テニス部の部長は気さくな人物で、男テニでボールが足りないから少し貸して欲しい、と申し出たリョーマに部室の奥からバスケットごと取り出し渡してくれた。
何でもちょっと古いボールだとかで、返しに来なくても別にいい、とのことだった。
古い、とはいいつつもただ少しばかり埃を被っているだけで、大して痛んでもいなさそうだった。
早くコートに戻って誰かとミニゲームでもしよう、とリョーマが足を早めつつ校舎の角を曲がった時、目の前を帰り支度の手塚が横切った。
「部長!」
そう気持ち大きく声をかければ、手塚は眉を顰めつつリョーマを振り返った。
「…越前。俺はもう部長じゃないと何度言ったら…」
大きく溜息を吐いてみせる手塚にリョーマは満面の笑みで小走りに手塚の元へ駆けた。
「いいからいいから。ね、今帰り?ちょっと打ってかない?」
「この間、お前の家の裏のコートで打ったばかりだろう?」
「学校ではちっとも打ってないじゃん。ね、少しだけ」
いいよね?
と、リョーマは手塚の袖を引っ張って歩き出した。
新体制の今、元部長である自分が行くのはどうか、と手塚は逡巡したが、まあ、少しだけ、部員からは見えない場所で打てばいいだろう、と言い聞かせてリョーマの後に従った。
人が集まるコート特有の雰囲気やボールの跳ね回る音は、つい先日まで体感していたというのに手塚にはやけに懐かしく感じられた。
「ボール借りてきましたー」
「おう、越前、随分遅かったじゃねーか……って、手塚部長!?」
「…桃城、俺はもう部長じゃないと何度言えば…」
どいつもこいつも、と手塚が眉を顰めれば、桃城は焦った様にスンマセンと頭を下げた。
「桃先輩、オレ、ちょっと部長と打ってくるから。打ち終わったら練習戻りますんで」
ボール借りていきますね、と自分が運んできたバスケットから一つリョーマはボールを取り出して部室へと足を向けた。
手塚用にラケットを一つ調達してくるのだろう。
しかし、リョーマが掴んだボールのラインが少しピンクがかっていたのをリョーマ自身は気付いていただろうか。
部室へと向かったリョーマの足取りがとても浮かれだったものを目敏く手塚は見抜いて、呆れつつも少しばかりの喜色を仄めかしながら軽く息を一つ吐いた。
桃城も手塚に倣ってか、微かに苦笑していた。
「すまんな、桃城。少し越前を借りる」
「や、全然構わねえっすよ。思う存分遊んでやってください」
少しだけだから、と手塚は更に自分に言い聞かせてリョーマが向かった部室へと足を向けた。
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「そのボールでラリーをすると?どうなんの?」
「生涯、お互いを離せなくなるんだって」
不二がそう話す後ろの窓の遥か下方で、リョーマと手塚はラリーを始めていた。
pinkish ball about you。
え、と。タイトルはフィーリングです。(またですか)
あの、まあ、的は外れてはおりませんので…ごにょごにょ。
こちらは、9500hit頂きました、町田あきこさんからのリクでございます〜。
「ジンクスにはまっちゃったリョ塚たん」て事、で。
これからはまっていく、という感じですが。
これで一生こいつらラブラブ、という。(笑)
9500hitありがとうございましたっ
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