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キリのいいところまで手元の本を読み終わって、ふ、と何気なく隣を見遣る。
波長がピタリと合う様に、隣席に大人しく座った少年もくるりと大きな目玉を踊らせてこちらを見て来る。

ぴったりと視線が合った瞬間に、何でも無い風にふわりと唇を寄せた。ツンと触れたかどうかも曖昧な程度に手塚の唇に触れて、また少年は自分も手にした本に目を落として、ページを静かに繰る。

図書館という公共の場所の中でいくら人の滅多に来ないスペースだとは云え、よくこんなところでするものだと、柔らかに感触の残る唇に指を当てて手塚は思った。
キスの後も照れるでもなく、何事も起きていなかった様に振舞ってけろりとしている様は若年の年のくせにどういう構造になっているのだろうかと思ったりもする。

ペラリ、と隣の少年はまたページを繰る。
その幽かな音で手塚も、そういえば自分も読書の途中であったことを思い出す。

けれど、それよりも気にかかる事があった。

ツウ、と唇に当てていた指をスライドさせる。
ぴたりとよく添うものだと、思った。

まるで鍵と錠前、寄木細工の様に、この唇はやけに恋人の唇と嵌まる。
キスを重ねているうちに、ぴったりと当て嵌まる様に自分の形が変化したのか、それとも、生まれて来る前から宿命だったのだよとでも云いたいのか、この躯は。

まるで寸分の狂いも無い緻密な設計の下、生まれて来たような形。隣のこの小さな恋人の為だけに。
視線は、再び隣席へ。

つまらない訳ではないのだろうけれど、頬杖を突いて視線だけで手元のページを見ているせいか、どこか不貞腐れた様に見える。
吊り目がちな瞳もこの時ばかりは、それに拍車をかけているのかもしれない。決して目付きが悪いという訳ではないのだろうけれど。寧ろ、愛くるしい対象でしかないのだけれど。

「越前」

その名前だって呼ぶことは凄く好きなことだ。
名前ひとつでこちらを直ぐに向いてくれるところも好き。ん?と短く漏らしてこちらを振り向く。

不意に、その薄く開いた唇が本当にシンメトリーなのか確かめたくなった。
椅子の背に手をついて、上背を伸ばす。ギ、と鳴らなくてもいいのに木製の椅子が音を立てた。













「なに、どうしたの?」

同じ触度のキスの後、首の後ろに腕を回され、一度だけ強く吸われて唇を離された。けれど腕は未だ絡められたまま。
手塚からの攻撃を仕掛けた筈なのに、自分の方が優位であるかの様に面白そうに笑んだまま。

「こういうとこでするのアンタの方が嫌がるのに」
「少し、確かめたかっただけだ」

何を、とは言及しない。リョーマも追及しない。
只、まるで信じていない様子でふぅん、と小さく漏らした。

「ね、もう1回」

首の後ろに掛けた腕を、クン、とリョーマが引く。

「もう1回させて」
「…ん」

いつもなら、人の目が無いとは云え、こういった類の場所では拒む筈なのだけれど、今日は一体どういう心境の変化なのか手塚は自分自身でも計り兼ねた。
ただ、リョーマとキスがしてみたかっただけなのだろうと思う。殆ど毎日しているのに。

首の後ろの腕が再度、手塚をリョーマへと手繰り寄せる。
手塚も椅子の背で身体を支えつつも、リョーマに委ねた。


唇の先がツンと触れあうところから、綺麗に添わる。
少しだけ、リョーマが顔を傾ける気配がする。少し触れた唇の先が少し左に滑ったから、そう気付いたのだと思う。

全てを宛てがわれて、ああ、矢張りな、と得心がいった。
項で組まれていた腕が解かれて、するりと動く。耳の後ろと、肩の上と。
思えば、いつも据えられるこの両手も、据えられる場所とぴたりと合う。手の平から指の先。添えられてそれで漸く一つの形になるように、ぴったり、と。

「ん……っ」

声を漏らす隙間を与えてくるのはいつもリョーマだ。
左回りに緩く首を傾げて、キスの角度を変えて。その時に少しだけ手塚の唇に隙間を作るのはきっとわざとだ。
キスする時に漏らすアンタの声っていいね、なんてついこの間嘯いていたから、多分、間違いはないのだと思う。

意識しながら口吻けを交わせば、気付くことが多いのだな、と離れていきそうな気配を何とかつなぎ乍ら手塚は思う。
今、リョーマは何を思っているのだろうかと、そんなことすら気になってきた。

最後に卑らし気に唇で音を立てて、リョーマが離れていく。一度離れて、また少し触れて、それでラスト。
名残惜しさでも覚えているのかと思えば、ついつい吹き出してしまった。
リョーマもつられた様に、ふ、と吹き出す。こつり、と軽く額同士を当てる。

「ね、もう1回」

くるり、とまた零れそうな大きな目が手塚を見る。
ついさっきと同じ科白。

「またか?」
「もう1回したい」

ねえ、いいでしょ、と強請ってくる最高位の好意を持つ相手になど、勝てる術を手塚は持ち合わせていない。
駄々をこねる、のではなく、ふわふわと楽しそうに笑いながら言われれば、それは猶の事。

「キスさせて?」
「…ああ」

くすりと笑って、ひとつの形にまた寄り添った。



















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カスタマイズ。若しくはリョーマの為に形骸化した手塚。
越前に惚れ込んでる手塚を書くのは楽しいですねえ…
キスの描写のレパートリーをもっと増やしたいです。キスシーン書くの好きなので。
チュ、じゃなくてテュ、て感じのあの音をなんとか描写できないかしら…
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