指先
















んんンーはママの味ー

「の、あれでしょ?越前がくわえてるの」
「ん?ああ、あれか」

鼻歌い乍ら、近付いて、隣に立った不二を、乾はノートを眺めていた視線を止めて見下ろした。
栗毛の髪を風に遊ばせ、また不二は小さく歌う。

ふふふーんはママの味ー

不二は、確か、海堂とミニゲームをしていた筈だったのだけれど、乾が想像していたよりもずっと早くに決着が着いたらしい。
小さく通り過ぎているこの風のせいか――――

これは、可愛い後輩の為に白鯨のデータでも収集して教授してやらないといけないだろうか。
3年間仲間をしてきたチームメイトを売るのは、少々、気が引けるけれど。

「スティックタイプなんて出てたんだね。知らなかった」

ページを繰って、膨大なデータの中から、目的のページを探す途中、鼻歌を止めた不二がそう言う。
視線の先は、コートを囲うフェンスの向こうに広がるグラウンドを遅刻の罪により、部長直々に走らされている期待の新入生の姿。
鮮やかなブルーのレギュラージャージをはためかせ、トラックを駆けるその口許には、白く細い駄菓子が咥えられていた。

ふっふふふーんはママの味ー

「手塚に牛乳も練乳も禁止されたからね。苦肉の策だったんだが」
「結構、気に入ってるみたいだね、越前」

小さい頃、僕も食べたなあ。
懐古した顔で、不二は小さく笑った。

そんな不二が指摘した通り、トラックで罰走するリョーマの足取りは軽い。
日頃の鍛錬のせいで、持久力が付いていることも、多少は作用しているのだろうけれど、息を荒げることもせず、鼻歌すらゆったりと歌い乍ら、軽快に進む。

ミふふーんはママのあじー

その走り方は宛ら、小春日和の中を晴れやかにスキップする子猫宛ら?

「あれの方が牛乳の味、濃厚じゃない?しかも甘いし。…越前はむしろ嫌いかなあ、と思うけど」
「普通の丸い方のあれは、どうもお気に召してはくれなかったんだが、あの形ならいいらしい」
「あの細長い形が?」

形が変わったところで、味は変わる筈もない。
形ひとつで、何がどうリョーマに心境の変化を齎したものか。

小難しいなぞなぞでも出されたかの様に、俄に不二は笑顔を曇らせた。
腕を組んで、うーん、と唸り、独特のあの頬杖のポーズで何だろうなあ、と漏らす。そんな不二のシンキングタイムが明けるのを待ちつつ、乾は先程のページを繰る作業を再開した。

「越前の好物筆頭は………………―――」

隣でノートが繰られる音を聞きつつ、思考を巡らせた結果、不二が注目したのは『越前リョーマの好きなもの』
好き嫌いの差は、非常に激しい彼だ。好きなものはとことん好き。好き以下のものには、微塵も興味を抱かない。

そんな彼の、好きなものの頂点にあるものは―――、

視線をきょろきょろと回して、不二は該当した『それ』をコート内に探した。

練習を続ける部員達。
跳ねるライムイエローに、それを凪ぐラケット。
テニスも、リョーマの好物のひとつではあるけれど、それ以上のもの。

ベンチに置かれた、飲みかけの彼愛飲の炭酸飲料。ほぼ毎日買っているのに、飽きることは無いらしい。
あれも、幼少の頃に飲んだ記憶が不二にはある。
けれど、あれでもなくて。

白く、そして細いもの。

「……ああ、まさか、ひょっとして…?」

巡らせた視界の中で、目的のものを見付け出して、不二は紙面に没頭したままの乾を振仰いだ。
回答に見当をつけたその顔は、苦笑を禁じ得ない。

「恐らく、御明察」
「えー……それじゃ、越前は今、」
「ああ」

こくりと頷いて、乾はノートを閉じた。
必殺技の攻略方法は、まだ分析段階で、とてもではないが、後輩に指南してやれる程、判明していなかった。

「あいつは今、手塚の手をしゃぶったつもりで罰走中だ」
「それはまた……」

楽しいペナルティタイムだね。







後日、どこから情報を仕入れたものか、その思惑を知った手塚により、スティックタイプのミルキは部内持ち込み厳禁の命が布かれた。

















指先
ディルド代わりにも4、5本準備もされていたに違いない。
最近、見かけないですね。スティックタイプのミルキー
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