窓を開いて
















O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?

日をよく取り込む大きな窓を開き、バルコニーに出た彼女は、独り言を始めた。



ロミオ様、ロミオ様。どうして、あなたはロミオ様でいらっしゃるの。








「Oh, Daring, why are you it name?」 「何故と言われてもな…」

窓にごつんごつんとテニスボールをぶつけ、呼ばれて、窓を開けた手塚目がけて、リョーマはそう声を投げた。

愛しい人、どうしてあなたは、その名前なの?

自宅の庭に、ぽつんと一人立ったリョーマを、手塚は自室の窓の桟に寄り掛かり乍ら胡乱気に眺めた。
部活も終わったこの宵の始まった時刻に、とんだ暇人が居たものだと。

明日は、もう5周ぐらい、グラウンドを走らせても良さそうだ。

「何用だ?」

ドアベルを鳴らさず、横着に人を呼び出した後輩に、手塚がそう問いかけるも、

「Leave your family and give up your name. Or else, say that you love me if you do, I will no longer be a My name.」
「…………おい、越前」

手塚の言葉など、左耳から右耳へとさらりとスルーして、先程の言葉の続きだったらしい台詞を口にした。
あっさり躱された手塚は、苛立ち気味に眉を顰めた。
それでも尚、リョーマは手塚の言葉を聞かない。

「You are not my enemy, only your name. Why is a name so important?」

よく眼を凝らせば、庭に立って劇口調を吐くリョーマの周囲には、テニスボールが幾つも転がっている。
…どうりで、引っ切り無しに窓へとボールがぶつけられる訳だ。手塚は合点した。
そういえば、2、3球一気に窓を打ち鳴らしていた気もする。
よくぞ、罅の一つも入らず、この窓は無事に保ったものだ。

「A rose will still smell just as sweet even if it has a different name!」

雨風に晒されて、若干、水滴の跡は残る窓ガラスに手塚の視線が動いたのが気に食わないのか、リョーマは突如として、そう声を張り上げた。
庭に転がしてあったボールのひとつを掴んで、手塚へと投げる。こっち向けよ、とでも言いた気に。

向かってくるそれを片手で受け止めて、彼のお望み通りに手塚は視線をまたくれてやる。

あの声量では、近所迷惑になりかねない。
ボールを受け取った手とは別の手の指を一本立てて、お静かに、と手塚は唇にそれを宛てがった。
手塚からの注意に、ウインクひとつでリョーマは答えた。

「Daring, you will still be just as dear to me even if his name is not now.」

人の話を聞く気はないらしい。突飛なリョーマの行動は最早日常茶飯事だ。
取り敢えず、見ていてやれば、それでいいのだろうかと、手塚は桟に頬杖を付いて、ぼんやりと勝手に舞台に仕立てあげられた、夜の庭を眺め下ろした。
今日は、月が快晴。スポットライトには持って来いだろう。

持ち前の眩さも併せもって、光彩陸離にあの場所は夜の帳の中に浮いている。
その舞台の中央で、小さな役者は、さもうっとりと目蓋を下ろした。

演技がかって掲げられた指の先は、誘う様に、窓辺の手塚へと。

「Darling, give up your name, and take me instead」

夜霧に、語尾は霞む。それは、どこか懇願する調べに似て。
それで、最後だったらしい。リョーマは俄に目を開いて、手塚に向けて差し出していた手をまたポケットに収めた。
手塚も、中途半端な終演だとは思いつつも、頬杖を解いた。

「それはお前の役割だろう。いつまでも、越前の名にこだわるな」
「こだわってないよ」

こだわってないから、と言い置いて、

「名前で呼んでよ」
「明日な」
「アンタ、昨日もそう言った」
「いい加減、しつこいぞ」
「いいよ、アンタが、うんって言ってくれるまで言うから」

それじゃあね、と実にあっさりとリョーマは身を翻し、庭にばら巻いたままのテニスボールはそのままに、帰路へと駆けた。
困り果て、呆れた溜息を漏らしてから、手塚は窓を閉めた。

庭に放りっぱなしのあのボールの数々は、俺が回収して明日部室へ持っていかねばならないのか。


















窓を開けて
一人ロミジュリごっこ。意味不明なテキストですいませ……。ものすごい自己満だとは思いつつも…。
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