余裕なんて見せないで
















「や……っ!」

根元までずぶずぶと音をたてられて、後穴に挿入されて、咄嗟に手塚の口からそんな小さな叫びが出た瞬間、口を塞がれた。
天地が普段よりもぐっと傾いた真向かいに居たリョーマの、手、によって。

過剰な運動の後にも似た荒い呼吸の最中に、酸素の通り道を塞がれ、小さなパニック状態に手塚は陥った。

息が焦り濁った音を立てて、塞いだリョーマの手の端から零れ出る。

「ヤ、じゃないでしょ?この期に及んで余裕があるなんて、ナマイキ」

限りなく酸欠に近い状態の真上で、どちらが生意気なのか、小憎たらしい顔でリョーマは微かに笑顔を執った。
その後に、漸く手塚の気道を塞いでいた掌を離した。外れたその手は、様々な原因のせいで赤く染まった手塚の頬を辿り、汗の粒がじわりと浮かび続ける肌へと降りた。

手塚は、吸い込めなかった酸素を大きく摂り込む。

「…お前、殺す気か…」
「まさか。アンタ殺しても、得なコトなんて一個もないじゃない」

寧ろ、亡くして悲嘆に暮れさせられるのはこちらだと、不敵に口角を擡げたあの顔のまま、リョーマは続ける。
照明を落としているせいで空気が仄暗い。只でさえ狭い視界を更に狭められたその手塚の視得る世界の中で、額の汗で貼付かせた前髪を、手塚は腕を伸ばして掻き上げた。
向こうも、熱い。綺麗に弧を描く額を触れる指が、焦げそうな感覚に陥った。

ああ、余裕が無いのか、とその体温に手塚は淡々と感想を覚える。
だから、余裕をそんなにも持って、とこちらに僻んでくるのか、と。

「余裕など……――」

ハ、と手塚は息を吐き出す。嘲笑を孕ませた嘆息。
余裕など、ある筈がない。
現に、リョーマに行為を中断されるまで、手塚の意識は此処に在るようで無かった様なものだ。
だから、常時の己では到底出せない甘い声を自然と発していたし、ここまで辿り着いた流れで大胆に脚も開いてその奥にリョーマを招き入れている。

何を持ってして、余裕があるなどと難癖を付けてくるのか。
未だ完全には抑えきれない呼吸で、手塚がそんな意味で問いかければ、少しも間を置かずにリョーマは否定してくる。

「やだって言えるのが何よりの証拠じゃない?っていうか、それ、失礼だからやめて」
「失礼…?」
「オレに対して」

息はお互いまだ弾む余韻を残しているとは言えど、どうしてこんなに淡々と会話をしているのか、受け答えをする頭の片隅で手塚は考える。
下肢の入り口は、リョーマの容積で押し広げられて、確実に痛覚が反応しているというのに。――痛覚、とは謂えども、快楽を呼び覚ますには丁度良いくらいなのだけれど。

「イれてんのに、ヤダって拒否されてんだよ?それってすごく失礼なことじゃない?」
「…そう、か………?」

そうなのだろうか、ともう一度手塚が脳内で反復させるうちに、リョーマがそうだよ、と肯いた。
それでも尚、手塚はそうなのだろうか、と自分に問う。正解なんて知らないが。

「では………お前は、俺にどうしろと?」

リョーマを上目遣いで伺えば、待ってましたとばかりに一際大きく、口の端が吊上げられた。

「ヤダ、って言う代わりに、イイ、って言ってみて?」
「イ……」

思わず、手塚は絶句。
日常会話の端々でも、意図せずに使う言葉だけれど、それ単体で、しかもこの場面でそれを口にするのは、何だか異様に恥ずかしい気がした。

「イイ、って、アンタの口から、アンタのあの声で聞きたい」

その言葉ってつまり、オレの技術を褒めてくれてる様なものでしょ?
リョーマの肩越しに、背中から生える黒い羽根が見えた気がした。パタパタと悪戯めいて羽ばたいて見せたりして。

こういう時ばかり、口達者だ。裏返せば、普段口数が少ないリョーマがこれ程饒舌な時というのは、余裕の残量がそう残っていないということだけれど。

若干の抵抗を感じて、手塚は思わず押し黙る。
確かに、こうして勘案出来るということは、リョーマが言う様に、余裕があるのかもしれない。
鼓動と、それに伴った体温からは、余力は残していない風に思えるのだけれど。我が事乍ら不思議な事もあるものなのだな、と手塚は思案に暮れた。
そして、そうしている間に、リョーマの方が颯々と焦り切れた。

手塚の脚が、抱え上げ直された。上半身が、この世の原理に則ってシーツに沈む。

「それに、イイ、って言えれば、部長のモチベーションも高まるから、さ」

抱え上げた脚の間に埋めた腰を一度引いて、そして打ち付けた。
冷静さを取り戻しかけていた手塚の自我も、リョーマの動きと共にまたどこかへと掻き消える。

「…ぁ…っ! …ヤ……――」
「ヤ、じゃないでしょ? イイ、でしょ?」
「んぅ……っ  あっ…! ……――ハ…ッ」
「イイ。言ってみてよ、ねえ」
「ァ…ッ ん…………、ふ…――んッ」

出されて、挿れられて。
跳ねる躯を、リョーマの肩口に立てた指先で必死に取り抑える。それでも、加えられる律動に手塚の痩躯は動きを止めることは出来ず、ボルテージが次第に上がってきた頭に、リョーマが呪文の様に手塚に言わしめさせたい言葉を呟き続けるものだから、

「イ……―――」

イイ、と余裕を遂に無くした手塚は小悪魔の思惑通りの言の葉を漏らした。



















余裕なんて見せないで。
獣みたいなすごいセックスをするお二人が夢です。書けないですけどね…!誰か書いて…!
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